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その4 モンスターのお肉解体ショー


 店の奥ではキスチスが必死にジャガイモを潰しているので、量産体制は整った。

 後はお肉だけだ。


 と思っているうちに、サクサクが本当に三十分で帰ってきた。


 店にやんばるトントンが一体丸々運ばれてきたのだ。

 モンスターの前ではドヤ顔のサクサクが、ポーズを決めて立っていた。


「お待たせー、サクサクっと行って来たよ、サクサクだけにネ! こんくらいのでいいかな? 一緒にお酒を飲んだら美味しそうなやつ選んで獲って来たんだよ」

「どうやったの? 森まで普通に行くだけでも三十分かかるのに」


「馬車を借りてぶっ飛ばして行った、夢の超特急ひかり号だよ!」

「ちょうとっきゅ? なに?」


 ドヤ顔のサクサクはまた謎の呪文を唱えている。

 アルクルミにはなんだかよくわからないけど、どことなく古臭いイメージが漂うのだ。


 とにかくこのままではいけない、アルクルミは早速包丁を用意する。

 モンスターは倒された後でしばらくすると、跡形も無く消滅してしまうのである。


 二時間は大丈夫だが、さっさと肉に解体してしまわないといけない。

 モンスターは一旦肉にさえしてしまえば、腐り難い保存が利く便利な食材へと変化するのだから、世の中うまくできているものだ。


 彼女は手が離せないので、サクサクへの対応は父親に頼んだ。


「お父さん、サクサクがお肉取って来てくれたから彼女に報酬お願い」


 店の前にドーンと置かれたモンスターを見て、店の主人は目を丸くしている。


「こりゃすげーな、やんばるトントン一体丸ごとかよ。ホント助かるわ、ありがとうサクサクさん」


「サクサク十七歳です!」

「あ、ありがとうなサクサクちゃん」


 サクサクはキラっとかテヘっとか、モンスターの前で謎のポーズを取ってお客さんを喜ばせている。


「俺の大切な酒を飲み干す悪魔の姉ちゃんだと思ってたけど、いい子だったんだなサクサクちゃんは」


「同じお酒で繋がった酒飲み同士、仲良くしようよオッチャン!」

「おおよ、今度一緒に飲もうぜ! 取って置きのがあるんだ……ああ、あれサクサクちゃんに飲まれちまったんだ」


「美味しかったよ!」

「くうう~そうだろうな、とほほー」


「泣くなってオッチャン、今度もっと美味しいお酒持ってくるから」

「ほんとか! サクサクちゃんが天使に見えてきた!」


「私はいつだって天使だヨ!」


 これは不味い。ただでさえ最近お父さんは飲みすぎなのだ。飲み仲間ができるのは不味くないか。


 でもどーせ放っておいても飲むのだから、サクサクがいっその事、家にあるお酒を全部飲んでしまえばいいのではないか。


 その為にはサクサクの持込は阻止しないといけない。あとでお願いしてみようか。

 色々とプランを考えながら、肉屋の娘がモンスターを肉に解体しはじめた。


 これが観光客に受けた。

 モンスターのお肉解体ショーなんて、めったに見られるものじゃないのだ。


「うわー、すごいのやってる!」

「冒険者の町に観光に来た甲斐があったな」


「らっしゃいらっしゃい! ついでにコロッケはどうだい? 美味いぞー」


 すかさず親父が便乗する、禿げていても商売人、儲けのチャンスは見逃さない。


「コロッケって何だ」

「食ってみっか」


 肉屋の前には恐ろしい人だかりができて、新たに追加されたコロッケも飛ぶように売れたのである。


 もちろん新商品のメンチカツも恐ろしい速度で売れていった。


「あー潰した潰した、多分百年分くらいは潰したよ。しばらくジャガイモは潰さずに丸ごと食うことにする」

「キス、追加お願い」


 フラフラになって奥から出てきたキスチスに、アルクルミが追い討ちをかける。一瞬気を失ったようだ。

 気絶しかけたキスチスを、キルギルスが支えて奥に引きずって行った。


「職人の腕が試されているのだ!」

「職人は廃業するー。はーなーせー」


 結局キスチスはとんでもない数のジャガイモを潰し、一ミリも動けなくなった。

 残りのジャガイモはキルギルスが鼻歌交じりで楽々と潰していく。


「これ意外と楽しいのだ、スライム練りみたいだ」


 さすが魔族だ。この子を店で雇えないだろうか。

 と思うのだが、さすがに魔族を雇うのは色々と無理がありそうである。


「スライム練りも面白いぞ。赤いスライムと青いスライムを練りこむだろ、そうするとゴジュメ色のスライムができるのだ」


 何色だそれ――!


「紫色って事?」

「ううん、紫色はオバチャンの頭の色なのだ、全然違うのだ。ゴジュメ色はゴジュメ色なのだ」


 魔族のおばさんも紫に染めるんだ。

 アルクルミはどうでもいい知識を得た。


「じゃ、問題なのだ。青いスライムと黄色いスライムを練りこむと何色になる?」

「普通は緑色だよね」


「緑色は草の色でおもちゃ屋のオッサンの頭の色なのだ、全然違うのだ」


 知りませんよそんな情報。


「何色になるの?」

「ゴジュメ色」


 それも同じ色なんだ――


「じ、じゃあ、赤いスライムと黄色いスライムを混ぜたら?」

「ゴジュメ色」


 全部同じじゃないの。


「白いスライムと赤いスライムを混ぜてもピンクにはならないんだね、残念」


 ピンクのスライムなんてファンシーで可愛いんだけど、全部ゴジュメ色じゃどうしようもない。


「ピンクのスライムができるに決まっているのだ」

「そこはゴジュメ色じゃないんだ、でも良かった」


 可愛いピンク色は、ちゃんと優遇されている。

 この世界にはちゃんと可愛い神様がいるのである。肉屋にはさっぱり訪れてはくれない神様だけど。


「ピンクのやつは何でも溶かすのだ。山や集落を溶かしかけた事があって、それ以来ピンクは練りこんではいけない決まりになった」


 全然可愛くなかった……


 そうこうしているうちに夜になり、眠くなったらしいキルギルスは魔族の里へと帰って行ったのである。


 魔族って夜に活動するイメージがあったんだけど……


 アルクルミは先ほどまで鼻ちょうちんをぶら下げて、うつらうつらとしていた魔族の娘を思い出して笑ってしまった。


 帰るといっても、歩いて帰ったわけではない、もちろん飛んで行ったわけでもない。

 店内に客やアルクルミの両親たちがいない時に、床に開いた黒い穴からスポンと消えただけである。


 それはワインセラーで見た時と同じ光景だった。

 魔族の里にでも繋がっているのだろうか、便利な移動手段である。


『それじゃ今日はもう帰るのら。また明日モーひゃんの上着を取りにくるのわ』


 ただ、そう言いながら寝ぼけたキルギルスが、ぐったりしたキスチスを小脇に抱えて穴に消えようとしたのだけは焦った。


 一見すると、可愛いコスプレ少女が大きな人形を小脇に抱えた微笑ましい光景だったのだが、危うくキスチスが海外旅行へと旅立ってしまう所だったのだ。


 起きて見知らぬ天井を見て。


「ここ、どこ?」


 となっていただろう。


 そして「ま、いっか」と適当に観光して帰って来そうだ。


 次回 「お魚屋さんを拉致るお手伝い」


 キルギルス、お手伝いをする

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