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イケメンと身勝手な煩悩

 日向葵は入学当初から錦織昴に狙われていた。

 それはある種の一目惚れだったのかもしれない。

 錦織はただキラキラと輝く葵を汚したい、自分のものにしたいと、ドロドロとした欲望を身勝手に押し付けようとしていただけだった。

 錦織はそれを自分の持つ当然の権利だとさえ考えていた。

 何しろ自分は容姿端麗、家柄も良く、サッカー部のエースである。

 2、3年生は勿論、特に新入生にとっては憧れの存在で、学校一のプレイボーイだ。

 錦織はそんな周囲の認識を自覚しており、それを自らの欲望の為に利用し、まるでゲームでもするかのように女子生徒達を次々と毒牙にかけていた。

 そして、今回の獲物がたまたま葵だったというだけだった。

 葵は新入生で恋人もいないと聞いていた。

 錦織としては簡単な相手だとそう思っていた。

 ところが、こと恋愛に関して超常的な眼力を持つ葵にとって、錦織という人間は糸切り歯の先っぽにすら引っかからない相手だった。

 自身の容姿を、家柄を、信じて疑わなかった錦織にとって、申し出が受け入れられなかった事はこの上無い屈辱だった。

 名前の通り、ヒマワリのような笑顔が、丁寧かつ丁重な断りが、時に傍若無人なその対応が、錦織のプライドを粉々に打ち砕いたのだ。

 自信過剰な人間は往々にして諦めが悪かったりする。

 錦織はまさにその典型で、素気無く断られたことにより逆に火が着いてしまった錦織は、ことあるごとに葵へのアプローチを仕掛けるようになっていた。

 しかし、最近になってうろちょろするようになった羽虫が状況を悪化させる。

 しかもその二人組は中学でも有名だったゴロツキだという話だ。

 どうにか葵を落とす為に、使える友人に探偵のまねごとをさせた結果からも、その二人が自分の目的にとって障害となるだろうことは確実だった。

 正直、これ以上の時間の浪費は許されなかった。

 この学校にはまだまだ多数の美女がいて、自分に選ばれるのを待っているのだ。

 そんな自分勝手な焦りと砕かれたプライドが相まって、普段ならば最後の手段となる暴力を早々に使わせてしまった面もある。

 だが、友人達はあえなく返り討ちにされてしまった。

 今まで何度もお手伝いを依頼して使えると思っていたい彼等がだ。

 相手がこちらの想定を超えて強かだったというだけなのかもしれないが、これがまた錦織のプライドを傷つける要因ともなった。

 しかも、あろうことかそのゴロツキは襲撃をネタに脅しをかけてきたのだ。

 この地の有力者の孫である錦織昴にだ。

 そんなこと許されるハズがない。

 そして、その脅しが本物であると証明するように、最近になっての錦織に対する葵の態度が露骨に冷たいものになっていった。

 けれどもそれは預真や右近の所為でなく、錦織自身の日頃の行いが原因となり、葵が詩音に向ける心配が引き起こしているというのが正しいのだが、自分の都合のいい解釈しかできない錦織にとって、自分に非があるなどとは思いもよらない事だった。

 相手は情報屋を自称する新入生。

 先に手を出した金城グループが壊滅状態らしいという後に得た情報からも、侮れない相手であることは間違いないだろう。

 とはいえ、万が一の裏切りに備えて全ての証拠はこちらで握っている。他に有力な証拠といえば本人の証言くらいなものだ。

 裏切者は誰だ?葵はどこまで知らされた?

 完全拒否の葵の反応からみても、高いレベルの秘密を知らされたということが分かる。

 もし、全てを知ってしまったいたのだとしたら、早急な手立てを講じなければならないだろう。

 そうしなければ、影響は自分だけでなく家族及び、約束された将来を失いかねないからだ。

 しかし、あまり深刻になりすぎる必要も無いだろう。自称・情報屋を名乗っているとはいえ、相手はただの高校生、多少の証言を取られたくらいならその元を封じるだけでいい。殆どが金を渡せば済むことで、従わないのなら権力という名を借りた圧力、それでも反抗するのなら友人達とは別口の実力行使に訴えればいいだけの話なのだ。

 それよりも、得るもの無くして撤退するなどという事態は錦織のプライドが許さなかった。

 だが、彼女がある程度の暴露をされていたのなら手を出せないのもその通り。

 どうすればいい。どうすれば彼女を手に入れられる?

 対応策に苦慮していた錦織が目をつけたのが葵と仲の良い地味な少女だった。

 葵の足元にも及ばないが錦織も好意を敏感に察知する感覚を有していた。

 それは生まれ持った環境によって培われた処世術のようなものと呼ぶべきか、祖父や父に擦り寄る人間の行動パターンを感覚的に統計化したような後天的な才能で、思春期に入ってからはそのスキルを女性関係に転用。絶対的な自信によって成り立っている勘のような代物だった。

 錦織は控えめに送られる視線に憧れの色が浮かんでいることを感じとっていた。

 正直好みではない――が、3人によって傷つけられたプライドを回復させるには、最終的に葵を手に入れるには、彼女を利用するのが一番確実だと錦織は考えた。

 さて、問題は彼女をどう使うかだ。

 いや、きっかけにさえなればどうでもいいか。

 攻略の鍵さえ見つかれば後はどうとでもなる。

 普段、見せない笑みを浮かべる錦織の脳裏には、既に葵を組み敷くその瞬間の光景が映し出されていた。

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