7(7/16)-500円のファンタジー-
###7(7/16)-500円のファンタジー-
* * * * *
「ひっぐ、ひっぐ、」
まあ、時間ならある。
勝手口の扉のへりに腰掛けて、俺はこの貴族っ娘としゃべることにした。
母親については、いつも通りの長風呂なので大丈夫であろう。
「……うぅうぅぇえぇっ……っぐすっ」
とりあえず弁当をもってきたが、場合がちがうというやつなのか……
「きのうの晩っ……、」
「うん、」
「おべんと、おいしくてっ、だけどっ、おなかがすいてるのはおじいさまたちもだからっ、ないしょにしててっ、だけど、旅商人さんのあなたと出会ったのをいってしまってっ」
なおも、ぐする貴族っ娘に、俺は掛ける言葉が無い。
「今日の事もあって、貴方を捕まえるって、メイドたちが言うんですよっ、それで、ボクはいやだからっ、そしたらっ」
貴族っ娘はぐすりながら続けて、
「おじいさまが貴方の話を聞いてみたいっていったら、メイドたちは抑えが効かなくなって………」
ふむ、
「せっかく、ともだちになれたのにっ、ぐす、むりやりは嫌だから、だからボク、貴方に会って、もうこない方がいいって、伝えたくてっ、」
………、
「だけど、どこにいるかわからなくて……、そしたら、メイドとおばあさまが話してて、この扉がそうだろうって、はなしてて、いうからっ、ぐすんっ」
…………。
「キミを守ろうと思って、それじゃあ、扉をふさごうとおもって……うぅうっ」
おい、それはどうなんだ。
よく扉の周辺を見渡してみると、先の潰れた素朴な釘が散らばっているのが見えた。
どうも掛かってる結界?だか魔法?の効果で、扉の耐久値?はかなり高いようらしい……
「それで、なんで俺を狙うんだよ。」「そ、それは……あっ──ぅうぅ////…」
ぐぐぅぅうぅ……と、
ようやくそう聞いて、この貴族っ娘の腹の虫が鳴いた音が聞こえたかどうか、というのが今だったのだが、
「というか、……ぷくぷくたい、どうだった?」
「ふえっ、?」
さすがにチョコスナックひとつじゃあお腹は膨れんかったか?
それでも、美味しいものを食べた、という味の記憶とかの手がかりで、
ちょっとした気分替え……というのは出来るかもなはずだろう、と。
そう思った俺ちゃんの、コイツへの、
俺が尋ねた言葉は……
「…」
「ん?」
「……」
「おい、?」
「……うぇっ、えっぐ、ひぐっ……ぐすっ、……ぐしゅっ……」
「?!」
何に思い至ったのか、泣きじゃくり始めた貴族っ娘であった。
俺ちゃん、ぷくぷくたいの味の感想聞きたかっただけなのに……どうして。
「うぅえああ~~~んん!!!!!!! びえーん!!!!」
「全く、どういうことなのよ……?」
とうとう大声でべそをかきはじめた貴族っ娘。
俺は怪訝となるしか無いのであったが……
すると、そんな時、
「ガーンズヴァル様、でました! あいつです!」
「!」「あっ、イリアーナに……おじいさま!」
おもわず身体がこわばったのがこの瞬間だった。
昼間のあの問題メイドが再来して、その“おじいさま”とやらを伴ってきたらしいのだ。
──
* * * * *
「あいつが私のスカートの中をみたんです!」「む…!」
「えっ!」「んなっ」
ファースト・マッチは舌戦という奴だった。
「人聞きの悪いこというな! そっちが勝手に見せてきただけだろうにぃよぉ」
「んなぁっ!? 東洋のことばでヨートークニィク(羊頭狗肉)とはいいますけど、ひさしぶりの、にこみスープの具にしてやりますよぉこの畜生顔おとこ!」
ジジイを連れた、銀髪の暴力メイド……イリアーナ、とかいう奴との遭遇。
「ふ、ふふふ……なかなかやるようだなメイドめ、」
「なんと」
「え、ええと、」「むぅ、」
こほんっ、こほっんと俺が咳込んでから、
「美意識には相違があるようだが、自前の小便臭さをなんとかしてから男趣味をかたりやがれぇな!」
「なんですと。この顔面博覧会め!「ぐはぁっ、」「えっ、ええ……」
こ、こいつぅ……と俺は悔しがるしかないが、しかしそこで、ふたりめ、さんにんめ、とメイドが増えてきた当たりで、俺はたじろぐしかなかった。
「ん?」「お、おじいさまっ」
そんな中で、メイドに囲まれて一人居るじいさん……あれが貴族っ娘の祖父の、あぶとりっひなんたらの領主か……が、すしゃり、と足元のつぶてを鳴らして、一歩踏み出てきた……のだが、
貴族っ娘がそうじいさんを呼んだ時、
「………」「…あ、あぅ、」
厳めしい、気配と眼光がこっちに飛んできているが、俺を一瞥したのち、俺のすぐそばの孫の方へと目をやり、またこちらを照準して、
“ ………孫から離れよ。 ”
の一言。
そういわれちゃしょうがねぇ……おい貴族っ娘、離れてくれ、と手で押しやろうとして、
“…孫に手を触れるな。”
………、はあさいですか。
凄まれてしまった。
とりあえず、今日の所はお開きね……と、俺の背後で閉まり掛けていた扉を開けて帰ろうとして、
「…扉を開けるな。」
………、
「何がご用件なのですかねぇー!」
「………」
殺気でコミュニケーションなんて俺にはできねぇっての!?