恋文
Dear 数限りなき星々よりも遠いあなたへ
あれは黄水晶の月夜でした。
あなたの頬は冷たかったけれど、蒼の透けるようなあなたの胸は暖かかったのです。
目の前に触れるほど近く希望が輝いていました。
あの金色の狼へわたしたちは手を伸ばしました。
そうして甘く響いたあなたの声がわたしの奥底へと浸透してしまったのです。
わたしたちは憂いにすら雲母の金を浮かべていました。
あなたの眼差しはわたしの中へと。
わたしの手触りはあなたの中へと。
まるで入江奥へと誘われる潮のように。
あの日はもう遥か遠い銀嶺の彼方へと去ってしまったのですか。
わたしたちは高い氷壁に隔てられてしまったようです。
どこまでも聳える絶壁を超える術は見当たらず、星々より遠いあなたを思うのみです。
今は全くの暗闇に堕ちたわたしの光は一つだけなのです。
本当の辛さに耐えうることを恋と呼ぶのならこれこそがそうなのでしょう。
旱魃に枯れぬ茎のように。
嵐に千切れぬ雲のように。
落雷に割れぬ巌のように。
わたしの全てを投げ打っても何一つ得られないこの苦しさを。
わたしの願いは一つだけなのです。
星降る荒野の蒼き狼の沈黙を。
果てる夕陽の白き女鹿の眼差しを。
赤い月夜の水平線の騒めきを。
あなたへ捧げます。
わたしにとっての全ての美しさを捧げます。
一つきりの願いとして。
あなただけへこの言葉が届くことを。
それだけなのです。
From T