2(2/8)-ぷろろーぐ-
###2(2/8)-ぷろろーぐ-
そのことは……
ニート無限地獄の直中の俺としては、まさに天佑に他ならなかった。
光のひとすじ! とその当時の俺にはそう見えた。
瞬間的ではあろうが、その刹那は確かに、あったような手応えはあったのだ。
無論、俺はそれに飛びついてしまった。
して、先述のそれは……
なんと! いまの俺は、その職を、この異世界生活でのメイン・ロール、主役割…としてこなしていた。
その内容を職務となるに至ったのだ。
話だけなら、大逆転人生である。
地位とするには裏付けは貧弱なものの、立場というものを得、
報酬はある程度のが、保証されるまでになった。
……まあ、異世界金品建てであるので、
そう簡単な手順では、こちら現代日本でつかえるシロモノではなかったのだが……
どうだろう。
“事実を摘出して/順番に気をつけて/列挙する/だけ”で、らしさのある“夢の生活”を、「演出」してみることが、いまできた。
このアオリ文だけ…ならば、まあ純粋に安楽に楽しめる。そんな内容にも感じられるであろうか。
今後ハロワに求人票を出すことがあったら、ぜひこの文言でいってみよう……と思索する只今の俺ちゃんである。
──だが、であった。
その生活が、今となっては、俺の日常の主幹とさえなった今……
俺は不健康となっていた。
何かって? 身体的にも、精神的にも、です。
俺の生活の半身が、どっちゃりとその日々に浸かってしまった……その結果、
それだけで済むどころか、
いわば足の先から上昇方向への遡上すら開始したその“非日常”により、
現在進行形で俺自身が腰から脳天まで染め上げられていっている、
そんな事態にさえなってしまっていたのだから!
毒に侵されていっている、という形容すらできようか。
まるで底なし沼にがんじがらめにされてる気分だ。
こうなると、正直、なかなか心からの賛与はするに苦しい状態だ……
というのも……それも、
単にカネやゼータクという即物的な物事による欲がとまらなくなっての金満病、といったものではない。
そんなものならば、どれだけよかったことだろうか?
……まるで、
ギャンブルにするとしても、それでもただ事の度合いに収まりきらない、
到底カタギの商売とは言い難い、
いち秒単位での時間経過で、リスクばかりが膨らんでいくそんなお商売……言っちまえば、貧乏くじを引いてしまった体で……、
そんなそれの始末処理を、ワタクシはやっておるのであります。
しあわせな、すばらしい未来というのは、此処から先に、有るのか?
唯、現状維持だけでも、ひーこら言いながら、なんとか撤退戦にまでは及んでいない、ただそれだけのみ、な状況……
こうなってしまったのが、恨めしい? いや、もう遅い! 遅かったのだ……
いやー、治癒回復蘇生の魔法がある異世界でよかったよ、ホント。
それにしても物理的な痛みは絶えないのだが……
さて、なぜこの物言いなのか?
断言をもっと言えば、この“チャンス”なるものは、この俺ちゃんたちに、
諸刃の刃となって! 牙を剥くに至っていたのだ。
それも、物理的に。
初見に感じたその甘やかさは、まるで口に含んだ綿菓子のように中途で掻き消えた。
夢か幻か、それだけで済んだらば、
まあまだダメージコントロールの範疇で、すぐに済んだろう。
だが……その上どころか、その幸運は、まるでコインの表と裏の表裏一体のように、俺ちゃんたちにとって、呪われた僥倖にすらなっていたのだ…ということに、話が尽きる。
端的に言おう。
この異世界生活、今となっては、とにかく物騒すぎる!
逃げ出してえよー!と叫ぶのは、今でも都度、PTSD症状者のように毎夜のごとく叫んでいるわたくしである。
まあそれはいい。
とにかく、そのブッソウ加減というなりや……──
まさに、死んで覚えるなんとやら。
を、実際に体感アトラクションの如く体験させられている、そんな状況が、今もなお続いているのであった。
毒づくのはまだ続きまっせ。
そう、全く、さながらに、だ。
ゴウカで贅沢そうにラッピング包装がされていたプレゼントボックスが現れたから、
マヌケな俺は、よろこんで手に入れて、封を解いてみた。
そうしたら、
その正体は、禁忌が折り詰められた、パンドラの箱であったのだ!
……というような、そんなあらましだ。
だが、一度始まったそれはもう止められない。
なぜならば……何も知らない段階で/何にも踏み入れる前の/その時系列の先を知りえることが出来たとして/その回避と逃走ができるチャンスがあったなら、俺はそうしたかった……
しかし、その謎の中身を知ってしまった以上、
これからの日々は、それに拘束された俺ちゃんは、約束された献身と努力を果たして捧げなくてはならない、そのような段階に、いまはある。
単純に、……要するに後戻りできない、っていうわけだね。
……言い訳をすると、逃げる一手では救えられぬものも、紛らわすことすらも、俺が関わってきた物事の全般がそうであった気が、いまさらながらにする感じではある。
関わってきた人間たちや事象の数々。
それらが絶対の危機と絶命の窮地にあったさなかに、
なにはともあれ、俺ちゃんと“そいつ…相方”とのゆるゆる日常ジャーニーの結果と成果として、起死回生の符を手にできたのは、本当に悪運の良いことであろう。
それこそが、“相方”と成し遂げた、ひとまずのゴール、もしくはリ・エントリーのチェックポイント、
それらのいずれか…なのか、もしくは両方、なのだろうな?
はたして、俺とこの“相方”のどっちが、そのきっかけや結節点であったのだろう?
それについては…まあ、考えぬのが止む也、というものだろうか。
さて、そうしてその、もう一つの意味について、だ。
それは、この俺の“相方”について。
すなわち、この異世界なるものは、禁忌の箱が開かれた今においては、
斯くも幸福ではなく難儀で困難なものであった。
現時点のいまもなお、怒涛のごとく経過が継続しているその災禍のラッシュによって、
冒険的に無邪気に楽しんでいられた頃は、不思議さと楽しさはあったろう。
が、残酷さの境目を超えたあとは、それらは消え去り……優しさはなかった。
特に、こいつにとってはそうだったろう。
不幸にも、
パンドラの箱の封が開いた場面に俺と共に巻き込まれ、、、
そして現在は、俺ちゃんたちに限らずの、多々大勢にとってのその残された最後の希望!
それの役目を、務めさせられることとなった、
実に不幸で不運な、その人物…………
そう……“勇者”。
大義の任を与えられた、
祝福されし、選ばれた戦士、というその呼び名。
その称号を与えられた、何物でも無い英雄的記号のその生け贄か依り代として、
宿命と運命を定められてしまった、この人物。
その人物こそが、俺ちゃんの、相棒、相方……ということなのである。
……のだがね?
「ユウタ、ユウタぁ、おきてますか? ねぇっ」
フゴ、……
その本人殿が、またもワタクシめに声を掛けてきておらっしゃる。
アア、まだ寝かしておいてくれ……
(続く)