15(15/16)-500円のファンタジー-
###15(15/16)-500円のファンタジー-
家から往復三分の、コンビニに、ルーの手を握ったまま引き摺って、直行する。
なんかこいつ(ルー)の顔が赤面して紅くなっているようであるが、目を真ん丸にしたままのこいつ(ルー)を、そのまま連れて行く……
「すごい……」
赤面しながら目をまんまるにするという表情になりつつも、異世界貴族っ娘は初めて見るこちらの世界に、衝撃を受けている様子らしい。
地を進む車。このあたりは空港が近いから、ちょうど夜間飛行の飛行機が空を飛んでもいた。
夜を照らす街灯、異世界とは当然違うであろう、道行く人たちのファッション……アスファルト敷きの地面……コンクリートの建物……
さぁ、着いた。
“……♪~♪~…”
ひゃ!? こ、この音楽はどこから……
「ラッシャーセー」
ひっ?!
かごを手にとって、そのままルーに渡す。荷物役くらいやってくれよ。
ヤキトリ……おむすび……総菜パン…
……ホットスナック……
「あ、あの……これ、全部、食べ物……?!す、すごいっ、」
どかどかとカゴにつっこんだあと、
俺のクレカで、一括決済。
「ラッシャーシター」
「ふぅ……帰るぞ」「あっ、あっ、その…は、はいっ」
ルーはコンビニのかごを、そのまま持って出てしまったわけだが、今は気にしてられない。
店員のにいちゃん、メンゴ!
んで、ずんずんと、家までの帰路を帰って行く、俺と貴族っ娘。
「ああのっ、」
ん?
「ぁのぉぅっ」
だから、なんだって、
「ああの、あああアクマ様、ボク、しんじゃうんですよねっ!? しんじゃうんだ、きっとっ、すぐにっ、だってこんな、すっごいおいしそうな、すっごいもの、すっごいせかい、見たこともない異世界、もうなにがなにやら、だって、だって、もう、ボク、どうしたら……」
そうかもな、俺なんか、今日までに何回しにかけたんだか、
「ひぅっ?! …そ、それなら、ボク、お願いがあったんですっ、」
なんだよ、
「もうかなっちゃいましたっ!
ずっと、夢のような体験がしたかったんですっ
目の色もかわっちゃうような、こんな異世界、想像もできませんでしたもんっ!」
今日一日泣き通しだったこいつ。ただ、
この時は、貴族っ娘の顔の表情が、輝いてみえた、ような気がする。
「だ、だから……」
まあそれから再びグルグル目になると、
「あと悪魔さま、つけくわえると、ボク、友達がほしいんです!
いや、それのほうが重大です!
ボク、生まれてからいちども、アヴトリッヒの土地の外に出たことが無くてっ、
友達も、いままで、できたことが無くてっ! ひ、ひとりもっ、
だ、だからっ、
できれば一生の友として、なにもかもの、秘密もいやなことも受け入れてくれる、ずっとそばにいてくれる友達がっ……」
なってやるよ、その友達に、
「へ、?」
「俺も友達募集中だったんでね、悪いか?」
「──! いいえっ、こちらこそっ!」
……このときの、この子の、笑顔、喜びよう、というのは、……俺は生涯、忘れ得ないだろう。
んで、家に帰った。
「母ちゃん、これ、ボイル!」
そんくらい自分でなさい! 今台所ふさがってるし! との母ちゃんのお言葉。
まあ俺がもっていったせいで夜食を作り直しているからなのだが、そのせいでプンスカとご立腹であるらしい。
ああもぅ、そんなりゃレンチン、だ!
それから、冷蔵庫をがぱり、と開ける。
親父が今日の今晩に夕食にするために買ったのであろう、高級牛肉焼き肉用、特盛、5パック。
冷蔵庫から取り出した焼肉のタレを押し付けながら、
「かあちゃん、これ、大至急焼いてくれ!」
「えっ、ええっ……?」
「俺のかねでもっといい肉買うから!」
「ニートが何を言ってるの! ああもぅ、うちの子ったら、どうしようもないんだから……」
「腹が減り過ぎて死にそうなやつらがいるんだって!」
怒るカーチャンに、その顔をみながら俺が勝手口を指さしてやる。
指さした向こうをカーチャンが見ると、開いたままの扉のそこには先ほどのタッパーをつかんだままのガーンズヴァル爺とババアとオバサンの一家と、
メイドどもが呆然と立ったままこっちの家の中を見ている光景とぶつかった。
カーチャンはのけぞった。俺ものけぞった。
「どちらさまなのこの人たち……」「あ、あたらしく近所に越してきた外人さんたちだ!」
なんだかんだいいつつも、最後は焼いてくれる母ちゃん。
家族愛ってやつだよねぇ……