5(5/16)-500円のファンタジー-
###5(5/16)-500円のファンタジー-
「はぁ、はぁ……っ、ボ、ボクも聞きたい事がありますっ!」
貴族っ娘はそういうと、ぴしっ、と俺に指の先を指して、
「なんで昨日はいなくなっちゃったんですかぁぁっ! あの後またこっそり屋敷から抜け出て、探しに行ったんですよぉっ」
「いて、いてっ、いて!」
ポカポカ、と精いっぱいに叩いてくる、この……ルー、ルーテフィアとかと呼ばれてた、この娘。めそめそしながら殴ってくる。どっちかひとつにしやがれ。叩かれた感触は、こそばゆい感じだ。
そう言いながら、彼女?…いや先方は声を続けて、
「夜中までまったのにっ、ねばったのに、はじめてっ、ともだちになれるひとかもっておもって、きのうは夜遅くまでがんばったのにっ、見つかってメイドには怒られてたたかれたのに、ぐすんっ」
「だ、だったらなんで今日は、飯食う前の最初はにげようとしたんだよっ」
「だ、だっておじいさまが、フシンなやつには“あいびき”なぞ言語道断、っていうからっ……、ところで、あいびき、って、どういう意味のことばですか?」
そう俺が怒鳴り半分も同然に聞き返すと、叩く手が止まって、目の前のこいつは言い分の開陳を始めた。
アイビキ? 合い挽き、逢い引きねぇ、意味が分からんが。
この、ルーとかって奴。
男にしては器用なことに女の子坐りで地面に坐ったまま、 俺に身体を向けて、そのまま……会話が始まった。
つーか、あん時の『またね、』って、そーいう意味かよ!?
「……」「……」
……そしていま、それから会話は一旦途切れて、沈黙……というものが、場に満ちている。
はい、満ちております。…そうだと思います、思われます……
というか? …俺は無言になるしかなかったんばい。
場の地面とおれらには、昼時の陽光の光が木漏れ日となって、柔らかに降り落ちていた……
……穏やかな、時間……
なーのーであるがっ、果たしておれたん、いま、テンパっていた……
だぅて、だって、そのー、ね? わかるでしょ!!(わかるわけがない)
「……」「……」
……そうしてさらに、それからしばらく無言が続いた。
なのーでぇー……俺ちゃんがテンパっていた……その理由を開示しよう。
それにしても、こいつはなんなのであろうか。?
というのがそれへの気付きであった。
……、こいつの……、いちいちの、しぐさが、あやうい。
たとえば……目を交わすときとかの、そして会話したときなんかは、反応や相槌のときの、
さりげない、その……仕草といいましょうか、萌えポインツといいましょうか……
いやあなんでしょうか、なんというべきでしょう。
対人コミュニケーションスキルの乏しいヒキニートの俺ちゃんなんかには、
だいぶプレッシャーが掛かってきて……!!!
純真無垢でひたむきなお子様なやつ、という存在と、
はたして俺は何年接することがなかったのであろうか……ということでもあって。
あー、うん。ようやくそれらしい比喩の言葉が、脳の浦の戸棚からでてきた。用意できた。
それは、( 距離感近すぎぃ!!!? )というやつである。
なにはなにはともあれともあれ、わたくしは家族以外で、こうまで近いこの距離感で喋った相手というのは……何年ぶりだろうか……いったい、誰ぶりであっただろうか……
あれ、おかしいな、俺ちゃん、目から、温かい涙が…流れ落ちて……
というわけではあったが、……
なんというか、どうせ、男の娘? とかでしょうけど、わたくし、わてくし、だいぶ、これは……
……!
どぎまぎどぎまぎ、
どぎまぎどぎまぎ、
俺ちゃんはこの回想をたった今、していた時、
しばらく意識が肉体から離れてて…
…成仏?幽体離脱?エクトプラズム!……してしまっていたわけだが、
たった今……いま、そのことに気付いたので、あるが……
「…? どうされました?」
お、おぅ……って、!?
この、こいつ、
気がつくと、いつの間にか!!!?
俺の手をつかんで、自分の手と腕を触れさせて、掛けてきている。
こいつのは、ちっこい、ほそっこい腕と手と指なので、そんな白魚のような、
もみじの葉っぱのような……ぷにぷにすべすべのそれが、
なんか、俺様の腕手なんぞに、絡むようなかんじになってしまっている。
(スキンシップぐいぐい来よるな?! こ、こいつ……)とまあそのような語調ではなく、……コホンコホン、
なんでしょうかい? と、
それについて聞いてみた。
すると、返事は「…?」ってのことで。
(あ、あのねぇ……)
ええい、もう一回、だ。……すると、
「なぁに?」
いや、その、あのね、……するとすると、
「……てへへ、なんでしょうかね。
でも、こうしてると、君との、出来たばかりのこの絆が、ボクに伝わってくるから、かな……?」
照れたようではあるが、しかし、顔を無邪気なにこやか顔にさせて。
……あー、うー、あー、その、なんだ。……
……あやうさすら感じるほどの懐っこさである……
スレてしまっていると自覚はしている俺ちゃんには、
跳ね返ってくるダメージがぉぉぉぉおおきすぎる!!!!
──嗜虐心が湧いたわけではないが、世の中のきびしさ、というのを、説明したく、伝えて考えてほしく、
はぁ、はぃ? うーん、と。
このルーさんだとかはそんなわけなのですが、あたし、男に言い寄られる趣味なんてもってないわよ!って返したところ、おもいっきり「?」の顔もされて頂いた。
「? どうされましたか…?」
いや、あのね、あのね、……
「! も、もしかして、ボクのこと、嫌いになっちゃったり?!」
他意が無いように、なるべく柔らかい言葉と物腰で伝えようとしていたはずだったが、
それでもその絆とやらの否定かそれとも疑義か、に映ったらしく、
こいつは、がーん!?……というような表情になったりしたりして、
そんで、俺はそれのフォローでさらに泥縄になったりして……
ああもう!
俺っち、こんな他人から距離を詰められるのに、慣れてないのであってえ……
アワアアァァ……、オレちゃんも、大概、人ベタなのよね……
なあにドギマギしてるかねー、俺も。
まあそんな感じで、数分がたったところであったと思う。
……──さまぁ……どこにいかれたのですかぁ………──
「あっ……は、はやく、」
あぁ、……まったく、今日は大変な日だったぜ。
……おっと、これを渡すのを忘れていた。
「ほえ?」
じゃん! これはな……
貴族っ娘なあ、これが、福福鯛、っつーんよ。
おいしいぞ~!
「う、うん? 」
うん、良い子にはおやつが必要だろう、と。
今回家から出る直前に、妹の菓子箱からくすねてきたシロモノだが……
(一応申しておくと、お菓子の買い出し自体は、妹’sスレイブ、たる俺ちゃんが日常的にやらされていることなので、
後で補充をしておけば問題は無い、ということである……)
たいやき型のチョコスナックだ。一種めでたい、ということでもあって。鯛だけに。
そんな、ようやくのシロモノを渡すことが出来て、ハイテンション極まる俺ちゃんであったが、
……しかし、異世界人には初見で理解できるシロモノではなかったのであろうのか…
なにせ、窒素充填がされたアルミ蒸着ビニール包装のフレッシュパック包装容器であるのだから。
なのであろうか? そんな、一方の貴族っ娘は怪訝な様子となっていて、、
「これって、一体なんなのですか……? ほんとうに、たべもの、?」
「ああ、これはな……」
……るーてふぃあさまー!
でこぴん、しないですから、でてきてくださーい!……
「あ、ぁう、」「ふむ……」
今日はこのあたりがタイムリミット、ってことか。
「さて、貴族っ娘。悪いがそれの説明は省く。」
「ええっ?!!」
「でも、開けてみてのおたのしみ、だからな!
貴族っ娘! 絶対がっかりはさせない素晴らしいシロモノでなことは保証するぜぃ」
「う、うんっ」
ほなら、ばいさい~~
「またねっ」
次もこれるようにしてくれたらな、あのメイドなんとかしてくれよ、
う、うん……はは、
という話は深刻であったが。
まあ、去っていく俺の後ろ姿に、また貴族っ娘は声を掛けてくれていた……
振り返って見てはいないが、昨日みたいに、ぴょんこぴょんこ、飛び跳ねているのだろう。
そうしながら、背後から、ぽんこつげんきなそいつの声だけが聞こえている。
「じゃあねっ」
まあ、これが二日目の記憶である。