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休み時間とかくれんぼ

 預真が右近に任された役目は葵の相手だった。

 その特別な力を使って情報収集しながらも、不測の事態に備えるというのが右近の主張だ。

 しかし、葵からすると逃亡者である預真にそんな役目が果たせる訳もなく、本当のところは右近の調べ物をする間の時間稼ぎというか、その追いかけまわされる姿が日々の癒やしというべきか、つまりは囮という言葉がしっくりくるだろう。

 唯でさえ身に覚えのない噂で注目される身の預真としては、正直、女神などと呼ばれる女子に追い掛け回される役目など御免被りたかったのだが、ある意味でこれは自分の迂闊な発言に端を発する強制イベントようなものだと、預真は元来持っている人の良さから、拒否権を発動させず、流されるまま逃亡者の地位に甘んじていた。

 しかし、預真とてただ闇雲に逃げていたのではなかった。

 先日、三年生グループから追跡を躱した逃走経路のお返しにと、右近から教えてもらった一人くつろげる空き教室などに隠れ潜み、可能な限り葵と出会わないように心掛けていたのだ。

 だが、葵はまるで預真の居場所が分かっているかのように確実に追いかけてくる。

 その日も、そんなイタチごっこを何度か繰り返し、ようやく落ち着いたところに一本の電話がかかってきた。

 不本意ながらディスプレイの表示を見るまでもなく相手は分かっている。

 預真に連絡をしてくる人物など母か面倒な悪友くらいしかいないのだから。

 預真は隠れ潜んだ教室周り状況をその身に宿る超能力でチェックしながらも手探りで画面をタップする。


「調子はどうだい?」

「特に用が無いなら切るぞ」


 聞こえてきた右近のお気楽な声に素っ気のない応答を返す預真。


「もしかして追いつめられてる?」

「よく分からんが、すぐに見つけられるな。日向の奴が超能力を持っているのは本当なのかもしれない」

「喜ばしいことじゃないか。けど、できれば超能力じゃなくて異能と言って欲しいね。いや、異能というも芸が無いかな。新しい呼び名は今度考えておくよ」


 人の話は全く聞かないクセに、妙なこだわりから無意味な訂正をしてくる右近に「激しくどうでもいい」と中学の頃から続くお馴染みのツッコミを入れる預真だったが、こちらもいつもの如くスルーされ、その代わりにと言ってはなんだが素朴な疑問が投げ掛けられる。


「逆に君の方から葵ちゃんの位置は特定できないのかい?」

「いや、こっちへの敵愾心はあるにはあるようだが、基本的に顔を見てからのものだからな。無理だろ」

「えっと、つまり葵ちゃんは目の前に立って、『このぉ~』ってなるタイプってこと?」

「大体そんな感じだ」


 預真に見える悪感情というのは基本的にライン状のものが殆どを占めている。

 抱く悪感情のレベルが高くなれば、その形状にも多様性を持つようになるのだが、軽度のものとなればほぼ視覚的な認識に依存していて、事前に相手の居場所を特定しているような状況でなければ途中で途切れてしまったりと、相手に届くことは少なかったりするのだ。


「だったら、発信機でもつけるかい?」

「女子にそれはマズいだろう」


 次いで右近から呈された発信機という提案は、所謂GPSで居場所を特定する携帯電話と同じようなもので、主に右近が原因で追い回されていた時期、相手のしつこさに使ったことはあったのだが、逆にプライバシーを暴いてしまうという側面も持ち合わせていた。


「そうだね。なら新聞部の皆に居場所の確認を撮ってみようか?」


 そのくらいならと預真が了承を伝えようとしたその時だった。預真は廊下側の壁を突き抜ける黒い塊が騒がしい気配を伴って近づいてきているのを、特別な視覚と聴覚の両面から察知した。

 どうしたの?ふと途切れた会話を不信に思い問いかける右近に、


「お前っぽい表現を使うなら、ドス黒くてどデカいオーラを持った奴が近づいてきてな」


 預真が声のボリュームを下げて答えると、


「いや僕ならもっとスマートな表現法を――」


 右近はどうでもいい事を口走りながらも、好奇心を抑えきれなかったのか弾んだ声で「確認してみるからちょっと待って」と断りを入れ、自分の方から会話を中断。すぐに通話口からドタバタガラリと移動する気配が音声として伝わってくる。

 最後にカラカラと旧校舎の窓が開く独特な音が聞こえて、右近が通話を再開させる。


「ああ、例の錦織先輩だね」


 右近から寄越された情報に、預真は先日見せられたカメラ越しの映像を思い浮かべつつ、廊下側の壁に身を寄せる。


 しかし、間近で見るとこれ程までとは……。

 これが一人に向けられているとしたら相当なタマだぞ。

 よく刺されないものだな。


 ドロドロとした負の感情の嵐を間近で見せられた預真がどこかのバトル漫画の台詞か、それともドログロな少女漫画などにありそうな呟きを心中に漏らしていると、通話口からわくわくを隠し切れない声で凶報を知らされる。


「あれ?廊下の反対側から葵ちゃんも来たね。教室を一つ一つ調べてるみたいだけど。ピンチじゃない?」


 何を楽しそうに――なんて文句を言いたいところだが、前門のストーカー。後門の女子の群れ。そんな状況に無駄口を叩いている暇はない。


「逃げ道は無いのか?」

「2階だし、普通に窓から逃げるとか?」

「下の花壇には校長がいるんだよ」


 早口な問いかけに対して右近から提案された逃げ道は既に潰されている。電話を取る直前に確認したばかりだから間違いない。


「じゃあ、錦織先輩が引き連れる人混みに紛れて逃げたらどうかな?」

「女子ばっかの中にか?」

「いや、取り巻きっていうのかな。男子も何人かいるからどうにかなると思うんだけど」


 右近の妥協案を受けて預真は身を低く移動。教室と廊下を繋ぐ窓を僅かに空けてその隙間から斜めに廊下を覗き見るも、そこに居たのは楽しそうに女子と話しながら歩いている錦織くらいなものだ。

 右近がいう男子が居るのは女臭そうな人垣の向こう側か、その姿は見えない。

 それにだ。


「いい、もう手遅れだ」


 その一言で右近も理解したらしい。

 いや、向かいの校舎から中途半端に開いた窓を覗く人物を確認したんだろう。


「ああ。見つかっちゃったね。残念」


 そういいながらも今にも笑い出しそうな通話口からの声と同じくして、預真が廊下を覗く窓の上部から声が降ってくる。


「みぃつけた」


 ともすればホラーにも聞こえる台詞を口に窓から覗き込むのは葵。

 預真はすぐ隣のドアから脱出を測る。

 そして、声でもかけようとしていたのか、手を伸ばしたポーズで固まる錦織を始めとしたハーレム一同が唖然とする前で追いかけっこが再開される。

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