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1(1/8)-ツメキリ節孝-

遅れてご免なさい…

只今、日刊連続投稿中であります…

あと七話ほどございます…

###1(1/8)-ツメキリ節孝-












「つめきり? 借りたい?」




「…………、」




 こくり、とルーは小さく頷いた。




「まーいーけどー、でも、レンタルするとして、だいたい何日くらいお泊まりさせるん? この俺ちゃんの専用ツメキリを」



「え、えぇっと、その……まだ、きめてません……」



「ふむ……」




 俺ちゃんは、いつになく元気のない……ルーの俯いた目をみながら、しばし考え、




「ええわ。ルーもこれで生活衛生を獲得するんやで~」





「! あ、ありがとうございます!!!」





「うわっ?!!」




 その返事をきいた途端、顔を喜色満面にして、

 ばっ、と小さな腕の両手で、俺に強引なシェイクハンドをしてきた、ルー。




「それじゃぁ、行ってくるね!ユウタ!」




 あ、ぁあ……




、、、。。。。。。、、。




「はてさて、どうなるやら?」



 果たして、この長い一日のあらましというのは、こうして彼の部屋の中から始まった。

 ゆうたは、戸惑うばかりである








ーーーーーーーーーー



ーーーーーーーーーーー








「やればできるじゃない」




「!」




 エリルリアからそう声を投げかけられて、

 ルーは、心底ほっとした顔持ちと気持ちになることができた……




(やった…! …叔母さまも、ゆるしてくれそう……)




 そう思うと、ルーの目にも、なんだか涙がうかんできた……






 場所は、屋敷の食卓の間である。



 夕餉の時間には、まだ浅い。



 まだ、外は昼暮れの色の空であった。





「ふむ、それがツメキィリ……」「ふぉっふぉっ……」




 ルーの小さなてのなかに握られている、やや大ぶりなそのツメキリ。


 その銀色のステンレス製の獲物を、注意深く観察する、ガーンズヴァル爺である。

 細君のエリルローズ婆は、にこにこして微笑むばかり。





「……興味深い、ですね……」「そうですねっ、タチアナ!」




 メイドらもそのような反応である。





「ふーん、……それが、」




 エリルリアも、かつては魔導学者として魔道具や魔導機械の関連に関わっていただけあって、

 知的な目で、その銀色を見やっていた。





「うむ、それでは……」





「ちょっと、」




 ガーンズヴァルのその素振りを遮ったのは、エリルリアであった。





「アタシは……あとでいいわよ。せいぜい、最初はお父さんとお母さんに実験台になってもらって、様子を見させて貰うわ」




「これ!」「うぬぅ…………」





「だって、つかいかたも案配も、加減もわからないしー?」


「ぇぅっ、……」



 そういいながら、顔は笑っているが、冷ややかな目を姪に向けるエリルリア。


 姪御たるルーは、恐縮して小さくなるしかない……





「あ、ぁぅ、ぼ、ボクが切って、いい、の……ですか?」




 不意なことだったので、質問する、ルー。

 ルーは、挙動をおどおどさせて、叔母にそう尋ねた。




「使い方、みせてくれれば、私は自分でやるわ?」



 そういいながらこの叔母は好戦的な笑みを浮かべ、



「ま、愚姪あんたには、アタシの爪は切らせないわよ。

 どんな怪我させられるか、わかんないしー、」



「あぅっ!?」





 ルーには、それがとどめであった。




「ぅう……ひっぐ……ひぐっ……ぅうぅ……」




 ルーの瞳に、涙が去来する…………





「……うぬ……」




 そこで救済フォローに立った……のはガーンズヴァルであって、




「我は…………ルーやに切ってもらいたいのぅ、

 優しい、ルーやに。

 のぅ? ルー?」




「……! は、はいっ!おじいさま、!!」




 そう言われて、自信がよみがえった、ルー。

 ルーは、ころころと笑顔になった……目の端からは涙の粒が落ちていたが。





「あ、あの、? わ、わたしたちも、ちょっと興味あるなー、って、……タチアナが言ってましたぁ!!」



「……イリアーナ、わたしをみがわりにしないでください。……きょうみがあるのはたしかですが、……」




 仕えるメイドの身である。

 そんな中、家に入ったばかりのニューアイテムを体験するのは、できるのは、並の日頃ではそうそう機会があるものではない……ので、

 それをわきまえつつ、控えめな自分たちの主張であったが、


 メイドたちも、加勢する。

……メイドたちが、そのような声をあげたのが、そのタイミングであった。。




「! わぁ……!! そ、そうしたら…………」




 じぶんはひとりじゃなかった!!

 ぱぁ、と笑顔を輝かせた、ルーは、わたふたとしながら、考えて、




「ま、まず、メイドで、試させてください、」




 そう述べた、ルー。




「やった! ルー様、流石!」「……うれしいです……」




 では、勇者の三竦み、で! 順番を!





「……だーっ! 負けたぁぁぁ……」「……かった、」





 順番が決まったのは、

 タチアナが、先で、イリアーナが、後、ということだった。





「…………、、、…………」





 タチアナは、儚い雰囲気の中に、すこし、期待の気配を、浮かべさせた。……




(ルーさま……元気をなくさないでください……

 おちこむのは、ないたままでいるのは、

 貴方にはにあっていない……)




 そう、タチアナは心の中で暗唱した。

……淡い笑顔となって。

 繊細で薄い雰囲気であるが、やさしい笑顔を浮かべて、ルーに向けながら。





「ちょっと、まっててね……はぃっ!」



「おぉ?! 変形した!! 変形しましたよ?!」



「……なるほど……」




 安全状態から可動状態に可変させた、ツメキリを手に、

 ルーは目の前の家臣たるタチアナに、かしづいた……





(……なんだか……ゆめのよう…………)



 タチアナはうっとり……と……、ルーのその真剣なまなざしと表情と顔を、淡いながらも蕩けたような表情で見守った……






(ルーさま…………)





…………このメイドも因業なものである…………









 そうして、ツメキリの本番が訪れた。





「…………、…………」




「それでは、…………いきますよ、タチアナっ…………」




 バチン、





「う゛っ」



「? どうされました、タチアナ?」



「…………」






 変化があったのは、そのときであった……。




 苦悶の顔を、わずか一瞬であったが、よぎらせた。

 それだけで表情を閉じた、タチアナ。

 タチアナの表情は、失われるように、暗黙となってしまった……。





「……なんでもありません、ありませんが……」




 そういいながら、タチアナは、




「いえ、あとは、あとで、じぶんで、きらせていただきます。……」



 そういって、ルーの前で一礼して、控える、タチアナ、


 タチアナは、顔の表情は変えず……

 切った爪の指を、自分の背後にかくした。。




「どう、どう? タチアナ! ボク、タチアナのゆび、きれいにできたよね?」




「…………はい、」




「! はゎぁぁ……!!!」




 ルーは目を輝かして、愛らしい小動物の様に顔をまんまるな笑顔にすると、




「こんなに使い方がカンタンだっただなんて!

 これなら、おじいさまやおばあさまに使っても、大丈夫だよねっ♪」




「…………はぃ……」




 タチアナは、おののいた。

 そこで様子の異変に気づいたイリアーナが、タチアナに尋ね、




「どうされたのです? タチアナぁ」



「…………なんでもありません、」



 腰の後ろに、きられた爪の指の手腕を、隠した、タチアナ。



「……が、次は此奴コイツで、試してみてください。」




 それから、タチアナは、傍らのイリアーナを、差し出した。




「! おおっ、やったぁ! いいんですか? タチアナ!」 



「……貴方も味わってみるべきです。これを……」




 タチアナは、そうして、無言になった……




「……??? おかしいですねぇ、タチアナのやつ……」



 不審をぼやきながら、イリアーナはルーの前に行き、



「それでは、おっねがいっ、しますっ! ルーさま!!」



「うん! それじゃあ……行くよ!」





 ばちん、と。




「……!!!!?」





 つづけて、バチン、と。





「っ゛」



 イリアーナは普段はああ見えて、しかし中々に聡い。

 たったこの一瞬、二瞬で、己の身に走ったそれにより、何なのかを悟った。

 この状況事態の全ての全容を理解し把握して、そうして…

…よわよわしく、イリアーナは、この“厚意”の中止をルーに求めた。

 極力、主人・ルーへの態度と表情と感情に、己の畏れを写さないように、堪えながら。



「こ、この、このへんで、……」





 脂汗をかくイリアーナであったが……





「? どうしたの? イリアーナ?」



 まるで繊細な砂糖細工のような、

 邪気のまるでない、

 無垢で、純真な、ルーの表情。

 



「う゛、」




 その顔と表情で見られてしまっては、イリアーナは、無言になるしかない……





「……いえいえ、な、なな、なんでもぉ~???」




 なので、そう取り繕いつつ、




「…………。。。……ただ、今度の自宅学習の時は、私はデコピンじゃなくて、しっぺ、を、今度の罰とします。」



「イリアーナ?! ひ、ひどいぃっ!? イリアーナのしっぺはとってもいたいじゃないかぁっ?!!」






「……」「……」




…かくして、

 ルーによる試し切りが終わった、

 メイドふたりが、食卓の間の壁際に、そろって並んで、立った。



 そうして、2人は無言であった。されど、ホムンクルスのメイド同士のみに通じる符丁というので、

 例えば足の靴先でリズムを鳴らしたり、壁やモノで、指を鳴らして、信号とするのだ。

 それにより、信号を送りあった。“潜めた声にて、通信せよ”、と。

 そして2人は了解を得合って、それからの連絡というのが、今からであった。

 

 なによりも、今日のこの場での、暗黙の了解の、その無論として…

…お互いのその指というのを、目の前の団欒からは、遮って隠すようにしながら、




(……きこえますか)(……えぇ……きこえますか?)(きこえます)




 ……タチアナが、イリアーナに密かに小声で声を掛けた。。




……(……)(……)



 互いは、共にルーテフィアによる手順がガーンズヴァルに行われる直前の、その光景を前に、立ち尽くしていた。



 無言になるしかなかった。




……ふたりは、互いに符丁を交わし、密かな声での密談を開始した……のであるが、。





(どうします?! いうべきですか?!!)


(……いや、ここ近日いびられてばかりで、我々メイドは見ることがなかった、せっかくのルーさまのあの可憐な笑顔をみてしまうと、罪悪感が……)




 先に激したのはイリアーナであった。

 その返事に、そう韜晦するタチアナに、イリアーナはおののいて、



(それどころじゃないでしょう?!! いいえ、それも大事ですけど……

 で、でも、あれは、あれは拷問器具ですよっ?!!!!! このままでは、ガーンズヴァルさまが!!!)




(……ですね、ドウジバシめ。なにで眩ましたのかはわかりませんが、ルーさまを、騙して……

 今度ヤツが我らに遭遇することと時があったとしましょう。


 そのときは、……)




 タチアナは、闇の属性……と形容できるような、

 剣呑な気配を表情の裏に隠して……

 イリアーナはそれをごくり、と息を呑んでから、相づちし、




(そのときは、)



(そのとき、は?)




 タチアナとイリアーナは表情を微塵と変えず、




(ドウジバシを、こらしめます)



(そうですね、こらしめましょう)




 メイドのこらしめる、は、相応、を意味している。

 そう暗黙中の暗唱を同意として重ねさせた。



(木剣の他には本物のナイフすら握ったことのない、その穢れのないルーさまに、こんな凶悪な兵器を、持たせてしまって……あいつは……!

 せっかくの、爪の整えをルーさまにしてもらう、という、つとめを終えるまでにはなしとげたかった、わたしのながねんのゆめが…………!)



(た、タチアナ? まあ怒りはわたしも同様ですが、)




 メイド二人の暗言は尚も続いて、




(……で、ガーンズヴァルさまにつたえなくて、よいのですか!?)



(犠牲になってもらいましょう、)




(なんですと?)




 まさかのその言葉に、イリアーナは虚を突かれた。

 まさかまさか……相方として長年やってきているその相棒メイドの、

 その忠義深い主人への敬愛がなによりも高く、己以上の忠誠心を誓っているのだ、とすら思ってきたその同僚の、

 まさかの翻意に、である。

 

 イリアーナはそうして戸惑ったわけだが……

 その相棒へと、驚きのあまり顔とともに目配せしたとき、その相方の表情に、なんぞかの考えがあるのだ、というのをそのとき見たのだ。

 

 さしずめ一念は十言で表さん、ならば顔を一目見合わせれば、通じ合う……相棒ホムンクルスメイドのそれに、イリアーナは息をのんだ。

 

 タチアナの表情に、昏いものが過る。




(我らメイドの怒りを、ガーンズヴァルさまにも追認していただきます。

 そうすれば、忌まわしきドウジバシへの復讐も承認されるはず。

 そのためには、まず、先んじた我らへの、後追いの追体験が必要かと。)



(なるほど。)




 タチアナとイリアーナは、密かに嗤った……表情をかえることなく。







「うむ、これが……」




 そして、ガーンズヴァルの番が、現在執り行われようとしていた…………





「ルーや、やってみておくれ……」




「はい! おじいさま!!」




 優しい顔持ちと気配で、ルーにそう言ったガーンズヴァルと、

 それに従った、ルー。




 そうして………………――





  バチン!





「ぬおっ」




「? どうされましたか? おじいさま?」




「う、ぬ……うぬ、どういえばいいのか…………」



「おじいさまっ?! い、い、一体、ボクは、なにをしてしまって…………」




 痛みに瞑目するガーンズヴァルに、

 様相の変化にあたふた、おろおろ、とする、ルー。


 そして……





「!!」






 ツメキリから、その時出てきた、切ったばかりのガーンズヴァルの爪。


 それを、見たとき、遅ればせながら、ルーは理解した。




…………血が、付着している。





「あ、あわわゎ……」




「深爪、しちゃったあ!!」





 唖然となり、

 愕然とする、ルー、






「……ぁ、!」





 そして、それに気づいてしまった……

 







「た、タチアナ?」「…………」





 ルーは、タチアナを見やった。


……タチアナは目を伏せた。







「い、イリアーナ?」「…………、、」




 次いで、イリアーナを見やった、ルー。



……イリアーナも、目をそらした。






 二人とも、汗を顔に浮かべている。



……もくろみが、ルーにとって、想定以上のダメージとなってしまって、早々に脱線したのを悟ったのである。



 メイドのたくらみとは、斯様にうまくいかないものである。








「そ、そんな……」




 ふらり、ぺたん、と、ルーは床に、尻餅をついて崩れ落ちた……





「い、いたいおもいをさせちゃったよぅ?!

 おじいさまに、みんなに!!」





 ルーは絶叫した。

 顔は絶望を叫んでいた。





「ど、どうしよ、どうしよ?!

 たしかに、これで、これできってもらえたんです! もらえたんですよぅ!!?



 おなじもので、切ってもらえたんです!!!!



 こんなことにはならなかったんですよぅ!?




 ボク、なんで、どうして……」




 表情を青ざめさせ、瞳には涙を潤ませて、

 様子を取り乱す、ルー。





「……――ぁ、」






 ルーの前に、影が立ち塞がった。





 正確には、やや違う。




 坐った表情のエリルリアだ。




 烈火の怒りの気配を立ち上らせた、エリルリアが、床にへたりこんだルーのその正面に、仁王立ちとなって……





「あ、あわわわわ…………」










「いっぺんソイツを、ここに、引き釣り出してきなさい!!!!!!!!」








 パチン!








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