その4 肉屋の娘 VS 魔族
「私は魔王軍の幹部の一人、モーシャウントと申します。あのですねえ、あなた方。万引き犯どころかこれは強盗ですよ強盗。少年少女強盗団は良くありませんね」
そう言いながら現れたのは黒い装備で整えた、黒髪で褐色の肌の男。
人と違うのは背中に翼がある点だ。
「まったく、魔王様がこの周辺においで下さった記念に宴会をやろうとこっそり準備していたものを、人間共がよくもやってくれましたね。これはちょっとただで返すわけにはいかなくなりましたよ、覚悟はいいですか? お説教です」
魔王――今、魔王と言った!
アルクルミたちが動揺する。
「ガイコツ兵程度では頼りにならんとミノタウロスまで用意したのにこの有様とは、やれやれですよ。それにしてもあなた、その姿は――」
魔族の男はセリフを最後まで言えなかった。
アルクルミがドロップキックをおみまいしたからだ。
何故ならアルクルミは現在スカートを穿いていないのである、そして魔族はそこに目をやってしまったのだ。
スキルが発動したアルクルミはそのまま倒れた魔族の背中に乗り、アゴを決めてキャメルクラッチ。
だがさすがは魔族である、ガッタガタになりながら必死にアルクルミを何とか跳ね除けて技から脱出した。
「はあはあ、も、もの共〝動きを止めよ!〟」
魔族の魔法スキルにアルクルミを助けようとしたキスチスは、一ミリも動けなくなった。
相手を硬直させるこの呪文から逃れられる者など存在しないのだ。
「アル……」
しかしアルクルミの自動反撃スキルは終わらない、一歩また一歩と魔族の魔法をものともせずに近づいていく。
こんな姿で動きを止めたらパンツが見られ放題ではないか、彼女のスキルがそれを許すわけがないのである。
「なんなんですか! なんなんですかあなたは、どうして動けるんですか。ぐえっ」
うろたえた魔族にアルクルミはミサイル頭突きを食らわす。
更に魔族の頭を抱え背中から床に叩きつけ、抱えてジャンプして天井に突き刺した。
モンスターならとっくにカクンとなっているが、さすがは魔王軍の幹部だけはある、魔族にはまだ喋れる元気があった。
「こ、こんなところで人間相手に攻撃魔法なんて使いたくはないのですが、やむを得ないですね」
魔族が片手をアルクルミに向ける。
「氷の槍よ、この者の足を凍らせ床に縫いつけよ!」
アルクルミに襲い掛かる無数の氷でできた槍。
しかし彼女はそれを纏めて蹴り飛ばした。
「ま、魔法を蹴り飛ばした!?」
当たり前である、魔法だろうがなんだろうがぶっ飛ばさないとパンツが見られ放題なのである。
アルクルミが突進する、魔族があわてて分厚い氷の壁を張るがそれも蹴り飛ばされた。
蹴り飛ばす時は足を大きく上げるので、魔族としては目のやり場にも困るのだ。でもしっかりと見てしまう。
目の前に瞬時に移動してきた人間の娘に、魔族はなすすべなく吹っ飛ばされて壁に激突した。
『バン! パンパンパンパン』
今見たものを消去させようと掌底を食らわせた後で、往復ビンタの乱れ打ちだ。
「ちょっ待っ! タンマタンマ! 落ち着いてください。と、とりあえず女の子がその格好はダメです」
魔族はボコボコになりながらも、アルクルミの腰に自分の上着を巻いた、意外と紳士である。
「ハッ! 私また! ごめんなさい、ごめんなさい」
「急に普通の女の子に戻りましたね、あなたが怖いんですけど」
「私セクハラを受けるとこうなるんです」
「セ、セクハラ? あ、ああ。見てしまった私にも不備がありましたね。それにしても恐ろしい、川の向こうでご先祖様たちが手を振っているのが見えました」
魔族の紳士的な行動が、自らを人生最大の危機から救ったのであった。
「モーちゃん撤収なのだ!」
その時地面に黒い穴がポッカリと開き、その中から十歳くらいの女の子が飛び出してきた。
褐色で髪は金髪、やはり背中に小さな翼が生え口からは小さなキバが見え隠れしている、この子も魔族なのだろう。
「どうしたんですキルギルス」
「宴会の事が魔王さまにバレた。『わらわを肴に宴会を企てるものは出頭せよ!』ってぷんぷんお怒り中なのだ」
「なんと、魔王様は宴会がお嫌いか」
「昔に宴会の肴にされた嫌な思い出があるとかって……ところでモーちゃんは何でボッコボコの死に掛けなのだ? こいつら誰だ? モーちゃんの友達か? じゃ私も友達に……」
「そんなのは後です、魔族の里に戻りますよ! ではお嬢さん方、これにて失敬。魔王様~」
「ああ! 私も友達――!」
魔族の二人組は黒い穴の中に吸い込まれ、穴が消えるとアルクルミたち以外誰もいなくなったのである。
「なんだったんだ今のは! あ、動けた」
魔法が解けて動けるようになったキスチスが、アルクルミのところにやって来る。
「やべーな、私たちさっきまで魔族と戦闘をやらかしてたんだぜ……とっとと帰ろうぜ……」
「ちょっと待っててね、スカート直しちゃうから。キスはサクサクを起こしてきて」
裁縫道具を出してスカートをチクチク縫い始めたアルクルミに、キスチスは呆れたようだ。
「そんなもん持ち歩いてるのかよ、さすがというかなんというか」
「討伐中はいつどこで服が破れるかわかんないじゃないの」
「戦闘中でもボタンが取れたら縫いそう」
「うるさいよキス」
キスチスはサクサクの所に行った。
「なーアル、サクサク全然ダメだ、酔ってアヒャヒャヒャ言いだした」
「うーん、回復薬じゃ効かないよねえ……」
縫い終わったスカートを穿くと、ポーチの中を見ながら呟くアルクルミ。
父親が酔っ払った時に飲んでいる二日酔いや酔い止めの薬なんて、討伐に持ってきているわけが無い。
「お、サクサクのポーチの中に毒消しと麻痺回復の薬あるぜ」
「それだ!」
薬を飲まされアルコールの効果を打ち消されたサクサクはむくっと起きた、何故だか涙目だ。
「いい感じで酔ってたのに! せっかくのお酒がもったいなーい!」
「どうどう、帰ってから飲んでくれよ、これから草原を帰らなきゃ行けないんだぜ」
「そうかメンチカツだ! 帰ってからメンチカツでお酒飲むんだ! 私我慢するよ!」
「よしよしいい子だサクサクは」
「男の子から母性を感じたよ」
「私は女だ、繰り返すぞ私は――」
二人の会話を聞きながらアルクルミは作業を開始する。
何の作業か、それはお肉の解体だ。
せっかく仕留めたモンスターがいるのだから、ついお肉にしてしまうのは肉屋の娘の宿命なのだ。
「このミノタウロスも言ってみれば牛のお肉みたいなものよね」
荷車に仕入れたお肉を載せて持って帰ったのである。
彼らが帰った後ワインセラーの棚には、魔族の上着がキチンと畳まれて乗せられていた。
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『ジュウウウウ』
「揚がったよ試作品!」
ミノタウロス牛のメンチカツ。
それはこんがりキツネ色に揚がった、アルクルミ渾身の一品だ。
アルクルミの家の台所で、アルクルミ、その母、キスチス、サクサクがそのこんがりと揚がった四枚のメンチカツをそれぞれが手に持った。
因みに親父はまたもや二日酔いで店番しながら死んでいる。
「いただきます!」
『パク』
食べた瞬間肉汁が口の中に広がってジューシーで、外側のサクサク感と合わさって最高の味と食感だ。
「うんめえええええ! なんだこれは!」
「どうサクサク、これはメンチカツになってる?」
「最高の牛メンチカツだよ! お酒! お酒飲みたい、お酒ない?」
「うちの旦那のだけど全部飲んでいいわよ。アル、これも商品になりそうね」
「よーし、量産するよ! みんな手伝ってね」
ミノタウロスで作った牛メンチはこれまた飛ぶように売れたのであった。
ただ、倒したガイコツ戦士だけはどうしてもお肉には解体できなかったのが、肉屋の娘としては残念だった。
骨を犬用のおもちゃとして売ろうかとも思ったのだがやめた。
可愛くないからである。
第9話 「ミノタウロスの牛メンチカツ」を読んで頂いてありがとうございました
次回から第10話になります
次回は温泉回の予定で既に話もできているのですが、本編を追い抜いてしまうので、そちらの話が追いつくまで一旦待機となります
しばらくそのままでお待ち下さい
三週間の待機ですが、途中で別の話が完成したらその間に何か割り込むかも知れません
一応割り込み用としてコロッケパンのお話を準備中です
予定では第10話 「温泉に行こう!」
みのりんやカレンたちと温泉に行くお話になります
酔っ払いサクサクやキスチスその他も同行します
割り込む話が完成したら第10話 「屋台でコロッケパンを売ろう!」
肉屋、パン屋、魚屋の三店舗合同で観光客相手に一稼ぎ、因みに魚屋は労働力です
少々お待ち下さい!




