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その5 お魚屋さんを拉致るお手伝い


「おはようなのだ」


 次の日の朝またキルギルスがやって来た。


 やって来たと言っても歩いて来たわけでも、飛んで来たわけでもない。

 立っているアルクルミの真下に開いた黒い穴から、顔を出して見上げている。


「おはよう、キルギルスちゃん。でもパンツ越しに挨拶するのはやめて欲しい」


「ファイヤー人食い鳥の柄がカッコよかったのだ」

「ただのヒヨコ柄です」


 キルギルスは店内をきょろきょろと眺めている。まだ二日目だし、珍しいのだろうか。


「あ、そうそう、はいこれ」


 アルクルミがキルギルスに渡したのは、一着の上着である。

 魔族モーシャウントの上着が綺麗に洗われて畳んであるのだ。


 キルギルスはそれを受け取ると、また黒い穴を開いてその中に飛び込み、すぐに手ぶらで戻ってきた。


「ちゃんとモーちゃんに渡して来たのだ。よかった、これでお使いが遂行できたのだ」

「キルギルスちゃん、お使いご苦労様」


 あれ? とアルクルミは思う。

 ここに来た目的が終了したのに、どうしてこの子はここにいるんだろう。


「あ、あの」


 キルギルスはそう言いながらチラっとコロッケを見る。

 ああ、そういう事か。


「食べていいわよ。昨日キルギルスちゃんが仕込んでくれたジャガイモを、お母さんが朝一番で揚げてくれたんだよ」


 キルギルスにコロッケを一つ渡すと、それは一瞬で消えた。


「んあああああああああ」


「だから揚げたてだから熱いって、一口で食べないでふーふーして食べようよ」

「やっぱりこれは、美味しすぎるのだ! サクサクなのに中はホクホク。何度食べても至福の食べ物なのだ!」


 絶賛するコスプレ少女のお陰で、またもや朝からコロッケが飛ぶように売れていく。

 この絶叫宣伝少女の威力は凄すぎる、朝の分が速攻で無くなって完売である。


 今日も冒険者の町は観光客で溢れているのだ、ここで品切れになるのはとても痛い。

 店の売り上げは、アルクルミのお小遣いに直結している大問題なのだ。


「キルギルスちゃんは、お使いが終わったから今日はもう帰っちゃうの?」

「遊ぶのか? いいのだ、どーせやる事他にないし、モンスター並べとか?」


「そ、それはちょっと……忙しくて遊んでられないけど、実はキルギルスちゃんに手伝って欲しい事があって」


「大丈夫、お手伝いはまかせるのだ! ドラゴンの散歩、人食い植物の草むしり、火山の溶岩の掃除に手入れと何でもこい!」

「うちの店ではそんな恐ろしいお手伝いは無いかな」


「何をするのだ? スライム練りか?」


 スライム練りというのは遊びなのだろうか、それとも仕事なのだろうか。少し気になるのである。


「赤いスライムとお花を練りこむと、花柄のスライムができるのだ。面白いのだ」

「何それ可愛い」


「女の子の服だけを溶かすスライムなのだ」


 全然可愛くなかった……


 世の中に存在してはいけないスライムじゃないの。


「ス、スライムはもういいから。まず最初に、お魚屋さんに行ってキスを連れてきて欲しい、昨日会ったでしょ」

「ほいきた合点承知之助なのだ」


 そう言うとキルギルスはすっ飛んで行った。


 ど、どこの言葉だ今のは。でもお魚屋さんの場所わかるかな、反対方向に走って行ったけど。


「連れて来たのだ!」


 キルギルスは一瞬で戻ってきた、小脇にどこぞの少年を抱えている。


「だ、誰? この人誰なの?」

「あれ? この男の子じゃなかったのか? 似てたから間違えちゃったのだ」


 キスチスとはとても似ている感じじゃないその少年に、とりあえず謝る事にしたアルクルミ。

 元はといえば自分がお使いを頼んだせいで拉致られてきたのだ。


 まさか海の向こうから連れて来たりしてなければいいんだけど……


「ご、ごめんなさい、言葉わかりますか。ここ冒険者の町、ワタシ肉屋、アナタどこ来た」

「や、やあ。こ、こんにちはアルクルミさん」


 よかった、言葉が通じる部族のようだ。


「僕、少年少女防災団やボランティア団で、いつもアルクルミさんとご一緒してるマリダンです。アルクルミさんの事を前から可愛いなと思ってて、いやー家に招待されるなんて照れるなあ」


 誰だっけ? こんな人いたっけ?

 ポカーンと自分を見ているアルクルミを見て、少年は少し焦ったようだ。


「ほ、ほらこの前も一緒に町の教会とお寺と神殿の防災訓練について話し合ったじゃないですか、僕の案を褒めてくれて」


 だめださっぱり思い出せない、あの時はエロ坊主やエロ神父やエロ神官の討伐で忙しかったのだ。


「とりあえず間違えたのなら、こいつは元の場所に捨ててくるのだ」


 さっぱり自分の事を覚えていない事にショックを受けている少年は、そのままキルギルスに回収されていった。青春の甘酸っぱい思い出となった事だろう。


 キルギルスはすぐに戻ってきた。


「さっきは間違えたけど、今度は自信があるのだ。今度は完璧だと自分で自分の仕事にうっとりしてしまうのだ」


 そういってキルギルスが抱えてきたのは魚屋のオジサンである。


 惜しい! 確かに似ている、親子だし。もっと若くして性別も変えたら完璧だった。


「や、やあ。こ、こんにちはアルクルミちゃん。俺、商店街でいつもアルクルミちゃんとご一緒してる魚屋のオッサンです」

「おはようございますオジサン」


「いやーオジサンこんな若い子にナンパされちゃった。アルクルミちゃんにまで招待されて、まだまだイケるのかな俺」


 頬を赤くしたオッサンにジト目になる肉屋の娘。


「キルギルスちゃん、さっさと元の場所に放してきて」

「いや、魚の放流じゃないんだから、魚屋だけにってか上手いねどうも」


 寒くて風邪を引きそうになった。オッサンというのは本当に恐ろしい。


「なんだなんだ、うちの親父が拉致られたぞ!」


 そう言って店に飛んで来たのはキスチスだ。

 そしてそれを早速小脇に抱えるのはキルギルス。


「発見したのだ。小脇に抱えたこの感触、今度こそ間違いないのだ」

「そ、そうね正解。ありがとうキルギルスちゃん」


「どういたしまして」

「とりあえず下ろしてもらえないかな、私に何か用かアル。ジャガイモ潰し以外なら――」


「早速だけどジャガイモを潰してちょうだいキス。じゃキルギルスちゃん、職人さんを奥に運んであげて」

「あいあいさー!」


 半分気絶しかけたキスチスをキルギルスが奥へと連行していく。


「なんだ、用があるのはキスだったか。男手が必要だろ? せいぜいこき使ってやってくれ。最近肉屋で手伝いをして疲れているせいか、大人しくなってありがたい、カカカカ」


 魚屋の親父は笑いながら自分の店へと帰っていく。

 男手って言ってますけど、あなたの娘は娘なんですよ、と注意したかったがそれはまた今度にしようと思う。


 それどころではない、今日は忙しくなりそうなのだ。


 実は本日、アルクルミには一つの計画があったのである。


 次回 「屋台の準備が完了したよ」


 アルクルミ、早速新兵器を投入する

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