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その2 続、コロッケくださいな


「コロッケくださいな♪」


 アルクルミが店番をしていると、女性の客は次の日も現れた。


「いらっしゃいませ、トロールはどうでした?」


「うーん、とりあえず焼いてみたけど美味しくなかったかなあ、珍味はやっぱり珍味ね、いろいろ工夫してこそ珍味なんだわ」


「あはは、そうですか」


 美味しかった! と言われてまた買ってくれるのを願ったのだが、アルクルミの期待は空振りに終わったみたいだ。


「で、コロッケなんだけどね、私はやっぱり肉屋のコロッケを諦められないんだ、何とかコロッケを売ってもらえないかなあ。コロッケ食べてお酒をキューってやりたい」


「と言われましても……」


 そもそもコロッケってなんなのかすらわからない。

 アルクルミが困っていると女性は紙を出してきた。


「今日はコロッケを絵に描いてきた。これでも学生時代は美術部に入ろうか悩んでたんだから。あ、学生って中学ね、も、もちろん私は現役だから!」

「それは助かります、どれど……れ」


 美術部……? 中学?

 差し出された紙を受け取って絵を見たアルクルミは目が点になる。


 それはただの楕円。紙に丸が一個描かれているだけなのだ。

 これでどうしろというのか、形状が楕円というしかわからない。


「これはどういったものなんですか?」

「ジャガイモを潰してひき肉と混ぜたものをこの形にして、衣を付けて油で揚げた食べ物だよ」


「揚げ物ならお惣菜屋さんかなあ」

「行ったけど無かったんだよね、それにやっぱり肉屋のコロッケ! これがまず一番!」


「それはどこの食べ物なんですか、どこの町かな、国? それとも地方?」

「日本だよ」


 き、聞いた事ない――!


「元々はフランスとかのヨーロッパの食べ物が、日本に入ってきてそうなったみたい」


 どこだそれ――!


 二本だのフランセだのパパリッパだの、全く聞いた事も食べた事もないのだ。


 アルクルミは肉屋の単なる娘なので、広い世界の事なんて知らないのだ。


「すみません、よく知らなくて」

「ごめんごめん、私転生者なんだよ。転生元の国の食べ物なんだ」


 異世界の食べ物だったか……良かった、私はアホの子じゃなかったんだ。

 肉屋の娘は知らなくて当然だったのでちょっと安心するも、アホらしくなって足の力が抜ける。


 あれ、この人、今……


「転生者の方だったんですか、じゃみのりんと同じ」

「みのりんの事知ってるんだね、あの子とは同郷だよ。そう、私は転生者のサクサクだよ! 十七歳の女子高生です! てへっ」


 じゅうな……

 アルクルミはついうっかりジト目になってしまった。じょしこーせーってなんだ?


 目の前の女性はどう見ても十七歳には見えない、二十代後半くらいだろうか。

 でもアルクルミは知らないのだ、異世界の人の年齢なんてわからない、異世界人の歳の見方を知らないのだ。


 異世界の人はこの感じでも十七歳なんだろう。

 アルクルミの知っているみのりんだって、十五歳だけどたまにそれよりも下の歳に見える事があるじゃないか。


「サクサク十七歳、女子高生です! キラっ」


 思考で動きがフリーズしていたアルクルミに、サクサク(推定二十七歳)はもう一度念を押してきた。


「私はアルクルミ、肉屋の娘です、十六歳です。えーと私のフルネームは――」

「十六歳かあ、一個下なんだね、ピチピチだね。でも敬語使わなくていいよ、同じ少女同士だもんタメ語でいこうタメ語で」


「あ、はい。じゃなくて、うんわかった」


 フルネームを言うチャンスだったのに言いそびれてしまった。

 ちょっとがっかりしていると、いつも買いに来る男性客が入店した。


「いらっしゃいませ」

「こんにちはアルクルミちゃん。今日もお肉を貰おうかな、ホントはこっちのお肉がいいんだけど」


 そう言いながらアルクルミのお尻を両手でペロン&ペロン。

 相変わらずこの店に来る客はこんなのばかりなのである。


 アルクルミはオジサン客の後ろに瞬間移動すると、羽交い絞めにして頭から床に叩きつけた。


「んんー効く効く――いやー頭がスッキリしたー!」

「ごめんなさい、ごめんなさい」


 ツヤツヤの顔で買ったお肉をぶら下げて帰っていく客に、アルクルミは謝る。


「今のはフルネルソンスープレックスだね!」

「そ、そうですね」


 今の技もなんだか美味しそうなスープの名前が付いているのか。

 アルクルミは技の名前をノートに記載しようかとも考えたのだが、めんどくさいのでやめた。


 覚える必要なんか一切ないだろう。覚えたってどーせ何が出てくるのかわからないのだ。



「それでね、コロッケなんだけど、作れないかなあ」


 コロッケを諦めきれない女性客サクサクがまた話を戻してくる。

 そんなに好きなのかコロッケ、何とか作ってあげられないかな。


 しかしアルクルミはトロールのお肉も何とかしないといけない。先ほどの客も脳天フラフラで判断力を失ってトロール肉を買ってくれたが、まだまだ残っているのだ。

 一切れ売れた程度では何の影響もないので、大量に消費する何かが必要なのである。


 ため息混じりにアルクルミはトロール肉を眺めた。


「これ美味しく食べる方法ないかしら」


 そこでアルクルミは『ハッ』となった。

 危うく無限ループに陥る所だったのだ。


 このまま行けば明日も明後日もこの女性客サクサクに『コロッケ下さい』と言われて、別のオジサン客に技を出してトロール肉を眺めてため息をつく。


 何か別の行動を起こして分岐しなければ、エンドレスにこの〝コロッケ下さい文〟を実行してしまう事になるのだ。


「うーん、コロッケだよね、ジャガイモとひき肉だっけ――」


 アルクルミはコロッケを考えながらトロールのお肉を見つめる。


「ハッ!」


 ピコーン!


 アルクルミの頭の中で電球が灯った。ちょっと遅いくらいである。


「コ、コロッケ作ります!」


 次回 「永久ループ脱出、コロッケを作ろう」


 キスチス、何故か労働をさせられる

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