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その5 気絶したアルクルミ、絶体絶命の危機


「アル――!」


 キスチスが叫んだ。

 トロールの腕の中で、ぐったり動かなくなったアルクルミを何とか助けようと斬りつけるが、小さなキズを付けてもトロールはすぐに再生してしまう。


 彼女の小さな武器ではトロールと戦うのは無理があったのだ。


 キスチスの目から見ても、アルクルミが気絶しているのがわかる。

 彼女は、自分が抱いていた淡い期待が砕かれたのを感じた。


 もしかしたらアルクルミのスキルが発動して何とかなるかも知れない、そんな事を思っていたのだ。


「アルの馬鹿! 気を失ったらどうしようもないじゃないか!」


 モンスターはキスチスを無視して、気絶したアルクルミの服を剥ぎ取ろうとそれに指をかける。

 これが〝おいはぎトロール〟の特性で、その名の由来でもある。


 襲われた女性は衣服を剥ぎ取られて持ち去られてしまい、用が無い男は潰す。

 最悪のモンスターだった。


 キスチスは必死にモンスターの心を読む。


「すぐに再生するっていっても、刺されれば痛いみたいだな。それなら」


 包丁を思いっきりモンスターの足に突き刺す。


 トロールがアルクルミを持っていない片腕を振り回して追い払うと、すぐさま後退し回り込んで反対側の足にも包丁を突き立てた。


 今度は手、背中、また足。

 キスチスはトロールの攻撃を回避しながら執拗に斬りつける。


「根比べだ、アルを放さない限りいつまでも痛い目に遭うぞ」


 実際、キスチスの攻撃を嫌がって腕を回しているトロールは、まだアルクルミの服を一枚だって脱がせていないのだ。


 だが無尽蔵に体力があるように見えるトロールに対して、キスチスのスタミナは尽きかけていた。

 回避しながら走り回っての攻撃は、無駄に体力を消耗するのだ。


「はあはあ、失敗したな。オシャレ感を出してサラダサンドイッチなんか買うんじゃなかった。にんにくスタミナサンドにしとけば良かった」


 トロールは警戒しているのか、アルクルミを握り締めたままキスチスを窺う。


「なあ、アルの服なんかより私の服の方が脱がし甲斐があると思うぜ」


 そう笑うキスチスの考えは一つ。


 体力が完全に尽きる前に腕を攻撃、アルクルミを落とさせて彼女を回収する。

 後は回復させたアルクルミと一緒に、無茶苦茶に包丁をぶん回して町へ後退だ。途中で諦めてくれれば儲けものである。


「今だ!」


 トロールがアルクルミの服に指をかけるのを見計らって、その腕に刺身包丁を突き立てようとするが、モンスターはよりにもよってアルクルミを盾にした。


 親友を傷つけまいと動きが止まったキスチスに、トロールの空いた腕が迫る。


 すんでの所でそれを避けたが、刺身包丁を奪われてしまった。

 トロールはすかさずそれを地面に突き刺し、その上から足で踏みつける。


 万事休す――


 素手の少女一人ではもはやどうする事もできない。


 キスチスは逃げる事もせず、そのまま草原にへたり込んでしまった。


 逃げようと思えばキスチスだけでも逃げられたかもしれない、しかし彼女は親友を置いて去る事はしなかった。


「ごめんアル……一生懸命頑張ったけどだめだった、せめて私も後から一緒に剥かれてやるからな」


 完全に気絶しているアルクルミを見つめるキスチス。


 もうどうする事もできないのか――



 モンスターが大きな指でアルクルミのスカートを脱がそうとする。

 スカートがめくれた。


 その時キスチスはとんでもない光景を目にする事になる。


 キスチスが見たもの――


 気絶したアルクルミがトロールの手から自分を引き剥がし、そのまま高く飛んで前転しながらトロールの脳天に両足でかかと落とし。


 草原に着地すると、ふらついて膝をついたトロールの頭に掌打の連続を食らわせ、そのまま頭を抱えてモンスターを持ち上げると、高くジャンプしてその頭を地面に突き刺したのだ。


 メキメキ! ドン! パンパンパンパン! ズドン! である。


 モンスターは地面に刺さったままカクンとなった。凶悪なモンスターがあっという間に倒されたのだ。

 次いでアルクルミも草原に倒れた。


「こ、こいつ……気絶したままスキルを発動させやがった――」


 自動反撃スキルの恐ろしさだ。どんな状態でも何者にも悪さは許さない。

 悪さをした者は確実に仕留めるのだ。


「う、うーん」


 程なくしてアルクルミの意識が回復した。起き上がった彼女はきょろきょろと辺りを見まわしている。


「大丈夫かアル」

「うん、ちょっと頭がクラクラするけどね。何があったの?」


 アルクルミの目線の先には、カクンとなったトロールが一体。


「凄い、キスがトロールを倒したのね。ショートソードって凄いんだ」


「倒したのはアルだよ。パンパン! ズドン! だった」

「えーと、キスは何を言ってるの?」


 首を傾げるアルクルミにキスチスがいきさつを説明すると、肉屋の娘は自分のスキルがしでかした事に青くなる。


「いやいや、青くなったのは私だからアル。トロールがスカートをめくった途端だもんな、ウサギだったもんな。イテテテテ何でつねるんだよ、スキルか、スキルかこれ」


「私が自発的につねってるんです!」


 とりあえず嫌な事は忘れようと、カクンとなってるモンスターをお肉にするアルクルミ。


「トロールって美味いのか?」

「キスは食べた事ないの? あんまり美味しくない、普通かなあ。でも無いよりマシだし、目の前にお肉があったらとりあえず仕入れる、これは肉屋の娘の性なのかも」


 地面に埋まった刺身包丁を掘り出していたキスチスが、突然思い出したように。


「キスって呼ぶなよ」

「今更? 今日散々呼んでるけどね」




****




 数日後……


 冒険者の町の中を流れる川で、のんびり釣りをしている二人組がいる。

 いつもの肉屋と魚屋の娘コンビ、アルクルミとキスチスの二人だ。


「聞いたかアル、残りのトロールはカレンたちが討伐したらしいな」

「うん、やっぱりカレンたち冒険者は凄いわよね、あんなモンスターを討伐しちゃうんだから」


「素手でぶっ倒したアルの方が凄いんだけど」

「う、やめてよキス」


 アルクルミは赤くなって手で顔を隠した、覚えていないから尚更困る。

 冒険者ギルドから表彰されると聞いて、先ほど丁重にお断りをしてきた所なのだ。


 ギルドからはもう一つ頼まれた事があった。

 それはアルクルミだけではなく町の女の子全員に対するものだ。


「パンツを提出せよ。ってわけわかんないよなあ。なんなんだよ唐突に」


「ほら子供の頃カレンが木にパンツを引っ掛けた事があったでしょ、あれが偶然〝まじない〟になっててトロールを今まで町に寄せ付けなかったんだって」


「ああ、あったなそんな事。わけわかんねー話だなしかし」


「そのパンツをカレンが最近見つけて回収しちゃったのが今回の事件の発端だってさ、で町の女の子のパンツをまた木に引っ掛けようって事になって――」



 その後、アルクルミが提出したのはウサギのパンツ。

 キスチスはクマのパンツである。


 第7話 「女の子の服を脱がすトロールが出た」を読んで頂いてありがとうございました

 次回から第8話になります


 今回のトロールのお話は、平行作品「女の子になっちゃった!~」

 第13話 「トロール討伐大作戦」とも繋がっているので

 よろしかったらそちらも読んでみてください



 次回は新キャラが登場します


 次回 第8話 「新商品コロッケを作ろう」

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