4(4/17)-異世界っ娘がやってくる-
###4(4/17)-異世界っ娘がやってくる-
まあ気を取り直して、
「ボク、騎士ルーテフィアはいま、長らく閉ざされたままだった、ボクの家が守護せし森の扉の、その向こうの異民族の世界を探索してるのです。
もしかしたらおじいさまの治める領土に飛び地ができて、大きくなるかも知れない………そうなったら稀代の大出来事!
一体どんな発見があるのでしょうか…?」
聞いたことのある、元の世界で放送されている
……一般の民衆にとっての数少ない娯楽である……
“らでぃおどらま”のナレーションの節回しを真似つつ、 ルーは、探検と銘打ったとおり、この勝手知れぬ一軒家の中を、
大胆不敵に……というと、美化が過ぎるだろうか。
ともかく、ある一種、大胆が過ぎるしぐさと痕跡の残し方で、
この家の中の探検を開始した。
ルーテフィアの冒険心は強かった。
好奇心や、知的探究心といってもいいだろう
功名心もさることながらであるかもしれない……
土足でどかどか、
おててでぺたぺたさわりまくり。
「むふ~、♪」
端から見れば、泥棒未満の……
粗忽者の身のこなしであった。
その粗忽者……もとい、ルーテフィア。
「ここは……?」
そうしながらルーは、しかしあたりを見渡してみた。
やはり自分の世界の住居とは、まるで雰囲気が異なる。
天井から、なにかよくわからない装置の光が射してくる感じも、またルーの眼からすると、不思議なようなおかしなような。
それに照らされた、部屋の中。
壁、床、天井、部屋とその隣の部屋の連なり……
へんてこ、というより、使い方のよくわからないものに満たされた、室内。
ルーは自分の“異能”でそれらを調べることができる。
触れるだけで、触れた対象にまつわるあらゆる事が、
データとして完備がされていてその上網羅された知識として理解し、わかることができる。
ふだんつかっている使い心地、作られ方と素材材料についての詳細、
さらにそれを遡っての事まで……
つぎからつぎへと、人差し指で触れていって、使い方等がわかっていくのが、おもしろい。
「 ♪、♪ ♪ 」
ぺたりぺたり、ぺたぺた、とんとんとん、
指でなんでも触れていきながら……
台所、居間、と覗かれて探検されていく。
「ふんふんふん~~~~♪」
足音が連続するたびに、家の床には土の足跡がスタンプされていく……
「おじいさまも、苦しいときはこうした、っておっしゃってましたし………いまのうちから、れんしゅうれんしゅう!」
(…で、でもちょっと後ろめたいかも……)
ルーテフィアの影が通るたびに、タンスやチェストぉ!といった物の
ひきだしが、杜撰に引き出されて物色がされていった…………
中身には金品など、るーてふぃあからみてめぼしい物はなかったため、ひきだされた引き出しの隆起だけが、戸棚のかたちに現れて残されていくのみであった………………
「むふ~~、♪… ………ほえ?」
茶の間、にルーは出現していた。
同時にこの茶の間は……道寺橋家の雑置き室と化してもいたのだが、
その雑然に置かれたそれらにもよって、ルーテフィアはますます冒険心を刺激された。
まあそれはさておき、
干した草の茎を編んだとらしき床敷き……畳……の感触を物珍しげに感じて、ルーはブーツを履いた足の先で、トントン、と床踏みをしてみる。
なるほど、これはいいものだ。
「わぁぁ……! えきぞちっく、という言葉のとおりですねっ♪」
すぅーっ、っと息を深呼吸してから吐くと、この干し草で編まれた
床敷きの、香りとエッセンス、というのが自分の身体の中で喜ばれるのが
ありありとわかった気分に浸ることができた。
「むふぅ、♪」
ルーはますますこの家が気に入った……
そんなとき、
「あっ、ケットシーちゃん!」
庭に出るガラス戸から、外の様子が見て取れた。
見たことのない……厭、正確には昨日、あのゆうちゃんさんにいざなわれて、多少の往来はしただろうか。
ガラス戸からみる、そんな現代日本の住宅地の風景の中に、
塀を伝う猫の姿があった。
子連れで通る、ふつうの母猫だ。
連れる子猫の数は……
「四つ足で歩くケットシー…… 魔法が使えるはずなのになんでだろ? これが、ふしぎな異世界の不思議。
さしずめ興味深い、という言葉の通りのことですね♪」
ルーテフィアの住む異世界において、ケットシーというのは気まぐれで気難しく、先の戦争の折のこともあり、あまり人間に慣れてくれるモノでもない。
めったにできない貴重な体験! と、ルーテフィアは笑顔で喜んだ。
このときこそが、
本でしか見たことも知ることもなく、生の本物のケットシーとあったこともないルーテフィアにとってもの、“猫”の見た目をしたものとの、初めての遭遇であったのだが……
まあそれはさておき、
「むふん、むふ♪」
“ちりん、ちりん”
ガラスの工芸品だろうか?
涼しげな音が耳に残る……
「ふぁ、……眠たくなっちゃってきた……」
おねむの気配、がルーに訪れていた。
畳の上に、ごろんり、と寝転ぶ……
小柄な身体が、畳に晒されて横たわった。
「……なんか、あついよぅ……」
それからしばらくして……何分がたっただろうか。
一時間はたったかもしれない。
「ぁぅ~~~~~~っ」
そういえば、元の自分の世界より、この世界は、まるで夏のようである。
事実としてそうであるし、さらに人が居ないため冷房が切られていたこの茶室であったのだから、それ相応に気温が高くなる。
ルーの身体は寝ながら蒸されて、ぺったりと汗ばむに至った。
「あぅ、帰ったら水浴びしたいな……
それとも、この家の近くに湖とか、池や、ほどよい澄んだ川があれば……
ふぇ~~っ……
……――あぅ?」
同時に、感じていたことがある。
よく耳を澄ましていれば、眠る前から、何かご婦人方のしゃべり合いが聞こえてくるのが、そう遠くない場所から伝わってきていた。
ルーテフィアもそれに先ほどから気づいていたが、しかし警戒してはいなかった。
なので、
「!」
とた、とた、とた……
という階段を降りる音、
間違いない、屋内の音……この家の中での音だ。
「ふぁ~……よく宿題できたからおなかがすぃたぁ……
おか~さーん、あたしのふるーちぇ、ど、こ……、
……、……?」
「……」
……階段の前と部屋の中、
それぞれが鉢合わせをした図である。
「……」「……」
「現地人だ!」
わっ、とルーテフィアが叫んだのがこのときである。