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デッドマン・アライブ!  作者: ヌルハチ大王
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四話

その日はいつもよりも教室が、二倍増しで騒がしかった気がする。

何たって今日は編入生が二人も来るのだから、当然である。

 思春期真っ盛りの男女があることないこと、口々にウワサしていた。

「この時期に編入生だって!?」「男女一人ずつだってさ」「どんな人たちだろう~」

珍しい編入生に、このクラスだけでなく、他のクラスからも教室に編入生を拝見に来ていた。

 その時教室の扉が開き、入ってくるものが一名。途端にクラス一同話をやめ、扉に注目を集める。

入ってきたのはこのクラスの主任の教授であった。にわかに騒ぎ出した生徒たちを教授はパンパンと手を叩き、無理やり話を始める。

「さて、もうみんな知ってると思うが・・・・今日は編入生を紹介したいと思う」 

学園長のきまぐれで二人ともこのクラスだ。 よかったなお前たち、みんな仲良くしろよ~  ・・・・じゃ、入って」

クラス中の生徒が唾を飲み込むのが分かる。教室中に妙な緊張感があふれていた。


扉を開き、最初に教室に入ってきたのは、まるで人形のように可愛らしい女の子だった。

 よく撫でつけられた美しい茶髪をなびかせ、堂々たる様子で歩き入る。女子からは羨望の目を、男子からは愛慕の目を一身に向けられていた。

教卓の前で立ち止まると、どこか余裕のある笑みを覗かせながら一同を見渡す。よく見ると彼女は青藍の瞳を持っていた。

うおお、小さな歓声が上がり、教室中が静かな高揚感に包まれた。

「ちーっす、アキヤマ アヤカっす。どぞよろしく」

アヤカはニッと笑うと、人差し指と中指を前に突き出す。所謂ピースというやつだ

だがこの世界では聞きなれない言葉に、一同にざわめきが広がった。

「変わった挨拶だな~」「ヒガタ地方の名前みたい」「かわいいなぁアヤカちゃん」

 しかしざわめきもそこそこに、すぐさま彼女の美を讃えるかのような拍手が巻き起こった。

続けて、次の編入生が入ってくる。

その男の入室に、先ほどのような歓声は上がることはなかったが、どこかそわそわする雰囲気が漂い始めた。

鋭く尖った目に、その下に広がる隈。しかし顔の形もパーツも整っていると言っていいだろう。どちらかと言えば美形である。

服の上からでもわかる程度に体は締まっており、知的というより、ワイルドさを感じる見た目であった。

「なんか目つきわるくなぁい?」「目の下の隈、目不足かな?」「でも私結構タイプかも」

女子からの反応は悪くない。しかしどこか近寄りがたい雰囲気を感じたのか、警戒しているようにも見えた。

その時ミノルが口を開き、自己紹介を口にする。

「どど、どうも、ホリタ ミノルです。よろしくおねがいします・・・です」

そのミノルの予想以上の噛みっぷりに、教室の緊張は一気に弛緩し、一部の人間は吹き出し、またあるいはくすくすと笑う。どこか安心したような笑いに教室が包まれた。

一方のミノルは緊張のあまり、なぜ皆が笑っているのか分からず、苦笑いを浮かべたまま固まっていることしかできなかった。


その中、教室の後方から、ミノルを鋭い目つきで睨む男が一人。

敵対意思・・・というより、品定めのような目でじっくりとミノルの一挙一動を観察していた。

黄色の頭髪を持つその青年は、腕を組みかえるとニヤリと口角を歪めた。

「アイツ・・・おもしろそうじゃねぇか・・・」


「それじゃあ席は・・・・ああそうだ、メイとヒノモトは左右にずれてくれ・・・・・・真ん中にスペースを作ったからそこに座るように。みんな、しっかりサポートをよろしくな」

教授の朝礼が終わると、それからは朝の所謂朝礼の時間だ。

無論、ミノルとアヤカは群衆に囲まれ、質問攻めを受けていた。

「さっきの挨拶、かわいいね!あとで教えてよ」「きれいな髪~毎日解かしてるの?」「青い目ってすごい!はじめてみたよ~」

「君ッ!いい体をしているなッ、ぜひクリンチ部に入らないかいッ!?」「二人とも名前がヒガタ出身みたいだね」「得意魔法は何?俺は勢力増強系」

「いや・・・あの・・・うん・・・・」

 元より、ミノルは口下手な人間である。半年前、恋人で会ったキックボクシングと破局するまでは、その相手に一途になりすぎて、他の人間との付き合い方が分からなかったのだ。

そのため友人も恋人もろくに作らず、彼は極度なコミュ障に育ってしまった。

 押しの強い勧誘や下ネタジョークに対応できず、ただただ苦笑いを深めていくだけのミノル。

一方でアヤカは「ピースつって!みんなやろやろ!」「せんきゅ!高めのリンス使ってんの、もうそろそろ尽きるけどw」「気づいてたらこんな目してた!おいしゃさんは突然変異ってさ!」

と驚異のコミュ力を発揮していた。

(やっぱすげぇな、アイツ・・・)

と、ミノルはそんな彼女の様子を横目で見ていた。


「おいッ みんなやめないかッ!ミノル君が困っているじゃないかッ!」

途端、教室の温度が数度程、上がったように感じる。

無理やりミノルを囲むガヤたちをどかしていき、ミノルに向かって歩みを進めてくる男は・・・

「やあホリタ君ッ!僕はクラス委員長のヒノモト タイルだッ!これからどうぞよろしくッ!」

「あ・・・あぁ、よろしく」

差し出された手を握り、握手する。このおぞましいほどの手汗は、自分のものではないと断言できる。

ヒノモトは厚い眉に、ぎょろりとした目、そして筋肉隆々の腕を存分に見せびらかす、特別製のノースリーブ制服を着ていた。

「びっくりさせてしまったであろうなッ!いくら自由な校風が売りの学校とは言え、編入生は珍しくてなッ、みんな気になるものなのさッ。僕から代わりに謝っておく、スマンッ!!」

そうしてヒノモトは地面に頭が付きそうな程の勢いで頭を下げる。

一言喋るごとに、言葉に乗せて熱気が飛んでくる感じだ。とにかく暑苦しい。

しかし、口ぶりと態度からして、それほど悪い人間ではないのだろう。ミノルはひとまず警戒を解いた。

「ねぇ~いいんちょー、私たちもミノル君と話したいんだけど、いいかな?」

女子の一団が、ヒノモトに向かって駄々をこねる。

「ごもっともだが、今ホリタ君は緊張しているんだろうッ。すまないが、今日の所は学校について教えてあげることに専念させて、また明日話す、という事はできないだろうかッ」

「えぇ~、てかミノル君なんも言ってないじゃん。いいんちょーは黙っててよ」

「・・・そうだよな。ホリタくんッ!?」

ヒノモトはでなければ困ると言わんばかりの表情でこちらを見てくる。

「えぇ・・・いや、それとミノルでいいよ」

「では遠慮なく。そうだよな、ミノル君!?」

「うーん・・・」

少し角が立ってしまうかもしれないが、ヒノモトが言うことも大きく間違ってはいない。

ここは彼の顔を立ててやるのも間違いではないだろう。

「ちょっとだけだけど、そうかも・・・」

「ほんと?じゃあ今日はやめとこっかな、また明日ね~」

話しかけてきた彼女たちは、素直に退散を始める。

女子は女子で聞き分けがよくて助かる。結構、いいクラスなのかもしれない。

「うむッ、それでは今日は僕が君をサポートするから、しっかり学校のあれこれを覚えて行ってくれッ!綾香さんも勿論何でも聞いてくれたまえッ!」

「おーす、よろしく、あ、握手はNGで」

「なんだね、えぬじーとは・・・ッ?」

ヒノモトはよくわからない単語に唸り、自分の力不足を嘆くように拳を固めた。

そしてなんやかんやで・・・ガヤも最初にくらべてだいぶ少なくなってきた。

これにはヒノモトが編入生に群がる生徒たちを整理してくれたことが大きいだろう。

段々と、ミノルも心を落ち着かせ始めていた。

 その時のことである。

ミノルが目の前を見ると、そこには青年が立っていた。黄色の毛髪を持つ、野生感のある見た目をした青年である。目つきはミノルよりもさらに鋭く、彼を睨みつけていた。

「よォ・・・」

ミノルはその雑に繰り出された挨拶に、僅かに顔を強張らせ、返事もすることができなかった。

交差する二つの目線、次第にその場にすさまじいほどの緊張感が漂い始めてきた。

ミノル、激動の学校初日の始まりである。

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