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その4 パーティを襲った大事件


 パーティを襲った大事件とは。


 アルクルミのスカートの中に一匹のカナブンが突撃したのだ。


「わっ! きゃっ! 何! 虫? わわわやめてやめて、変な所に止まらないで」


 虫がスカートの中に突入するだけでも天地がひっくり返るくらいの事態なのに、カナブンは好き勝手に暴れて、彼女の足といわずお尻といわず、〝体当たり〟と〝掴まり〟を繰り返すからたまったものじゃない。


 アルクルミは一瞬にしてパニックになった、そもそも虫が得意じゃないのだ。


 狼狽して必死にスカートの中から虫を追い出そうとしているアルクルミの正面から、パーティメンバーのオジサンが彼女のスカートを掴んで上下に揺らし始めた。


 ミニスカートなので中身が見えてしまう危険な行為だ。


 これは完全にアウトだった。オジサンがスカートをめくる、それだけでも十分に彼女のスキル発動条件を満たしてしまっているのだ。


 即座に対セクハラスキルが発動し、一瞬でオジサンを持ち上げて地面にバーン!

 オジサンは地面の上でノビてしまう。


 アルクルミにはわかっている、オジサンの行為はセクハラではなくて、単に虫を追い出そうとしてくれたという事を。

 

 わかっている、わかっているけどやめられないのだ。

 スキルが発動してしまうのには彼女の意思は関係無い。


 以前パーティにオジサンを入れたら自分がそのオジサンを討伐してしまうから危険だ、とカレンと笑い合った事が現実に起きてしまった。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 謝ってもオジサンは完全にノビていて聞いていない。


 慌ててオジサンに回復薬を飲ませようとするが、歯をガッチリ閉じて飲ませる隙間が無かった。


 ど、どうすればいい? 鼻の穴から回復薬を詰め込もうか。

 オロオロしている肉屋の娘はとんでもない解決策を思いつきそうになったが、すんでのところで考え直した。


 どうしよう、こんな時にモンスターに襲われたらたまったものじゃない、一日一回のスキルを使ったカレンはもうアテにはできないのだ


「起きて! 起きて!」


 アルクルミはオジサンを揺らすが起きる気配なし。

 と、ノビている彼のほっぺたに蚊が止まった。


『パン!』


 思わず蚊を叩いてしまった。

 反対側にも蚊が。


『パンパン!』


 往復ビンタのようになってしまったが、顔の血を吸われるよりましだよね。


 そこにオジサンが投げ飛ばされるのを見て、一時退避していたらしいみのりんが戻ってきた。


「口を開けて回復薬をと思ったんだけど、歯を食いしばっていて開けられそうにないのよ、どうしよう」


 アルクルミはその少女に助けを求めると、少女は靴を脱いでオジサンの顔を踏んだ。


「え?」


 ぽかーんと少女を眺めるアルクルミ。


 何を、しているのかな?


 何が起こっているのか理解できない、踏んでいるみのりんの顔を見ると青くなって涙目なのがわかった。


 ああ、そうか……

 きっとこのオジサンにセクハラ行為をされていたに違いない、アルクルミはそう判断した。これは復讐なのだ、と。


 みのりんは一旦どこかに行って、戻ってきたかと思ったらオジサンの靴を脱がせてまたどこかに行った。

 きっと復讐を続行しようかここで許してあげようかと悩み、行ったり来たりを繰り返して考えているのだろう、優しい子なのだ。


 何をされてもオジサンはノビたまま処刑を待っている。


 どうしようか……と悩むアルクルミを、目を刺激する激臭が襲う。


「これ何? 何の臭い? モンスターが来ているの?」


 大型の獣が近くにいる場合、獣臭がするものなのだ。

 ツーンという刺激臭に目をやられたアルクルミは涙が止まらない。


「ひーん、何これ。目が、目がまともに開けられないよ」


 涙が溢れる目を必死にこすっていると、みのりんが再び戻ってきた。

 彼女も目をやられているのか、半泣きで更なるオジサンへの復讐を開始。


 オジサンの靴下を脱がせると、彼の顔に置いた。こんな完璧な復讐があっただろうか。


 素晴らしすぎる!


 そこでオジサンは気がついたようで、ガバっと起きる。

 と、同時に『自分は寝ていて何も知りませんでしたから』とでも言うようにみのりんがその場で横になった。


 完璧である、完全犯罪だ!


 アルクルミはこの青い髪の少女に感心してしまった、自分の豪快なスキルと違って相手を傷つけないスマートなやり方。


 自分の直接攻撃に罪悪感を覚えていた彼女は、こんな方法でも平和なやり方に思えてしまうのだ。


 自分に行われた復讐に気がつかないオジサンは、何故靴下と靴が脱がされていたのかを疑問にも思わない様子で黙々と履き直した。


 同時に激臭が無くなったので、恐らく近づいていたモンスターは去っていったのだろう。


 アルクルミはホッとした、ポンコツになったカレンと目をやられた自分がいたのでは、モンスターと戦うみのりんの足手まといになるかも知れなかったからだ。


「あの、本当にごめんなさい」


 アルクルミはオジサンに謝る、彼もスカートをめくった事を反省しているのか元気が無かった。

 セクハラをしたらちゃんと反省する、このオジサンもこれまた素晴らしい。


 今日私はなんて素晴らしいパーティと一緒だったんだろうか。

 アルクルミはちょっとした感動を覚えた。


「解体終わり! 今日は他のモンスターも出て来ないし、いい部位を持って帰れそうだよ」


 作業を終えて立ち上がったカレンが嬉しそうだ。

 実は本当に現れていた二体目のモンスターが、謎の激臭で目をやられて逃げ去った事をこのパーティは知らない。


「ねえカレン、今起きてた事に気がついてた?」

「ん? なんかあったの? お肉が無事解体できた事くらいだよね」


 だめだ、カレンはお肉の解体に夢中で全然気がついていない、完全なポンコツだ、モンスターが来なくて良かった。

 アルクルミは改めて胸を撫で下ろしたのである。とにかく早く帰って目を洗わなくちゃ。


 町への帰りは先頭を歩くカレンだけが上機嫌だった。


 目をやられたアルクルミ、セクハラを反省して元気のないオジサン、こっそり復讐してちょっと気がとがめているのか、同じく元気のないみのりんと、三者三様の落ち込み理由でトボトボと歩いていく。


「俺たちゃ冒険者♪ 山越え谷越えどこまでもー♪」


 上機嫌で歌うカレンの後を、ショボくれた三人が続いていった。


 第5話 「カレンと転生者の女の子」を読んで頂いてありがとうございました


 今回のお話はもう一つの作品「女の子になっちゃった!~」

 第10話 「お肉屋さんとお肉の仕入れ」とリンクしていますので

 よろしかったらそちらも読んでみてください

 アルクルミの勘違い目線も楽しめます


 そして次回から第6話になります


 またあのモンスターのお肉を取りに行かされます


 次回 第6話 「カエルケロケロまたケロケロ」

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