その2 転生者の子と友達になったよ
アルクルミとカレンは、転生者の子との待ち合わせ場所に来ている。
そこは商店街近くの時計台広場で、この町でいろんな人が待ち合わせに使っている定番の場所だ。
いつもは恋人同士の待ち合わせを目撃して、余計な眩しい光線を食らわないように足早に通り過ぎるのだが、今日はここにいても心に余裕がある。
いよいよここで転生者の女の子とお友達になれるかもしれないのだ。
どんな子だろうか、アルクルミはわくわくが止まらない。
アルクルミが通行人を見ていると、向こうからお父さんと女の子の親子連れがやって来た。父親の方は冒険者のようである。
二人で買い物かな、なんか微笑ましい光景だな、と肉屋の娘は彼らを眩しそうに見つめる。
昔は自分も父親とこうやって並んで買い物に来てたっけ……昔をほのぼのと思い出してみた。
父親はよく酒屋に入ってはアルクルミにどの酒が一番美味いかを熱心に語り、試飲でベロベロに酔って娘を散々酷い目に合わせたものだ。
やっぱりろくでもない思い出だったわ、消去と。
アルクルミが過去の不良データを削除していると、いつの間にか隣にいたはずのカレンがいない。
幼馴染をきょろきょろ探すと、カレンはさっきの親子に『早かったね。私も今来たとこだよ』と声をかけているではないか。
まさか、そのオジサンがカレンの言う転生者なの? 女の子と言っていたよね?
人は見かけによらないものだし、転生者がどういうものかも知らないしと納得しかけた所で、どうやら一緒の女の子がカレンの友達のようだと気付く。
自分のアホな間違いに少し脱力だ。オジサンが冒険者だったので勘違いしてしまったのだ。
カレンが話しかけたその少女に、アルクルミは見とれてしまった。
そこだけ空間が華やかな気がする。
カレンより少し背が低い少女は綺麗なストレートの空色の髪を持ち、白い肌にキラキラ輝くグリーンの瞳をしていた。
なんて綺麗な子なんだろう……白い服を着てブルーの髪なんてまるで青空をみているようだ。
見とれていたお陰で、カレンたちの会話に入るタイミングを逸してしまった。
気が付いたらカレンは、親子と勘違いしていたもう片割れのオジサンとも友達になっている様子。さすがカレン、あの子ならどんな人でも友達になってしまう。
しかしこれはチャンスだ、アルクルミはこれに乗じて友達の輪が広がるあの中に入ってしまおうと一歩前に出た。
だがその時、突然巨大な筋肉モリモリの大男が現れたので、回れ右をして五歩遠ざかるアルクルミ。
な、なにあの山みたいな筋肉の人は、怖いんだけど。
恐々見つめていると、カレンはその大男とも知り合いの様子で、またあの中に入るタイミングを逸した。
どうしよう、もう今日は帰ろうか? とも彼女は思ったが、ここで帰ったら何をしに来たのかわからないし、お肉の仕入れができないのだ。
なにより、あの青い髪の転生者の女の子と友達になりたい、お肉よりそっちが大切。
き、筋肉なんて怖くない、あれも肉だ。肉屋が筋肉を怖がってて商売になるもんか。
よし、今だ! というタイミングでアルクルミは動こうとした、その時――
「お、足の綺麗なアルクルミちゃん、オジサンの串焼き食べてくかい?」
出鼻をくじかれた。
声を掛けてきたのは、いつも彼女にセクハラをして成敗されている串焼き屋台の店主だ。
アルクルミは涙目になって、串焼き屋を睨む。
いつもとちょっと違う彼女の反応に串焼き屋の親父はスーっと引いて、今度はカレンたちにセクハラをして一瞬でカレンに撃退された。
筋肉の大男が去って行った時、これが最後のタイミングだとアルクルミは前に出る決心をする。
緊張するのでスーハースーハー深呼吸する。
「あの……私そろそろ登場してもいいかな……」
青い髪の女の子がこちらを見る、でもアルクルミとは目を合わせてくれない様子だ。
い、いきなり嫌われた! ショックでアルクルミは走って逃亡したい衝動に駆られた。今日はクマ太郎を抱き締めて寝て、心の傷を癒さなければならない。
「ああ、ごめんごめん。紹介するよ、この子は私の幼馴染でお肉屋さんとこの子だよ」
カレンがアルクルミの手を引っ張って少女の前に連れ出した。
「はじめまして、アルクルミと言います」
ペコリと挨拶をすると、みのりんと名乗った少女もペコリと挨拶を返してきた。
き……綺麗! めちゃくちゃ可愛い……!
その青い髪がキラキラ輝いて、アルクルミは倒れてしまいそうになる。
間近で見るとその美少女っぷりが半端じゃない、まだ目は合わせてくれないが宝石のような瞳、まつげが長いなーと、肉屋の娘はドキドキしてしまった。
カレンが先ほどアルクルミが直したウサギの人形を少女に返して、修繕したのは彼女だよと教えると。
みのりんはウサギをぎゅっと抱き締めながら。
「あり……がと……」
とお礼を言った。
きゅいーん――
か……かわいい!
お、お人形が、お人形を抱き締めて喋っているみたいだ!
アルクルミは鼻血が出そうな程顔を真っ赤にすると、少しキョドりながら『どういたしまして』と返す。
そこで彼女は気がついた。この子が目を合わせてくれないのは、とてもお淑やかな子だからだと。
どこかのお嬢様だったのかも知れない、他人を思いやってぐいぐい入って来ないのだ。
カレンが今日はアルクルミも討伐に参加する事を伝えると、みのりんは了承し、隣のオジサンも飛び入り参加でパーティを組む事になった。
みのりんがじっとアルクルミを見ている。
彼女はその視線に気がつくと、視線の先である自分の腰に目をやる。
なんて事だ、肉切り包丁がぶら下がっていた。
ひいい! ま、まずいぞ。お淑やかなお嬢様に殺人鬼に思われてしまう。私は強盗団じゃありませんから!
これはあまり見ないで欲しい……アルクルミは恥ずかしくてその包丁をへし折ってどこかに捨ててしまおうかと思った。
みのりんは放心したように包丁を見つめている、そんな彼女が装備しているのは……
木の棒? さすがお淑やかなお嬢様は一味違うのだ。刃物なんてクソ危ないものは所持しないのである。
包丁をへし折れば、木の柄の部分だけになってお揃いになるだろうか、アルクルミはそんな事を考えていた。
次回 「四人パーティでお肉を目指そう!」
アルクルミ、初めての冒険者パーティに興奮




