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その4 モンスターを落とし穴に落としてみた


 カレンが木の間から出て走ってきた。


「来たよ来たよ、モンちゃん来たよ! ごあんなーい」


 呑気な声を聞いて沈んでいたアルクルミの表情に笑顔が戻る、クスっと笑ってしまったのだ。

 カレンは真っ直ぐ落とし穴に向かって走っている。


 その後ろを追いかけてくるのは、やはりこの森の主力モンスターの〝やんばるトントン〟だ。

 大きさは通常クラスといったところだろうか。


 アルクルミはハラハラしながらカレンを見守る、緊張して肉切り包丁の柄を硬く握り締めた。

 もう少し! すぐそこが落とし穴よ、カレンもっと速く走って――! 急いで!


 カレンは落とし穴まで進むと――


 そのまま落ちた。


「エ……」


 固まるアルクルミ。


「カレン!」


 カレンが落ちた穴に続けて落ちるモンスターを見て、友の名前を叫びながら駆け寄ると、モンスターは少し大きめだったのか穴に完全に挟まっている。


 上半身から上だけが地面に出ていて、何かのオブジェみたいだ。そういえば商店街の近くの公園にこんなオブジェがあったっけと、アルクルミは思い出す。


 小さい頃はよく跨って遊んだのだ。

 ちょっと跨ってみようかな?


「違う違う! そうじゃなくて!」


 少女は可哀想に混乱しているのだ。一人でノリつっこみみたいになってしまった、恥ずかしい。

 顔を真っ赤にしたアルクルミは、怖いのも忘れて必死に武器でモンスターを突きまくる。


「やめてよ! どいてよ! カレンが潰れちゃう! オブジェのふりして私を騙そうったってそうはいかないんだから!」


 だが非力な少女ではチクチク刺すのが精一杯で、やがて半分はみ出していたモンスターは穴から出てきてしまったではないか。

 今、アルクルミの前には立ちはだかる大きなモンスターがいる。見上げるそれは山のよう。


 さっきはカレンの事で頭が一杯だったアルクルミだが、相手がモンスターだった事を思い出し恐怖で顔面蒼白だ。

 今度は自分が絶体絶命なのだ。


 終わった――


 カレンが掘ってくれた穴がちょうど私のお墓になるなんて、人生わからないものね。自分で掘らなくて本当に良かった。

 肉屋の少女は静かに手をあわせる。


 しかし散々彼女にチクチクされたモンスターは、それで嫌気がさしたのか、肉屋の肉切り包丁を見て嫌な予感がしたのか、そのままくるりと背を向けて走り去ってしまった。


 固まったままそれを見送っていたアルクルミ、だが『ハっ』と思い出したように慌てて穴を覗き込む。


 まずい、モンスターが外に出た時に土が崩れてカレンの姿が見えない。幼馴染の方が先に埋葬されてしまっていた。


「カレンどこ! 返事してよ! カレン!」


 だめだ、掘り起こさないとカレンが窒息しちゃう! 落ちていたスコップを持った時、彼女は後ろから声を聞いた。


「呼んだ? お肉どうなった!」


 見るとカレンである。


 少し離れた地面の草の間から顔を出していたカレンが『よいしょっ』と這い出てくるのを見て、アルクルミは慌てて駆け寄って幼馴染を助け、手を持って立たせてあげた。


 カレンが立っているすぐ横の地面に、小さな穴が開いているのが見える。


「抜け穴……」

「うん、予め掘っておいたんだよ、私の事だからマヌケにも自分が落っこちるかも知れないからね。師匠にも言われてたんだ、あんたは何重にも策を講じなさいってね、えっへん」


 驚かせないでちょうだい……


 安心したアルクルミはへなへなと野原に座り込んでしまった。

 ピーヒョロロロロと頭上で鳥が鳴く。


「そんなんでよく胸を張れるわねカレン、誘い込んで抜け穴から出るという作戦でもなかったみたいだし」

「いいね、今度はその作戦にするよ、アル頭いいね!」


「ふう、穴から顔を出したカレンを見て巣穴から出た〝ジリス〟を思い出したわ。今日のお肉はジリスでも捕まえようかと思う」


「可愛かった?」

「マヌケだった」


「あはははは」


 二人は笑った、とても怖かったから面白くなったのだ。


「お肉取れなかったかー残念。もう一回やる?」

「もういいよ、帰ろう。ジリスと間違えてカレンをお肉にしちゃまずいしね」


 落とし穴作戦はまた失敗しそうな気がしたので、アルクルミは撤収を提案。

 どの道、包丁を持った素人娘とスコップ娘では、モンスターの討伐なんて無理があったのだ。


 こんな二人組でよくもまあ討伐なんかに来たものだ、とアルクルミは我ながら呆れてしまう。

 まあ、カレンと遊べたしピクニックもできたし、彼女としては満足の行く冒険ではあった。


 お肉? どうでもいい。お父さんのお腹のお肉でも売ればいいんだ。

 

「じゃーこの穴埋めとくよ。誰か落ちたら大変だし、遊んだ後は片付けないとね」


 カレンがスコップを持って落とし穴の方に向かって行く。

 今度は私も手伝うよ、とアルクルミが立ち上がり、何かの気配を感じて振り向くとそこに――


 モンスターがいた。


 アルクルミは笑顔のまま歩いていくカレンの後姿を見た。そしてもう一度振り向く、二度見というやつである。

 そしてやはりそこに――


 モンスターがいた。


 次回 「モンスターに襲われたアルクルミ」


 アルクルミ、絶体絶命のピンチ

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