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その3 ミノタウロスが出たー


 通路から現れた人影に慌ててお辞儀をするアルクルミ。


「ごめんなさい、ごめんなさい。遺跡だと思って入っちゃって、知らなかったんです」


 しかし返事がない。


「そ、そうですよね怒ってますよね。お酒はお返ししますから」


 やはり返事がない。これは相当怒ってるのかな。

 アルクルミが恐る恐る顔を上げると、別の意味で恐ろしいモノがいた。


 なんとそこに立っていたのは三体のガイコツ。

 骨の右手に剣を握り、左には小さな盾。


「!」


 アルクルミは瞬時に後ろに飛びのく!


「すげー、後ろ向きにかなりの距離ジャンプしたぞアル」

「キス、そんな事言ってる場合じゃないわよ、何よあれ」


「やべーよな、ガイコツが歩いてるのなんか初めて見たぜ、筋肉も無いのにどうやって動いてるんだ」


「あんなのが居るって事は」

「ここは普通のワインセラーじゃないってこった」


 キスチスが刺身包丁を構えるのを見て、アルクルミも慌てて肉切り包丁を手に持って構えた。

 二人だけなら元来た通路を全力で逃げ帰ればいい、しかしそれができないのは酔っ払ったサクサクがいるからだ。


 というか、サクサクはどこにいった――?

 アルクルミが慌ててその姿を探すと、彼女は千鳥足でふらふらとガイコツに接近している所だったのだ。


 酔っ払ったサクサクが、三体のガイコツ戦士の前で酒瓶をラッパ飲みしている!


「サクサク!」


 慌ててアルクルミとキスチスが加勢しようと駆け出すが間に合わなかった。


 そう間に合わなかったのだ――


 二人の目の前で、あっという間にやられてしまったのだ。

 やられてしまったのはサクサクでななく、ガイコツの方だったが。


 サクサクはまず持っていた酒瓶で一体のガイコツ戦士の頭を粉砕すると、レイピアを抜き他の二体もあっという間にバラバラにしてしまったのだ。


「こいつら前にも出てきて、お酒飲んでるの邪魔してきたんらよね」

「エエー」


「古代人かな?」

「違うってサクサク! モンスターだよ! お酒は置いて帰ろう」


 アルクルミがサクサクを引っ張っていると、奥からもう一体出てきた。

 今度は大きく人の倍はある、しかも骨じゃない。


 アルクルミたちの前に立ちはだかったのは、牛の頭を持ち、蹄のある二本足で立つ巨大な牛の戦士だ。

 手には馬鹿でかい斧を持っている。


「ミノタウロス……」


 キスチスが驚愕の目で呟く。


「なによそれ、なによそれ」

「もちろん私は話でしか聞いた事ねえけど、ダンジョンを守る番人みたいなモンスターだよ。この前のトロールどころの話じゃないぞこれ」


「ミノ? ミノもいいよねえ。焼肉はお酒が最高なんだよ。よーしこいつ持って帰って焼くか! 焼くぞ!」


 部位の話を始めたサクサクは、口に涎の痕を残してモンスターに襲いかかった!


 こんな怪物を見て涎を垂らせるとか、どっちがモンスターなんだかわかりゃしない。


 モンスターサクサクの一撃!


 は、モンスターミノタウロスの斧で弾き飛ばされたが、彼女は続けて二撃三撃と素早い連打を繰り出していく。

 酔っ払ってるくせに、先ほどの特殊部隊モーモーと戦っていた時よりも動きが速い!


「やっぱり燃料が入ると違うわ!」


 何を言っているのこの人、ねんりょう?

 なんかよくわからない事を言っているサクサクに、アルクルミはジト目になってしまった。


 モンスターはその速度に対応しきれずに、レイピアの一撃を肩に食らってのけぞった。


 のけぞって一瞬動きが取れなくなったミノタウロスの喉元にめがけて、サクサクはレイピアを構えて突進する!


 凄い戦いだ――!


 こんなバケモノ相手に、冒険者はこんな風に戦うのか。これは戦いのプロの仕事だ。

 アルクルミはただ息を呑んでその戦闘を見守るのみ。


 そして……


「くかー♪」


 サクサクが寝た。酔いつぶれたとも言う。

 それはプロの酔っ払いの仕事だった。


 コントだったら、アルクルミもキスチスもミノタウロスもコケているところだが、現実はそうはならない。


 ミノタウロスが寝ているサクサクに斧を振り下ろす!


「サクサク!」


 その寸前に、キスチスがその冒険者を引きずって退避させた。

 間一髪だった。サクサクを引きずった瞬間、それまで彼女が寝ていた床に斧が突き刺さったのだ。


『ブゴオオオオオオオオオオオオ!』


 ミノタウロスの雄たけびだ。

 それは後退したキスチスとサクサク(寝体)の前にいた、アルクルミに対して向けられた咆哮である。


 その迫力のある咆哮を聞いて、アルクルミは恐怖で硬直してしまった。

 身がすくんでしまった獲物にミノタウロスが近づいてくる。


 威嚇して獲物を硬直させて仕留める、圧倒的強者の戦法なのだ。


 だめだこんなの……こんなバケモノ相手にどうしようもない……

 恐怖で見開かれた目からは涙が溢れる。彼女の歯はガチガチと鳴り、手も足も動かない。


 ミノタウロスは獲物の正面に来ると斧を振り下ろした!


「アル!」


 アルクルミはすんでの所で助かった、キスチスが後ろからアルクルミの肩を持って引いてくれたのだ。


 しかしモンスターの一撃で助からなかったモノがいた。

 ミノタウロスの鋭い斧はアルクルミの身体を切り裂くギリギリのラインを通り、逃げ遅れたスカートがバッサリと切られてしまったのだ。

 

『ふわっパサ』


 これは切られたアルクルミのスカートが、彼女の足元に落ちた音である。


『パチン』


 そしてこれはパンツ姿になった瞬間、彼女のいつものスイッチが入った音である。


 彼女は瞬時に凶器である斧を犯人から奪い取ると、膝でその斧をへし折り犠牲になった可哀想なスカートのカタキを討った。


 一瞬うろたえたミノタウロスの左足を持つと、彼女自身の身体を横に回転させてモンスターを床に叩きつけた。


 ミノタウロスは身を起こして少女の顔面を狙うが、すかさずアルクルミは手を離して避ける。

 立ちあがったバケモノは両腕を組んで高々と上げ、一気に少女めがけて振り下ろした!


 その岩をも砕く一撃を、アルクルミは後ろに僅かにずれてスっとかわす。無駄な動きはしないのだ。

 肉屋の娘の数ミリ前を拳が通過して、石でできた床に大穴を空けた。


 床にめり込んだミノタウロスの腕を駆け上がり、その顔面に強力な蹴りを一撃。


 モンスターから下りると、のけ反りながらも攻撃してくるその腕を『パン!』と払い除け、巨大なミノタウロスの身体を抱えてその頭から壁に突っ込ませてしまった。


 牛の怪物は壁に刺さったままカクンとなった。


 ふわっ! パチン! ズドン! (途中略)である。


 とんでもない戦闘シーンにキスチスが口をあんぐりと開けて固まっている。


 先ほどサクサクと特殊部隊モーモーのプロ同士の戦闘を見て何もできなかったのだが、幼馴染みの戦闘はそれを軽く上回っている気がした。


「あ、相変わらずアルのスキルは容赦ねえな。これミノタウロスだぞ、とんでもないバケモノのはずだぞ」


 肉屋の娘はキスチスの言葉に反論はしなかった、というかできなかった。

 何故なら奥からまた一つの影が現れたからだ。


「やれやれ困りましたねえ、お嬢さん方。私が出るしかないのですか」


 それはモンスターではなかった、と言って人でもない。


 たった今倒したバケモノどころの話じゃない存在。それは――


「魔族――」


 次回 「肉屋の娘 VS 魔族」


 アルクルミ、やばい相手の登場に動揺する

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