その2 魔族のカチコミ来たー
まさか魔族が自分の家まで特定して殴り込みに来るとは思ってなかった。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
必死に謝った、許してもらえるだろうか。
チラ。
キルギルスはぷくーっとふくれている。
お、怒ってる――!
とうろたえていたら魔族の少女は涙目になった。
「だめなのか、なんで私はだめなんだ。モーちゃんとだけ友達になってずるいのだ」
「あ、あの、まさかわざわざ私と友達になりにやって来たというオチじゃ」
「それ以外何があるのだ」
す、すごい。魔族の行動力半端ない。
「ついでにモーちゃんの貸した上着を返して貰ってくるという、おつかいも頼まれたのだ」
ああ、そっちの方が多分本命なのね……
「そっちはついでだって言った。友達を作れるか否かが最重要事項なので」
「わ、私みたいな人間の小娘でよければ、友達に」
「なってくれるのか! わーい、友達ゲットしたー!」
キルギルスが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねているのを見て悪い気はしない。
なにしろ魔族の里からはるばるやってきてくれたのだ、どこにあるのかはわからないけど。
「さて帰るのだ」
「えーと、待って」
とりあえずアルクルミは引き止めた。いくらなんでも行動がタンパクすぎるし、上着の事もあるけど、もう少しこの魔族の少女と話がしてみたかったのだ。
「良かったのだ、さっきは断わられたのかと思ってショックだったのだ、高度な心理戦を仕掛けてくるとはさすがなのだ」
「いやさっきは殴り込みだと思ってたから」
「殴り込み? そうなのだ、魔王さまがこの町に殴り込みをかけて滅ぼす前に、友達を作っておきたかったのだ」
うう、殴り込みの部分はあながち間違いではないのね……今じゃないだけで。
「何して遊ぶ? ああそうだ、その前にモーちゃんの上着だった」
一応ここに来た使命は覚えてたんだね、今思い出したのかもしれないけれど。
「モーちゃんはアレを着てないと、いまいち寒そうで締まらないのだ。アレはモーちゃんのトレードマークみたいなものだからな、着てないと誰だかわからない。魔王さまにお前誰じゃ? と聞かれてショックを受けていたのだ」
「ごめんなさい、私のせいでそんな一大事に」
「いいのだいいのだ。本当はモーちゃんが取りに来る予定だったけど、モーちゃんはペナルティで魔王さまの部屋の掃除をさせられているし、モーちゃんが町に現れたら大騒ぎになるからって」
確かに今の状況の冒険者の町に魔族の登場は、いよいよ終末が来たとパニックを引き起こすだろう。
「私が現れたって騒ぎになるのに意味がわからないのだ。実際騒がれたし!」
「ええ? 魔族ってバレてたの?」
「魔王さまのコスプレかと思われて注目度が凄かった。意味がわからない、魔王さまは私みたいにチンチクリンじゃないよ?」
「みんな魔王を見た事が無いからねえ、話に聞くイメージにピッタリなんだよキルギルスちゃんは」
ふーん、とキルギルスは自分の姿をあれこれ確認している。少し嬉しそうだった。魔王は憧れの存在なのだろう。
「それにしても、よく私の家がわかったねえ、探すの大変だったでしょう?」
「魔族と戦っても勝てそうな、凶暴な女の子の家を教えてくれと言ったら、ここだって教えてくれたよ?」
どこの誰だ、ちょっと注意しないと。
「お魚売ってるお店で、白く燃え尽きた感じの男の子が教えてくれたのだ。干からびていたからお水をかけてあげたら、水を得た魚みたいになってた」
キスとは後で話し合いをしないといけないかも。
「で、モーちゃんの上着なんだけど」
「そうそう、そうだった。でも、あれ? 借りた上着はワインセラーの棚に畳んで置いておいたはずだけど」
「昨日お酒の蔵には行ったのだ。酔っ払いのお姉さんが黒いタオルケットを掛けて、お酒のビンを抱き締めて寝てたから帰ってきたのだ」
サクサク――!
行くんじゃないかなーとは思ってたけど、早速お酒を飲みに行ったのね。
あんな目に遭っといて懲りない人だ、脱力感を覚えてしまう。
「ごめんね、あの酔いどれお姉さんには後できつく言っておくから」
「悪い酔っ払いを叱るの? 悪酔いはだめだからねー、きつくきつく言ってあげないとネ!」
そう言いながら入ってきた女性客にアルクルミはジト目になる。
あ、あなたの事です、サクサク。
「その点私は悪酔いはしないからね! 楽しく飲んで楽しく絡む! 楽しければ世の中ハッピー!」
アルクルミはつっこみは入れない。
何故ならもっと重要な物が目に入ったからである。
なんと魔族モーシャウントの上着をサクサクが着ていたからである。
「ああこれ? タオルケット代わりにちょうどいいと思って寝てたんだけど、使った後そのまま着てきちゃった」
「うわー、しわしわになってる、あちこち汚れちゃってるし。ごめんね、これちゃんと洗濯して返すから」
「そんなの別にいいのに。モーちゃんどーせ今、ペナルティで魔王さまのパンツとか洗濯させられてるのでついでに洗うと思うのだ」
「そうはいきません。サクサク、ほら脱いで脱いで」
「ごめん、私ストリップはちょっと……ハッピーにはなれないかな。見るのはいいけど」
「上着を脱いで!」
「コロッケパン下さいな♪」
「ん、な、何?」
上着を脱ぎながらサクサクが唐突におかしなものを注文した。
「今日はコロッケパンを買いに来たんだよ」
「パンはパン屋に行ってもらわないと……」
「肉屋にコロッケパンが……無いだと! あ、無くて普通か」
「コロッケパン、確かに想像しただけでも美味しそうだけど」
「ねーねー、コロッケパンでお酒をキューっとやりたいんだよ、売って欲しい」
そんなものでお酒を飲む人なんかいるのだろうか。
「それがここにいるんだな! コロッケパンでお酒を飲むおん……少女サクサク、ここに参上! キラっ」
ドヤ顔のサクサクが『というわけで早く寄こせ』とだだをこねだした。
どういうわけなんだろうか。
「いっその事観光客相手に売ってはどうかな、売れるよきっと」
売れるというワードにアルクルミの商売魂は少しくすぐられる。
「うーんコロッケパンねえ」
やってみる価値はありそうかも?
次回 「コロッケを増産せよ!」
キルギルス、コロッケを食べて叫ぶ




