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その2 森でのんびりピクニック


「俺たちゃ冒険者♪ 山越え谷越えどこまでもー♪」

「カレン……その歌ちょっとやめてくれる? お父さんがいつも酔っ払って歌ってるから力が抜けちゃうのよ」


「うん、私もそれで覚えた。師匠がオジサンとよく歌ってたもんね」


 肉屋の娘と、その幼馴染で冒険者の少女との二人のパーティは、岩の上によじ登って偵察中だ。


 ここは二人が住んでいる冒険者の町から近い森。

 近いからって油断してはいけない、この世界ではモンスターが闊歩しているのだから。


 ちょっとうんざりした顔のアルクルミは、よほどその歌に飽き飽きしているのだろう。首を横に振ると、それに連動して彼女のポニーテールにした赤い髪のしっぽが揺れる。


「お父さん、冒険者でもないのこの歌大好きなのよね」

「冒険者じゃなくてお肉屋さんだもんね」


 一方のカレンは長い黒髪のツインテール。

 ポニーとツインのしっぽパーティなのだ。


 二人が登った岩は、森の中のちょっとした野原にあって視界もいい。

 見渡す範囲にモンスターが居ないのを見ると、やれやれと二人は岩に腰を降ろした。ちょっとした小休止である。


 やれやれの内容は二人とも異なる。

 カレンは(居なくて残念)、アルクルミは(居なくてよかった)なのだ。


 冒険者をやっているカレンと、片や単なる肉屋の娘なのだから違いは出て当たり前かも知れない。


「いい天気だねえ、アル」

「うん、何だかピクニックみたい。以前はこうやってよくピクニックやったっけ、懐かしいなあ」


 子供の頃は怖いもの知らずで、冒険と称したピクニックを森の中でよくやったのだ。


「どーせなら、サンドイッチとか持って来ればよかったかな」

「じゃあ、ついでだしピクニックもやっちゃおう、そろそろお昼だろうし。はいこれアルの分」


 そう言ってカレンが取り出してきたのは、まさかのサンドイッチである。


「え? 用意してたの? これ商店街のパン屋さんのサンドイッチだよね、いつの間に買ったのよ。カレンが素早いのは知ってるけど、まさかこれ」


「ちゃんとお金払って買ったよ! アルが途中でお尻触ったパン屋のオジサンを、向かいのネギ屋さんに放り込んでる時に、パン屋の奥さんから買った。一つはオマケで被害者のアルにって、オジサンは後で逆さ吊りにしてしばき倒しておくから、アルに謝っておいてって奥さん言ってたよ」


 今朝のあの時か……パン屋のオジサンとネギ屋さんには悪い事しちゃったな。オジサン今頃逆さ吊りかあ……


 自分の自動スキルが散々しばいた後で、更にお仕置きされているのかと思うと、アルクルミは少しいたたまれない気持ちになったが、そもそもセクハラをしなければいいのである。


 満面の笑みでサンドイッチを頬張るカレンを見ながら、アルクルミも渡されたそれを口にした。

 それは牛型モンスターのチーズに、豚型モンスターのお肉で作られたサンドイッチなのだ。


「美味しい……」


「美味しいよねえ、あのパン屋さんのサンドイッチは。〝のっぱらモーモー〟のチーズに〝やんぱるトントン〟のハムが絶妙だよ。これ食べてると美味しすぎて、自分が何しにここに来たのかすぐに忘れるから危険な食べ物ではあるんだけどね、危険なものほどやめられないって言うから仕方無いよね」


 この呑気な雰囲気……私はモンスター討伐に来たんだよね? アルクルミはまたちょっと不安になる。


 でもカレンとこうやって遊ぶのは楽しいのだ。

 昔もカレンはサンドイッチを食べて、しばらくの間放心していたものだ。といってもカレンの場合、何を食べても幸せそうに放心しているのだが。


 いっその事今日はピクニックでもいいのかも知れない、うんそうだ、今日はピクニックで終わろう。

 そう思う事でアルクルミの肩の荷は一気に軽くなった。


 岩の上でピクニックをする事にした二人の少女は、持ってきたサンドイッチを仲良く並んで頬張っている。


 ちょっと強い風が吹いて二人の髪のしっぽが揺れる。

 モンスターが出る森とは思えない呑気な風景である。ここは普段、冒険者とモンスターのテリトリーなのだ。


 冒険者かあ……

 アルクルミは隣でサンドイッチを頬張っているカレンを見た。


「カレンはいつもこんな感じで冒険者をやってるの? 冒険者ってもっと戦いに明け暮れているのかと思ってたけど、のんびりしてるっていうか、イメージと随分違ってる」


「いつもこんな感じだよ。この森はモンちゃんが一杯いるんだけど、警戒して中々出てきてくれないんだよね。私がお肉にしちゃうからかな」


「うちのお店は、カレンが取ってきたお肉にもお世話になってるもんね」

「オジサンにもっと高値で買い取るようにアルからも言ってよ、最近渋いんだよねオジサン。ケチケチ病?」


「帳簿とか見てると最近儲けが薄いみたい。お父さんの前では言えないけどね、『薄い』って言葉に敏感なお年頃みたいで。娘としては出てきたお腹の方を気にして欲しいんだけどね」


 あははと笑うカレンを見ていると、冒険者をやるってちょっと楽しそうだとアルクルミは羨ましく思う。

 因みにカレンはモンスターの事をモンちゃんと呼ぶ、そんな呑気な所もちょっと楽しそうだと思ってしまうのだ。


「アルも冒険者やればいいのに。これからも一緒にパーティ組もうよ。私いつも一人で行動してるから、パーティに憧れちゃうんだ」


「無理よ、私はただの町の娘だもの、冒険者なんてできるわけないよ。一応スキルは持ってるけどさ、カレンみたいな冒険に使えるスキルじゃないからね、あれセクハラオジサン成敗にしか使えないよ」


「今日は何人成敗した?」

「うーんと、パン屋のオジサンを入れて三人。二人は常連のお客さん。昨日は四人かな、肩こりとか治ったみたい。記憶を取り戻した人もいたわ」


 二人は笑った。町のオジサン達は本当に困った人達なのだ。


「さて始めますか」


 サンドイッチを食べ終えたカレンが、岩の上からピョンと飛び降りる。


「何を始めるの?」

「穴を掘ります」


 アルクルミはポカンとしてカレンの顔を見て、彼女の持つスコップを見て、またカレンの顔を見た。


「穴?」

「そう、穴。何事も穴を掘る所から始めるものなんだよ」


 ポンコツカレンは得意げに胸を張った。


 言ってる意味がわからない。


 次回 「誰がエサ役だって?」


 アルクルミ、合掌をする

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