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その2 遺跡の中のワインセラー


 キスチスは目の前のモンスターを〝特殊部隊モーモー〟と呼んだ。


「え? 何か知ってるのキス」


「この前カレンと釣りに行く時にも出くわしたんだよ。特殊部隊モーモーはこちらから仕掛けなければ襲って来ないけど、熟練の冒険者でも危険だからと近寄らないってさ。あのカレンがお肉を目の前にしてスキルも使わずに逃亡したんだぜ! ぜったいやべーよそいつ!」


「あ、あのカレンがお肉を取らないなんて!」


 あまりの衝撃にアルクルミも驚いた。


「それってどのくらいヤバイレベルなのか、全然わっかんないんだけど!」


 クエスチョンマークを出したのは今度はサクサクなのだ。


「うーん、サクサクがお酒を飲まずに帰るとか? 知らないけど」

「それって緊急事態じゃないの! 国が一つくらい滅ぶよ!」


「さ、さすがにそこまでじゃないと思うけど」


 ちょっと呆れたアルクルミはそのお陰で落ち着いた事もあって、登場したモンスターをまじまじと見た。

 この牛の模様がどこかで見た記憶があるのだ。


「思い出した。これ、この前みのりんが跨ってた牛だよね?」

「あれ特殊部隊モーモーだったのか、あまりにも牧歌的な風景に惑わされてたけど、何か脳裏に引っかかってたんだよな」


「どのくらい強いのかいまひとつわからないけど、まあいいよ。こいつを倒せば牛メンチでお酒グビグビプハーだもんね。やってやる、お酒のツマミの為ならこのサクサクさんは三倍の力が出せるんだ!」


 サクサクは一気に間合いを詰めて特殊部隊モーモーに突きを入れる、それをかわすモンスター。

 レイピアVSドリル角の息を呑む戦闘が続いた。


 サクサクは頭だけではなくモンスターの肩や喉などをめがけて突くも、全ての攻撃がドリルによって弾き返された。


「強い! 何よこの特殊部隊モーモーっての。突きを入れる隙なんてありゃしない」


 今度はモンスターが突進した!

 闘牛みたいにかわしながら相手の背中を刺せればいいのだが、その突進の早さにサクサクはかわすので精一杯だ。


 アルクルミとキスチスは、二人とも武器の包丁を握り締めたままどうする事もできない。

 プロ同士の戦闘に、素人の小娘が介入する隙なんて全く無いのだ。


「ああ! やっばいぞアル!」


 キスが叫んだ、何事かとアルクルミが見ると、草原の向こうから更に二体の特殊部隊モーモーが現れてこちらに向かっているのだ。


 サクサクVS特殊部隊モーモー×三体は無理、かといってキスチスとアルクルミが一人一体ずつ新手のモンスターを引き受けるのも無理。


 どうしよう、アルクルミが涙目になった時に不思議な事が起こった。


 新たにやって来た特殊部隊モーモーは特に戦いに参加する様子でもなく、まるで話しかけているように鳴いたのだ。


「モー」

「モーモー」


「モモッ!?」


 驚いた感じで鳴いたのは戦っていたモンスターで、三体の特殊部隊モーモーはアルクルミたち人間の事など忘れたかのように一斉に駆けて去って行った。

 ポカーンとそれを見つめる三人、やがてその中の一人アルクルミがキスチスの方に顔を向ける。


「何があったのキス。モンスターの気持ちを覗いてたんでしょ?」

「ああ、なんか乳搾りの時間だって……喜び勇んで走ってった」


 オヤツの時間みたいなものなのかな……

 アルクルミは子供の頃にキスチスやカレンと遊んでる時、よく母親に呼ばれたのを思いだしていた。


 牛の世界にもいろいろあるのね。



 お肉は取れなかったものの、一つの教訓ができた。

 特殊部隊モーモーには近づいてはいけない。




****




「私の目的地はここ」


 結局あれから普通の〝のっぱらモーモー〟に出会う事もなく、先にサクサクの用事を済ませる事になった一行は、石でできた小さなサークルの前に来ていた。


「ここで何するの?」

「まあ見てて」


 不思議そうな二人の前で、サクサクは中央付近の石に触れる。

 すると触れた部分に何か文字のような模様が光って浮き出ると同時に、その石の反対側の地面にポッカリと穴が開いたのである。


「何これ?」

「中は下へと続く階段になってるぞ」

「この前見つけたんだよ、昔の遺跡か何かかな」


 穴を覗き込む二人に対して、腰に手をやり得意そうなサクサクはそう言ったかと思うと、トントンと階段を下りて行ってしまった。

 キスチスとアルクルミも慌てて続く。


「よくこんなの見つけたな」

「偶然なんだよね、たまたま寄りかかったら穴が開いた」


 地表からの光が届かない辺りで階段は終了して横穴になった。

 横穴と言っても人間が歩くには十分すぎるくらいの広さがあり、洞窟というよりは通路といった方が正しい。


 光が届かないのにその通路が見えるのは、この辺りの洞窟に見られる緑色に光る苔が天井と壁に生えている為だ。

 ただ、不思議なのは自生している感じがしない、苔は何列にもなって規則正しく真っ直ぐに並んでいるのだ。


「ねえ、ここって最近誰かが作ったんじゃないの、遺跡という感じがあんまりしないよ」

「新しいよな、こんな遺跡の話を今まで聞いた事ないし」


 アルクルミとキスチスがキョロキョロ見回して歩いていると、少し広い空間というか部屋に到達した、その先はまだ通路が続いているようである。


 その部屋にはラックが設置されていて、そこにはボトルが並んでいた。


「えーと、これはもしかしてお酒を置いてあるの?」


「そうだよ、お酒の貯蔵庫の遺跡を発見しちゃった! まるで天国でしょ。この前見つけて数本持って帰って飲んだんだけど、めちゃくちゃ美味しかったよ」


「違うよ、これ遺跡じゃないわよサクサク、どう見ても誰かが作ったワインセラーでしょ」

「しかもこの規模は大きな集団か貴族クラスだぜ。どう考えても私ら不法侵入者だよな」


「サクサク帰ろう、これ持って帰ったら誰かに怒られるって」

「んあい? 誰が怒るってぇ? 遺跡を作った古代人にかんぱーい」


「酔っ払ってやがる……」

「うわー」


 見るからに高そうなお酒をラッパ飲みしているサクサクを見て、サーっと顔色が青くなるアルクルミ。


 これはなんとか早く撤収しないといけない、そう思っている内に奥に続く通路からドタドタという複数人の足音が聞こえてきたのだ。


 み、見つかっちゃった――!


 次回 「ミノタウロスが出たー」


 アルクルミ、やばい連中と出くわす

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