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イメージテキストその4:山嶺の弓







 戦争の最前線……局地戦域。

 


 

 前線地帯:アロウストム山渓。

 



 山の山稜を縫って続く細い不整地の丘陵に、点々とその防空陣地は存在している。


 第一線の最前線からは内陸にだいぶ行った地域である。

 しかし、ここに、この紛争をかろうじて鈍行に鎮静させ得ている、肝心の要があった。


 山雨が霧雨(けぶ)る、その日の遅い朝のことである。




「生命波パルス検聴、確認。種別、小型竜、三、輸送竜、一」


「対空戦闘を用意! 第一種配置!!」



 発令と同時に、警戒を告げるブザーが管制所の建物内に鳴り響いた。

(いわば対空ソナーとも言うべき)魔力パルス波探知器の検聴員からの報を受けて、発令所の中がにわかに慌ただしくなる。

 即座に飛んだ防空戦闘の指示に、すぐさまの対応が目まぐるしく開始される。

 


「目標、基軸方位、………、、、、」


「…諸元、一次入力完了。ブラストログ、砲座開け!」



 発令所からも、その光景は見えていた。

 即応弾が装填済みの砲座式ブラストログ発射器の姿が、雨よけのキャンバスシートのカバーを数人がかりで降ろされて、その中から現れる。

 そして砲座の運用員が、取り付くような早さで砲座の各持ち場へと乗り込んでいく。

 彼ら運用班によって制御と操作が取り計らわれ、砲座の方位と俯仰の角度操向が、数秒の内に完了する。



 虚空を睨むように、砲座の機構が向けられた。




(対空ファランクス!)



 そして、轟音、

 複数基の対空砲座から打ち上がった相当数のブラストログが、後端から白煙を噴射しながら空たかくへと、殺到していく──



 今、命中があった。命中二、命中三、



 曇り空の向こう。爆光の微かな点滅と炸裂の音が彼方から轟くたびに、遠くの空から霞んで聞こえる、竜たちの断末魔が引き替えにされていく……そんな一連がしばらく続いた。




 轟く音も発光も、しばらく止んだ時間が訪れた。




「……次弾、装填! かかれ!!」



 砲座長からの掛け声が発されて、待機していた補助の兵員たちが担当通りにブラストログの次弾装填に取りかかる。

 

 


 対空サイトは十全の働きをしていた。






     * * * * *





 その情勢が変化しかけたのは、その翌朝のことである。




「我が軍の、ワイバーン隊の航空写真だ。今朝の第一号の物である……間違いはないだろう」


「………」



 司令室で、陣地の指揮官と士官らが、卓の上に散らばらせた航空偵察の現像写真を睨みながら、囲んで会議をしている。





「…探知班の報告では………こちらへの攻撃部隊と推定……」





 ことここに至り、この山嶺にて、エルトール軍は“いままでなら”困難な防衛戦に突入しようとしていた。






     * * * * *





──その数十分後、




── ……! ──



 陣地にもうけられた着地地点ポートに、堂々と大きな飛竜の数体に、巨鳥類…

…ドラゴン並以上に体躯の巨大な、精霊と魔力の加護を帯びた鳥類……それがさらに複数体の、

 そのエルトール軍の軍属空挺匹たちによる、混成飛行隊が着陸しようとしていた……


 飛竜と巨鳥類の身体には、兵員輸送ゴンドラとハーネスが掛けられている。

 そのハーネスに懸架……つり下げる形で、マシーナリーゴーレム・CVTクローズコンバット・バーティカル・タンクシミターの機体は、この地へと輸送されてきていた。



「着陸……よぅし、「ゴンドラ、開くぞ!」あぁ、大丈夫だ!」


 飛行長たる使役主による着地の確認を最後に、ゴンドラのハッチが開かれる……

 スタンディングアーマーの搭乗要員と運用支援員達が、その中に納め乗せられていた。

 その彼ら彼女らが、一斉に駆け足で地上に降り立つ。



 僅か一時間内のうちに、七機のシミターが空輸でこの地へと運ばれてきていた。


 宮廷内でも随一の好戦派で知られる、エルトール帝国の第三皇太子・フレズデルキン。

 その人物が運用と研究の指揮を取っている、軍事施政の数あるうちの一つ、

 実験的ながらも組織された、機械化空挺部隊………の、その実践への本格投入。

 

 今回の戦いは、帝国軍上層部により、その様な意味を付与されたのである。



「内地からはるばる飛竜便で空輸されてくるとは、まったく、司令部も我らがシミター部隊の使いが荒い……ふぅ、…陣地の指揮官と話がしたい…何処におられるか?!」



 シミター隊の部隊長が、早足で司令室へと向かいながら、自らの従えている部隊員へと指示を飛ばしていく。



「101隊、任務運用に入る! 総員、機の準備が完了次第、搭乗を開始しろ!」「はッ」




「ハーネス、外せー!」「機関砲、機構、良し、機体本体、バランサーチェック!」



 手際よく、運用員の作業によって、七機のシミターが、戦闘準備の状態へと仕度がされていった。





 陸に降り立った、灰色の装甲機・シミター。


 整備士による簡易チェック:七機とも活動可能。走行系に問題なし。

 マニュピレータ両側共に使用可能。センサー類サブチェックOK、

 各火器・火器管制、活性化開始。。。。。



 その機体が始動する時は、もう、間近に迫っていた──

 





     * * * * *






 アロウストム山渓の山脈の、その谷底の狭間の細い岩場道……



 かつてこの地に街道を開こうとした折りに、最初の試経路として縫われた、その名残の道である。

 隣国との衝突のそもそもの由来はそこに辿ることが出来る。



 


 


 その道筋の、遠く向こう……山の高低に沿って縫われた道の、その彼方。



 遠くの道の稜線から、まるで鶏の頭のような……赤い羽根を付けた、銀の兜のシルエットが現れた。……魔導甲冑の鎧兜だ。


 その甲冑の数は、ひとつ、ふたつ……と増えていき、ちょうど陽光が雲の影で遮られたとき、兜の影が、銀色に鈍く光りを返してくる。


 飾り羽の赤色が、甲冑の兜の頭の上で揺れる。揺れる。。。

 揺れる羽根が、たくさん、いっぱい。

 鶏冠の列はなおも増えていく。

 赤色の点描が揃うように増えていく。進んでいく……



 雲が流れて再び青空の陽光が降り注いだ時、銀に輝く兜の数は無数に増えていた。

 甲冑の数は群を成していた。そうしてしばらくすると……行進の曲が、聞こえてくる。





 地を行く軍勢が、そこに現れていた。




 この街道を進んでいるのだ。


 這うように進みながら、しかし着々と、まだ遠いとはいえ、陣地までに近づきつつある。

 山の陰に隠れ見えとしながら、その軍勢はかなりの数であった。



 銀色の魔導甲冑の滑るような光りが、岩の向こうに姿を見せている。

 数は多く、500は越える物と見られた。

 それらは統制されていて、行進の如く、行軍をする。その情景はパノラマのように広がり、このアロウストム山嶺の谷を踏み越えていくのだ。




 空を見上げれば、青い彼方が果てしない……


 この時いた、ある輜重の兵からすれば、荷馬車で随伴するのがやっとの事で、とてもじゃないがこの山岳行は苦難がある。



 このまま行けば、夕方までには、エルトールの陣地にたどり着き、そして制圧しているだろう……という、今日の明朝の折の訓令を思い出す。

 そして思う。

 その通りならば、そろそろ休憩をいれるころの筈だ、ここの部隊長の裁裁きならば……と、 


 水筒の水をあおりながら、輜重の兵は一人思った。



 ふと見ると、街道の付近は、なかなかの戦場であったらしい。



 魔導甲冑の撃破された残骸が、当たりのあちこちに、四散して散らばっているのに気づいたのである。



 この時、隊務の誰かは気づくべきであった。



 この地帯は、エルトールの対空ブラストログの、対・地上制射による、敵撃破の必殺区域に、ちょうどさしかかる場所であったのであることに。


 あたりを散らばる甲冑も、そのすべては自軍の物であった、ということに。


 今までの侵攻作戦の陸路行き経路は、この地点で、大まかに何度も阻止がされてきて、今までの失敗は、すべてはそれが理由である……だからこそ、先日は空挺作戦による敵地域への攻撃降下に打って出たのだ、ということであった。


 しかしそれも先日の内に撃破されて、阻止がされた。

 ここまで見れば、ほぼほぼの計画はすべて失敗ときている。

 だが、近隣国からエルトールへの最短侵攻経路にあるあの防御陣地を攻略せねば、その先はないと来ていた……正確には、この街道に目を付けている、西偏大陸世界のいくつもの大商会が執心しているのだ。その彼らたちが、手持ちの元本を出しとして、近隣国の議会に鼻薬を嗅がせるも同然に取り入った成果が、このいつ終わることもない繰り返される大遠征の、懲りることのない何十度めかのアタックへと帰結させていた。



 もっとも、いままでの地上経路侵攻で、相当数の犠牲がこの隣国軍からは出ていて、戦訓の研究や引継というのがうまく進んでいなかったのも、この今日の様相のあらましのその原因ということではある……がしかし、




 肝心かつ、問題なのは、

 その、……いつもならば、空のかなたから弓なりに飛んできて飛来し、今日も我らを根こそぎに焼き尽くす……

 憎きブラストログの、その一発もが飛んでこないことにである。


 その異常事態に、まあ彼らのだれもの一人として燃やされた者はいないのだからというからか、だれも気づかなかった。




 原因はいくつかある。が、この場の群に連結されていない、後方の近隣国軍の作戦階級達は、これこそが自ら達の天佑だと信じて疑わなかった……

 雑魚の群をなぎ払うにも、弾薬を使う以上、金と物品は消耗する。

 つまるに、エルトール対空陣地のブラストログの弾薬が、欠乏払底しているであろう、ということが、この今日に至るまでの損害の上で、ようやく成し遂げた攻略の手がかりであると。


 このこと自体は、まあ事実として存在していた。

 エルトールと近隣国軍との、主にワイバーン空中騎兵を用いて繰り広げられる航空戦や偵察の積み重ねにより、大多数のブラストログは残余わずかであると、推定統計的に割り出しができていたからである。 



 非情に無茶を掛け合わせたにすれ、数式に理論があると、まあこうなる。

 これこそが今日までの戦闘の、ようやくの戦果の取りかかりには違いなかった。



 だが、それ以上に、なによりも用心は欠かしてはいけなかった。

 この場の群は、ただ己等の勝利を疑う物とはせずに、いま地獄の何丁目かのさし当たりに通りかかる間際である。



 つまり、それがやってこない、してこない、ということは……




 替わりのなにかがある、ということのべきに。





「敵の機動甲冑隊を捕捉、混成兵種と推定!」



 そう。

 これを待ち受けていた……待ち伏せしていたのが、101シミター隊の計、三機。 



「よぅし……」



 残りの四機は、基地施設防衛のために残して行っているが……

 三機に乗り込む二人づつ、計六人の、操縦桿を握り込む手に力が入る。


 すでに作戦は始まっていた。




「機体、始動! 一斉射!」





 ごぅん、と、岩場の影に隠れた、灰燼色の装甲機・シミターが可動する。


 マニュピレータの操行をして、伏せ角を変えたのが今のこの一瞬だった。

 そして右肩のマウザーと頭部直下懸架のバルカンに操作がされて……





…… ──! ──




 ちょうど一直線に真正面から進入する敵に対して、こちらは逆さにした丁の字の底辺両端を作る形で、待ち伏せを取っていた。


 

 敵の隊列戦闘には、槍を構えた歩兵の団が数段、組織されて部隊の先鋒としていた。

 その隊列の正面を、シミター機のヴェトロニクスは的確に捉えることができた。

 照準が定められて、火器への操作が作動する。



 左右に分かれての、銃撃が今、ときはなたれた!





………BWOOOOOOOOOOMMM!!!!!!………




「! ぎゃぁ!」「アァアア!!」



 

 射撃開始がされた。そうして、相手はこちらの機影を見つけるのも叶わずに、やられるがままに撃たれていった……のが、今だった。




 DOKDOKDOKDOKDOK!!!!!!




──BAQOOOOOOOOOOMMMM!!!




 谷底に、銃撃の砲声と炸裂の爆発光が瞬いて閃く──

 シミターの主力兵装、二十ミルのガトリングと、三十五ミル・マウザー級の魔導機関砲による掃射が、ぬりつぶされるように浴びせられたのだ。

 敵方の、先鋒の歩兵達もその中列からの甲冑兵どもも、皆一様に打ち砕かれていったのが今だった。

 そうして、被害はさらに膨らんでいく。

 500居た甲冑兵は見る間もなく撃破されていき、その残骸が散らばって、街道の道には屍が積もって行くばかりであった。


 魔導甲冑は“特別”な物だ。

 いちいちの機動性はまああるものだとして、

 問題なのは、“操作操縦”と、目標へのシグナルコマンドの、その入力自体でもある。


 いかんせん、我が方のシミターCVTの様に、使い勝手がよく利便性が高いものではなかった。

 そのために、接近してでなければ、魔導甲冑は本領の発揮はできなかった。




「!! あそこです!」





 しかし、そこで先ほどの輜重の兵士が、指を指して叫んだ。


 魔導機関砲の発砲炎……その光をみつけて、見破ったのだ。

                ・・

 この瞬間、大まかにシミター機・二機の位置と居場所は、この隣国軍の兵士たちの知るところとなった。




「行け、ビースト共!」




 だとすれば、ここにしてようやく、魔導甲冑にも出番がくるというものである。



 すぐさまに、目標評定が魔導師の手によって執られ、目に赤く光の入った魔導甲冑たちが、うなりを挙げ……群を成して、進み始めた。




「評定其の1、評定其の2、各魔導甲冑、コントロール正常、コマンド16番、入力!」


「直ぐに17番を入れる準備をしろ……評定、ちゃんと合ってるんだよな?!」



 輜重の兵士が動かしていた馬車とは別に、この魔導甲冑部隊には無電の中継馬車が繋がれていた…

…その中継を通っての、後方の指揮指令馬車。その様子。



「コマンド十七番、準備ができました。……実行、コマンド十七番実行完了!」


「くりかえしのコマンド一番に戻すぞ、コマンド五番で、目標、中間評定、追尾!その後コマンド八番で追跡に切り替える」



 さて、その頃の魔導甲冑部隊。

 二つの隊列が出ていった後、その隊はそれぞれの目標へと向かって、進撃を開始していた。





「gYIおいうygじょkjんs、、、、、、、。。。、、」



 意味の分からない呻きともうなされ声のように言葉を朽ちた喉から発しつつ、魔導甲冑は地を進んでいく……一列の隊を執りながら。

 がしゅ、がしゅ、と液体の圧搾される音とスポンジ状になった筋肉繊維にそれが再充填・再圧搾がなされる音が、この大地に震えて響く……

 廃液をびちゃびちゃ、とシリンジに再充填する音も伴いながら。



 魔導甲冑とはいっても、よもや人間が付けるものではない、おぞましい代物がこれらである。


 甲冑に覆われた、ゴーレム並の巨躯……


 オーガやオークなどを強制肥育させた後にデミアンデッド化し、そのままこの“呪術”の施された倍力甲冑の、

 ベースシャシーとして用いているのである。




「おおいうyっjふytrt:」



 その魔導甲冑が、撃破された瞬間だ。

 ばきゃり、と鎧が割れた。──擦過し直撃もしただろう弾丸によってだ。

 全身を巡っていたリンゲル疑似血液が噴水が噴出するように吹き出てあぶくを上げ、周囲にまき散らされる。

 シミターの魔導機関砲の弾丸が食い破った肉ごと溶けて、蒸発する……



 もう一体の魔導甲冑が、その後ろから現れて、代わりの先鋒となって、前進する。


 魔導機関砲の掃射が、その全身を打ち砕く。

 バラバラに砕けて壊れた全身の鎧が細粒片となって、シャシーフレームのその肉体を包むように潰しながら突き刺しあって、ぐずぐずに切り裂いた。


 またもう一体の魔導甲冑が、その後ろから現れて前進する。


 掃射があびせられた。

 吹き飛び、ちぎれた四肢が空を舞う…




「まずい、」




 シミターに乗る機体後席要員……コマンダーの一人がそう発したのが今だった。


 魔導甲冑たちは、自らの同族の遺骸を踏み越えていき、徐々にだが……シミターへと近づいていく。


 みると、もう魔導甲冑の躯の部隊が、その総勢はほとんど喪いつつも、もうこちらとは少しの距離までせまりつつあった……




「各機、白兵戦に切り替えろ!」「了解!!」



 機体を始動させて、降着姿勢で伏せさせていた機体を立ち上がらせ、引き起こす……即座にフット・ステップが機動して、軽やかな足裁きで、敵・魔導甲冑のただ中へと、かち割るように入っていったのが今のこの瞬間だ。


 進入フォーメーションはクロスの4、呑ますように銃撃を浴びせながら、こちらの機は機動を止めることなく臨機の動きとする──

 二機の機体が左右へと交錯した。



「うわぁ、醜悪な……」「ぼやいてる場合じゃないよ、後席の!」



 直後、このシミター03の、コマンダーの本人は辟易とした。

 機体眺望視界モニタービジョンによって、

 どアップに間近で見る、魔導甲冑のおぞましさに…だ。


 この装甲ごしに、胤が腐り落ちたかのような、突き刺してくるような腐敗臭が幻臭してくるような……そのような感覚。


 空気清浄装置とやらが機能していて安全だ、という機体コクピット内空調の評判は知っていても、やはり避けたい物、というのは、ある。


 小柄な身の後頭部、束ねた髪の一本一本に腐った死体オークの油がすいつくんじゃないか、というような、嫌悪感が走る。




「う゛ぇっ……」



 思わず、増加食として食べた胃の中のポトフ・スープを吐き戻しそうだ。

 まあいい、バルカン及び機体の走行を受け持つのは前席のドライバー。

 後席のコマンダーがすることは、右肩部マウザー機関砲を統制する以外にも、マニュピレータを使った物全般も含まれる。


 はたして、




「このぉ、……っ」



 ともかくも、このシミター03の機体は、白兵戦闘へとその機体を滑り込ませた。


 バルカンによる掃射で並みいる敵を打ち砕きながら、

 マウザーの数発を見舞っていき……粉砕する。


 しばらくこれをくりかえす……敵がより、もっとちかづいてきた。

 


「接近の距離が短すぎる!」


「ならあたしに右マニュピレータの統制を貸しな!」



 とはいえ、慣れの問題で片づかない物も、ややある。

 自機のマニュピレータを汚すのを嫌って、

 銃撃に執念しすぎた、かもしれない…と思った瞬間に、




「! きゃ!?」




 がっし、! 

──と、魔導甲冑の一体に左マニュピレータを捕まれたのが、この時だった。




「あぁ、このぉっ「コマンダー! 左マニュピレータかい!? その程度、引きちぎっちまえっ!」…!」



 ドライバー一筋だが、自分よりも乗務経験があるらしい、先任の下士官の声が前席から聞こえてくる。


 ならそうしてやる。

 一気にパワースロットを引き上げて……ねじ切る!




「こぉらぁ!」




 ぶちん、と引きちぎることに、容易に成功した。




「やたっ!……ぁあぁっ」




 すると、肉はくさりかけたなりに切れたのだが、骨の関節がまだくっついていた。

 関節をはずそうとする……ああもう、手間取るっ。


 直後に、右マニュピレータにも接触の感覚があった。──もう一体の魔導甲冑かっ。



「──…… ……──」



 それから、シミターの頭部カメラを戻すと、我が機に飛びかからん、とする魔導甲冑が、複数……いや無数……──

 ここまでの奮戦によってこちらのは残り僅かなやつらが、まるで全部が一気にどぱっ、と、来て……


 まずい、と思った、その刹那、




「てぇぇえぃ!!!」





──VOVOVOVOVOVOVOVOVO!!!!!!





「あっ、やっ、やったっ……」




 そんな瞬間、横からの射撃支援が閃いた。

 僚機のシミター02から、である。




「ガルバーニ程度、お話にもならぁな!」




 そのまま、格闘によって、真正面から派手に廃液と肉片を被りながらも、形式品名ガルバーニG型・魔導甲冑のこちらに掛かってきたのをしとめて、制圧していく……

 機体の運動性能を引き出すのがひときわ得意な02機のドライバーとコマンダーの操縦であるから、機体のこなしはずば抜けるようであった。



「とはいえこっちもしんどいな……」



 しかし、向こうは格闘に専念しすぎた結果、一機あたりの撃破の確実性が薄まったのか、中途まで技をあびせたはいいもののとして、仕損じた数はまだ多くいる……




「こちら、シミター03、02へ、感謝するっ」


「礼の言葉よりも、そろそろじゃあないかっ?」



 そろそろ、という02機ドライバーの言葉に、はっとなる03機コマンダー。






「“嘆きの滴は降り落ちた”か……後方、射撃基地。聞こえるか?」




“こちらはいつでも準備はいい……01、シミター01、聞こえるか!”




〈はい、こちらはですね……〉









「残機残存シグナル、残り少数……司令官、これでは、」


「うむ……2号、3号の無電指揮車に告げろ。第二波、戦闘状態起動開始コンバットシステム・ブート信号コマンドを……」



 さて、後方の隣国軍。指令車内。

 無電馬車の中の総意が固まり掛けた……そのとき、




── ……! ──




「! なにが、衝撃……」




 ボゴシャァ! と破壊されたのがこの瞬間だった。

 そして、ヴゥゥゥゥゥゥン……という、バルカンの掃射が吹き鳴らされる音、それから馬車の破壊による撃破の木質な音の、連続──




〈はい、完了しました~……さて、ずらかりますよ〉




 無電馬車の周りの護衛兵たちは、泡を食ったかのような騒ぎのただ中にいた。


 まあ当然といえた。

 すべて僅か数分もなかった……

 本営の頭上に、影が過ぎった。その頭上に羽ばたく飛竜の一体から、突如として、

 シミター型ゴーレムの機体が、降下して、降ってきたのだから!



 このようにして01シミターが到達、無電馬車は奇襲によって、三台と予備があったのが順に、すべて撃破がされた。

 この無電馬車のもの自体もターゲットの一つだ。

 とりあえず、急ぎだ。なので適当に残骸を回収するが、運良ければ、この無電馬車の機材に使われている敵の技術度が研究できるかもしれない……という出撃前の言立てを、01のコマンダーは思い出した。

 マニュピレータで馬車の残骸から中身の魔導機械の機材を、適当にいくつか掴む……これくらいでいいだろう。



〈……って、うん、? えーと……〉



 しかし、迅速な撤退は、多少の抵抗に見舞われて、ややつまづいた。

 隣国軍の残りの護衛兵らが、魔導甲冑の出動を要求する……が、大半の魔導甲冑は、

 その殆どが前線へと出撃していって、この場の後方には、指揮所の要地とはいえ残存は多少ともになかった。


──だが、わずかに存在していた警備用の機体が、まだあった。

 軍属魔導師の何人かが杖を掲げる。何事かを叫ぶ。

 その先端の魔導の宝石球オーブから指令の光の光条が、魔導甲冑と01シミターの交互にへと延びて、交錯する。


 直後、休眠していた魔導甲冑の機体に、火が入った。

 潰れた喉と全身からうなりを上げながら機体を持ち上げ、シミター01へと向かおうとした……──



〈せいやっと、〉



 その時、この一体の魔導甲冑は、シミター01の搭載機関砲によって、メタメタに打ち抜かれて八つ裂きにされた。

 穴だらけにされた躯から、穴の丸と数だけの煙を噴いて、転倒したのが今だった。




──  ! ──




 だが、、奇貨が現れたのがこの瞬間だった。

 今のは足止めだったのか?いや結果的にそう作用したとしても……

 果たして、馬車の残骸の林立するただ中にいたシミター01に、周囲の四方向から、同時に魔導甲冑が挟撃を掛けてきたのだ。


 飛びかかって攻めてきた、左右前後の四機。

 その鉄鎧の腕が、八本、一気に襲いかかった! 





〈あららぁ〉




 が……──



 すべてが、次の一瞬で弾けるように撃破された。



 前後の魔導甲冑には正面のバルカンと後方一杯に振り向けたマウザーで、

 銃撃の光が銃口に瞬いた次の瞬間には、ぐしゃぐしゃに貫かれて潰れて撃破されたのが、

 中のシャシーフレームたる肉塊がフレーク状に鎧の中から矢鱈目鱈に飛び出して、


 左右の奴は、その豪腕が到達しようとした、まさにその時に其の腕より長大なシミターの腕で頭の兜ごと頭蓋を殴り砕かれ、

 とどめにバルカンとマウザーをその直後に胴体へと念入りに、まあ同様に経過を辿り──



 廃リンゲル液のしぶきを柱のように上げて、計四体の魔導甲冑たちの命めいたものはそこで尽き絶えた。


 これも僅か数分のうちのことであった。

 三瞬目には、撃破されて肉液ごと砕け散った魔導甲冑の遺骸が、新たに四つ生まれいでた……それだけとなった。




 それからも、シミター01の跳梁は跋扈し、陣地の中は壊乱の様相を経つつあった。




 この奇襲によって、隣国軍の機密機材……魔導甲冑多複数の指揮運用システム一式、これだけで城が数個分買える……を乗せた無電馬車のその隊は、全滅がなされようとしていた……



 最後に、破壊された無電馬車の残骸から、這うように脱出する隣国軍の指揮官と通信兵たちに、その傍らのシミター01が機関砲の銃口を突きつけた……この無電馬車を撃破するために、迂回攻撃を仕掛けていたのだ。…



 シミター01…は、頭部カメラユニットだけを、戦場の方角に向けて見やった。





「暗号、“嘆きの滴は降り落ちた”……やっちゃってください♪」





“了解した”





     * * * * * 








「あ、ぁあ、あぁあぁ……」




 輜重の兵士が、最後に残された。 

 見てしまった戦場は、あんまりにも残酷で、おぞましいものであって……




……GA,HYUOM、




「あ、ぁぁっ」




 遠くに、シミターの二機が見えた。

 まだ、こちらの魔導甲冑は数はある……

 まだ、目の前に、先の500の残りと併せて、待機させてある魔導甲冑が、150はある!


 それに、まだ後方に、隊列の第二団と第三団が行軍中のはずだ……

 今まさに、後ろを見たとき、その先鋒の甲冑のシルエットが谷間の向こうから現れていた瞬間でもあった。


 今回の攻略作戦は、只の力の入れようではないのだ。

 度重なる侵攻失敗に痺れを切らした貴族院の元老達が自前の財産を惜しむことなく投じての、この度の軍勢の編成に至ったのだ。

 全部を数えれば、およそ、1000数百の数の魔導甲冑が、このたかだか二機のシミターに、殺到するのがもう目前であろう、と踏むことができた。


 しかし、もうこちらの、ふつうのにんげんの隊はずたずただ。


 それに、どういう訳か魔導甲冑たちが、狂ったように絶叫を上げたっきり、もう動かないようであった。


 隊列の後団を成していた魔導甲冑たちが、行動の指示操作も入力できずに、ひとかたまりに纏まって、身動きのとれない……擱座の状態となってしまっていたのだ。


 詳しくないからわからないが、自分と同じで生き延びた魔導師がなんとか手力でコマンドの入力をしようとして、それがかなうとしてもまだ時間がかからん、という状況でもあったのだが。





「か、神様……」





 神に念じる言葉を、ようやく思い出した頃だったのかもしれない。





── ……… ──




「あ、ぁ、?」





 空を切る擦過音……

 それが複数、聞こえたか、という直後、





……DOOOOOOOOOMMMMMMMMM!!!!!!!!!





 どおっ、という──火焔の業火によって、

 目の前の光景が、



 まるごと焼き払われた。




「わぁっ、ぶ」




 どぉ、っと……──爆風で凪ぎ払われた。

 輜重の兵士もやや吹き飛ばされて、地面の上に転がった……











 しばらくして再び見たとき、魔導甲冑のほとんどあらかたは、爆轟のただ中へと消えて吹き飛んだ……

 第二団、第三団へも、今、飛来してきたブラストログが到達して、火柱と火球の、火遁の中へと消えていく瞬間だった。

 そして火中のただ中に、相手のシミターたちも、裾に埋もれて、消えた……ように、見えた。





「自滅かぁっ?! は、ははは……」




 相手のブラストログの砲迫だろう、というのは、今の時には分かっていた。

 それが、せっかく勝利しただろう自分たちをふきとばすなんて!

 

 という絶望から急転しての勝利感で、狂ったように叫びだしたくなった……その時、





「はは……は、」





 ずしゃり、ずしゃり、──と





「は、…ぁあぁ!??!」




 爆炎のただ中から、、シミターが二機現れた。

 まごうことなき、魔導甲冑を屠った、あの二機のシミターにほかならないだろう。

 

 それがまるで平気な様子で、爆中から復帰したのだ。







「あ゛っっ、あぁぁあああぁあああっ!!!!!!!!?」









 戦闘後に保護した捕虜の中において、この輜重の兵士は、正気が戻るまで、気が触れた者としてしばらく取り扱われた……という。








 こうして、シミターのたった三機による、敵部隊の処理撃破作戦は成功した。


 もとより、判明していた敵部隊の総勢規模では、既存の戦力では駆逐撃破は困難だと予期がされていた。

 そこで、街道を封鎖して時間を稼ぎながら敵襲団を纏めて一団とし、そのまとまりがよい頃に、対空陣地の残弾に限りのある、虎の子のブラストログでまとめて撃破する…というのが作戦の要旨であった。



 その成功が、今確定したのだ。








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