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その3 誰がエサ役だって?


 アルクルミが座って見ている前で、カレンがせっせと地面に穴を掘っている。


 どうやらモンスターを落とし穴に落とす作戦らしい。


「その為にスコップを持って来てたんだ。あえてつっこまなかったけど、不思議だったのよね」


「うん、アルには秘密にしておいて驚かそうと思ってたから、わざと言わなかったんだよ、びっくりしたでしょ!」


 いや、スコップ丸見えだったんですけど……


 カレンはどーせ使えないからと、剣を持って来ずに代わりに大きなスコップを腰から下げていたのだ。変な冒険者の姿に、すれ違った町の人に何度か振り向かれた。

『ママー』と指差す子供と叱る母親のコンビさえいたくらいだ。


 普通に武器にするかイモでも掘るのかと思っていたアルクルミは、やっと納得する。


 そんなアルクルミが持ってきた武器は肉切り包丁、店にはそれしか無かったからだ。


 カレンもその肉切り包丁を、お肉を捌く為に持って来ていると思っているみたいだからおあいこである。 

 アルクルミは武器として持って来ているのだ、滑り止めにと柄に布をガチガチに巻いてある。


 実はすれ違い時に自分たちに振り向いていた町の人たちの中には、彼女の腰のむき出しの肉切り包丁を見て『ビクン』となった人もいたのだが、アルクルミは気付いていない。


 この包丁を使うのは主に父親なので、アルクルミ自身は使い慣れた物ではない。

 肉の計量器でぶん殴るのと肉切り包丁を振り回すのと、どっちがいいか真剣に考えた後でこちらを選んだのである。


「カレン私も手伝うわ」

「いいからいいから、アルの可愛いスカートが汚れちゃうし」


「自分だってスカートのくせに……」

「私はミニ、動きやすいからね」


 カレンが楽しそうに穴を掘っているので、任せることにしたアルクルミはつくづく感じてしまう。


 自分は冒険に行くのにうっかり動き辛いロングスカートを穿いて来てしまった、これが冒険者とは違う部分なんだろうなあ。

 考えてみたら、カレンはちゃっかりサンドイッチまで用意していた、スキルも経験も自分には足らないのだ。


 笑いながらカレンが野原に開けられた穴から出てきた。


「掘れた掘れた、さすがに疲れたよ。こんなに掘ったのは、肉屋のオジサンを落とし穴に落とした子供の頃以来だね」


「ああ、あったわねそんな事、お父さんいじけちゃって三日口を聞いてくれなかったから、逆に静かでいいってお母さんが感謝してた。それにしても結構掘ったねー」


「これでもモンちゃんは半分は出ちゃうんだけどね」


 この森に主に出現するモンスターは〝やんばるトントン〟と言って大きくて丸い子豚型のモンスターだ。

 大きさはまちまちで犬くらいのから象くらいのヤツまでいるが、大体はでかい熊くらいの大きさである。


「でも少しでも動きを止められれば仕留められるからね。落とし穴に落としてこのスコップで頭をカーンだよ」

「そんなんでいけるの?」


「いけるいける、スコップでカーンがダメだったら、次はコーンだよ、ラストはキーンだね」

「違いがわからないんだけど」


 ポンコツカレンの策にはいまひとつ不安がよぎるのだ。

 木々に囲まれた少し開けた野原の中心にその罠はある。


「で、どうするの? エサを置いておびき寄せる?」

「ちょっと違うけど、まあそういう事、エサが重要」


 カレンはニヘと笑った。


「エサって何? 何も持ってきてないよね、サンドイッチも食べちゃったし。あはは、まさか私たちがエサ! なんちゃって」


 カレンは笑顔のままだ。


 アルクルミの顔がサーっと青くなっていった。


「エサでモンスターをおびき寄せるのよね?」

「うん、エサでモンスターをおびき寄せるんだよ」


 繰り返したカレンは満面の笑顔だ。

 友達の冒険者の少女の笑顔をみつめて、アルクルミは観念する。


「そうだよね、何の役にも立たない私がやるのは当然よね、しょうがないよね。うん、大丈夫だよ、後は全部カレンにまかせた。たまにはお花を添えに来てね、半年に一回くらいでいいからお饅頭も供えてくれると嬉しいかも」


 観念したアルクルミは落とし穴の前に横たわって、胸の上で手の平を合わせた。

 合掌である。


「アル? どうしたの、眠いの? 寝てたら全て解決、みたいな宗教が他の町にあるみたいだけど、そんな場所に寝てたらスカートが汚れるよ」


「てっきり私がエサ役をやるもんだと思ってたけど、違うの?」


「私がやるよ、カレンちゃんにエサ役をやらせたら右に出るものはいないって、町でも評判なんだよ。アルより私の方が足が速いしね、アルのロングスカートじゃ走りにくいよ」

「そんな評判聞いた事無いんだけど、どこの町の話よ」


 カレンは笑いながらアルクルミを起こすと、『囮は私がやるから、走るのは任せて!』とドヤ顔でポーズを決めて森の奥へと消えていった。

 森の奥に入る時、木の枝におでこをぶつけてたカレンのポンコツっぷりが不安で仕方無い。



 現在アルクルミは岩陰に隠れて、枝や草を置いてカモフラージュされた落とし穴を見ている。

 何もかもカレンにまかせっきりで心が痛いのか、アルクルミの表情は沈んでいるようだ。


 のこのこ森まで来てしまったが自分は何もできないのが情けない、モンスターを倒すスキルすら持っていないのだ。


 せめてモンスターが出てきたら少しは手助けできるようにと、改めて持って来た肉切り包丁をチェックする。


 これで戦えるのかなあ……肉屋の娘は不安を感じずにはいられない。

 自分はモンスターと戦った事など一度もないのだ。ましてこんな武器にもなっていない包丁で、素人が手を出していいものかどうかすらわからない。


 モンスターがこう来たら、こう? それともうこうして、えい! かな?


 肉切り包丁での戦い方を考えていると、木と木の間からカレンが飛び出して走って来るのが見えた。


 作戦開始である。


 次回 「モンスターを落とし穴に落としてみた」


 アルクルミ、オブジェに騙される

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