3(3/8)-ぷろろーぐ-
###3(3/8)-ぷろろーぐ-
まったく、そうなのである。
ここまでの災厄と危機と窮地が、そんな不幸このうえない、この人物の目の前の道に、隙間なく敷き詰められていたというのだから!
ここまで来ると、あまりの状況の酷さに、嫌味でもなく、から笑いすらこみ上げてくる。
……当事者の脇の、その補助輪役としては、な。
しかして、
同情や憐憫の念も、呼び水の毒になる、のであろうか……はさておきつつ。
このさだめは、
果たして誰の為だろうか、俺のため?
それとも、この……
「ねぇ、ねえ、ユウタっ」
(んだ、よ……眠ぃったら、ありゃしねぇのに、)
そう、この、今まで午睡を喰らっていた、この俺の隣で、同じく横に転がり、おねむの時間を共にしていたであろう、この、こいつ──
「………ぁっ、! ……ふふ~、?」
──今日も今日とて、であろうか。
薄く開きかけた俺の視界の隅っこで、“こいつ”がなにかよからぬような、妙なひらめきを得たらしいことが、隣からの雰囲気で類測可能だった。
そして……こいつは……
その美少女そのままの端正な顔立ちと細身で華奢な躯は、さながら繊細な砂糖細工の少女人形をどこかの神話の神に頼んで生身の肉体に変えてもらえたら、こうなるのであろう、と思うほどである。
そして、砂糖菓子を直に喰ったような、甘ったるささえ耳で感じられるようなほどのあいくるしい声色の……
その両方をもじもじとさせながら、俺に、照れとヨコシマな感じのある妙な気配を向けてきたことを、俺ちゃんは(背筋がヒヤリ、となる感覚で…)察知できた。
まったく、この奴は、神がかりにまで、見事なまでに美少女である。
そう、見る限りには。
見た目、については…
実際、俺に対しては、まるで子犬の如くの、やや甘えが過ぎるのか? という点を考慮に入れても、
性格も人格も、情緒まで、まさにヒロインのようであった。
しかし、である。
こいつのというか性別は、今日の今日まで俺にとっては…厳密には、確かめたことがなかったな。そう、…不明である所の、この、こいつ。
そうなのである。こいつはふつうの美少女、という訳では──
「む、むふ~、?」
ん?…、俺が目を開けるよりもそれは早かった。
こいつが、なにか顔を赤らめさせて、その顔に露のような汗を薄く表せさせながら、
「ユウタ……ねちゃってるのか、な………ふ、ふふふ……、そ、そうしたら………」
──部屋には夏の日差しが窓から刺している──
柔らかな褐色色の髪を日に透かさせて金色のように光らせながら、こいつは俺の上にまたがり、俺の腰にいったん馬乗りになった後、自分の腰を持ち上げて、仰向けで寝る俺の顔を自分の顔でのぞき込む体制になった。
そうして、俺の胸をつっぱる手と両腕を徐々に縮めながら、長いまつげの眼を閉じて、その無防備なやわっこい顔を、やわっこい肌を、そのまま俺の顔に……
……近づけてきて……
………こいつは小さな艶やかな唇をとがらせて、瞑った瞼の相対する先は俺の顔で、徐々に迫ってくるそれは………
「ゆうた、だいすき……「 ぎゃあああぁあっ!!!!???? 」へう゛っ」
なんじゃこりゃぁぁっ!!!!!???????
「あいたぁっ?!」
「おめー! なにすんでぃっ!?」
飛び起きるように俺の頭が発射された結果、
互いの額……メンチ同士が激突した痛感で、俺もこいつも眼をしろくろとさせながら双方向にぶっ飛ばされた……俺が緊急避難として吹っ飛ばしたのだが、
途端、ふわり、と浮いたこの性別不明子のさほど重量のない尻餅が、ぺたり、とあまり重くなく俺の腹の上に着弾した。
………そうなのである。
こいつの股ぐらには、モノはたぶん小さいだろうし、特段、確かめたことはないが、それでも俺と同じくおいなりさんと二つのゴールデンボールがあろう筈の、
そう、〈男の娘〉と所謂言われるたぐいの、そんなカテゴリー性別が♂であろうはずの、そんなやつなはず、なのである…
はずだ。
はず? ええ、筈のつもりである。
少なくとも俺はこいつと知り合ってから今日まで、こいつの分類を〈男〉だと見なしている──
のか?
まあ、ここでいくつかが頭によぎる。
考えれば、こいつと過ごしてきた今日までの日々において、理屈の取れない出来事や体験はままあってきた訳だが、
それは、そのことについては、俺は、俺自身のアリバイとして、それへの追求するつもりは封印しておく…
ほら、言うだろ?好奇心は猫をも殺す、って。
だが、やはり思うのだ。俺ちゃんは。
「えうー! お、おきてたならちゃんと言ってよ?!」
「おまえ! ひとをおどかすにしても! やりかたと! おのれをわきまえるこころを! こういうのはだな、 おまえがな──」
はぁ────こいつが、本当に女の子なら、よかったのに。
「……どきっ!、え、えぅ、えぇと……まま、まさか、ユウタ、ボクの秘密のこと……」
「てならって、はぁ………まあ俺の上から降りてくれ、“ご主人様”?「あう、」
秘密?はたしてなにを言ったのだろうね。こ奴は…
ともあれ、
“御主人様”、だなんて、
普段はかっこつけが大好きでこう呼ばれると喜ぶのに、わざといってやると嫌がるのであるのだなこいつは。
まあ、それはさておき、
しぶしぶ、の様子で、俺の万年メタボ腹の上から、こいつ……
ルーテフィア・ダルク・アヴトリッヒ……は、
その小さな尻のしりたぶの感触を降ろすことに同意をしたのだ。