その5 キスチスの作戦でお肉が取れるかやってみた
モンスター討伐を始めると言い出したキスチス。
しばらく目が泳いでいたが、やがてポンとてのひらを叩いた。
なんだろうとアルクルミが見ていると、またキスリンゴの木にするすると登っていく。
「だから説明しなさいって、行動が唐突すぎるのよキスは」
そして文句を言われながら下りてきたキスチスは、足を滑らせて太い木の枝に臀部を強打しヨレヨレと下りてきた。
さすがに木の枝にパンツは引っかかっていなかったが、痛そうにお尻を押さえている。あの技はカレンにしかできないのだ。
「くっそ、昔ならこんなのへっちゃらだったのにな、今朝オッサンにお尻触られただろ、アレで私のお尻強度が低下したんだよ、ホントにあのオヤ……」
そう言うなり顔を真っ赤にして黙ってしまった。
「全くもう、思い出して恥ずかしくなるくらいなら言わなきゃいいのに」
このキスの意外な面は絶対にノートに記録しなくては、忘れないように何度も頭の中でリピートする。
「で、今度は何しに登ったのよ」
「これだこれ」
キスチスが取ってきたのはまたもやキスリンゴの実が二つ。
「またオヤツ? もういらないよ?」
さすがに二個は多すぎる、メインディッシュ後のデザートだとでも言うつもりだろうか。
「ちげーよ、これはやんばるトントンが食べるんだよ。作戦があるって言っただろ、ふふん」
ついさっき、てのひらポンして『閃いた!』みたいな感じになっといてキスチスはドヤ顔である。
「さっき思いついたんでしょう」
「うん。いえ違いますから」
草の上に置かれた二つの果実を、アルクルミは近くの木の陰で息を殺して見つめている。
キスチスは果実を置いたすぐそばのキスリンゴの木に登って待機中。
その彼女が立案したこの作戦の内容は次の通りである。
「これやんばるトントンの好物だからさ、これをエサにしておびき寄せて、食ってる間に近くの木から私が飛び降りコイツでカーンよ。どうよ?」
最初からこれが目的でした、と言わんばかりにスコップを高く上げるキスチス。彼女の全体重が乗った一撃なら、悪くは無い方法である。だからアルクルミも了承した。
木の陰に隠れてどのくらい待っただろうか、二十分? 三十分? 待ってる間の時間は進むのが遅いので感覚はわからないが、ようやく果実を挟んで向こう側にモンスターが姿を現す。
期待通りのやんばるトントンでまずはホッとする。やんばるトントンは子豚型のモンスターで大きさはでっかい熊くらいだ。
アルクルミが息を呑んで見つめていると、モンスターはキスリンゴの実をクンクンした後で食べ始める。
チャンスよ! キス!
しかしキスチスは飛び降りて来ない。
モンスターは二個目を口にした。
どうしたの!? と彼女が見上げるとキスチスは木の上で寝ていた。ガクッと隠れていた木に漫画みたいに頭をぶつけるアルクルミ。
ご飯を食べたら寝る、キスチスの予定の行動だ。
(ちょっと! 食べ終わっちゃう! 起きて! お・き・ろ!)
心の中で叫ぶが当然相棒に念力が届くわけも無く、やんばるトントンは二個目も完食。
そのまま立ち去ると思われたモンスターは、もっと木の実を落として食べようと隣のキスリンゴの木に体当たりを始めた。
モンスターは、どうすれば好物の実が落ちてくるのかをちゃんと知っているのだ。
だが落ちてきたのはキスリンゴではなくキスチスだった、キスの部分しか合っていない全然重量が違う別の実が落ちたのだ。
落ちた魚屋の娘の全体重がモンスターの頭に炸裂、やんばるトントンはそのまま倒れた。
そこでハっと目覚めたキスチスは、目の前にモンスターが倒れているのを見ると、それに足を掛けて勝利のポーズをキメている。
寝ぼけているのに何であんな一連の動きが流れるようにできるのか、アルクルミは不思議だった。
「やった、さすが私! 見たかアル、どうだ!」
「あーはいはい、見たわよ一部始終。しっかりこの目で見ました、目に焼き付けました」
呆れて近づこうとしたその時だ。
倒れていたモンスターがいきなり息を吹き返して立ち上がったのだ。
片足を引っ掛けられたキスチスは、そのまま近くの草むらに吹っ飛んで行った。
「キス!」
しかし助けに行こうとしたアルクルミは動けない。
何故なら、モンスターの目は完全にこちらに向いていたからだ、標的はキスチスではなく自分なのだ。
モンスターは鼻息も荒く突撃の準備に入った、前足でその場の地面を蹴っている。
この距離だ、あんなものに突撃されたら自分は一巻の終わり。
今まで窮地を助けてくれた偶然に出た自分のスキルは、さすがにこの状況では出るはずもなく、突撃を食らって体がバラバラに粉砕されてしまうだろう。
終わった――
アルクルミは今回ばかりはもうダメだと思った。
ここで自分は果てるのだ、せめてキスリンゴの木の養分となって、美味しい実をつけてくれればと願うのみである。
『ぶきーーーーっ!』
やんばるトントンが突撃直前の相手を硬直させる威嚇をする。
もの凄い鼻息だ。
どのくらいもの凄いかと言うと、鼻息でアルクルミのスカートが全めくりしてぱんつが丸出しになったくらい凄い。
そして突撃した!
もちろん突撃したのはアルクルミである。
対セクハラスキルが発動した彼女は、モンスターが突撃を開始するよりも速く瞬時にその前まで移動すると、両手の拳を組んで高々と上げダブルスレッジハンマーを叩きつけた!
脳天に二度目の衝撃を受けたモンスターは、足元をふらつかせ片側に倒れこむ。
攻撃が止まないアルクルミは、倒れて宙に上がった前足と後足を掴むと、そのままモンスターの身体を持ち上げ、反対側の地面に叩きつけた!
ドーン! フワッ バーン! である。
地面に激しく叩きつけられたモンスターは、そのままカクンとなった。
「キス!」
ハアハアとモンスターを見ていた彼女だったが、飛ばされた友人を思い出し助けようと振り向く。
「いでででで、股間が、間接が……」
マヌケな感じでヒョコヒョコ出てきたキスチスを見てホっとした。
「調子に乗って足なんてかけてるからよ」
「調子に乗ってない、モンスターに乗ってたんだ」
うるさいよ。
早速お肉に解体しながら肉屋の娘は考えた、これはもうお小遣いをアップして貰わないとやってられないと。
その間キスチスは飛ばされたスコップを探していた。
「おーいどこ行った~? あれこの前、店の前の溝掃除にカレンから借りたやつなんだよな~」
この前カレンが持って来たのと、同じスコップだった。
第3話 「キスリンゴの木とポンコツキスチス」を読んで頂いてありがとうございました
次回から第4話になります
次回 第4話「チーズ屋さんの木の実の仕入れ」
商店街の会長と副会長の退治