3(3/16)-500円のファンタジー-
###3(3/16)-500円のファンタジー-
「はぐ、あぐっ、もっもっ……ぱくぱく、ごくっ」
かめのこ、ならぬ貴族っ娘。
「はぐっ、………ごっくん、……うぅ~っ/////、……はぐっ」
「はぁあ……」
泣くのか食うのか、と問うのも、なんというやら。
昨日に続いての特盛り唐揚げ弁当を、こいつはもしゃもしゃと食べている。
訂正、もっもっもっ……と貪食している。
腹をすかせた子兎が、おいしいごはんを、無心で……食べてるような、そんな具合で。
とにかく、無我夢中で食べている。
対する俺であるが、まあ何分? 昨日からの縁があるわけでして、
はてさて、この子の様子はどうなのだろう……と、……いわゆる生暖かい目と言うやつで……観察しているのだが。
……この子は今、感極まった様子で、目尻をうるませていた。
涙を流しているのは、果たして弁当の味に対してなのだろうか。それとも他があるのか、
どうなのか……
「ごっくん……」
うん、
「美味しい、です。」
「へいへいよ」
咀嚼した、最後の一口を飲み下す瞬間、ぷるぷるぷる……、と、身体を震わせてもいる始末。
顔の様子はもっとすごいぜ? 少なくとも、美少女然とした面構えの人間がなっていい形相ではない。
鼻の片穴からは鼻水をたらさせ、
なおも両の閉じた瞼から心の汗というものをとめどなく流しながら、斯く言うところの貴族っ娘の当人は、泣くように述べ始めた。
「揚げた鳥の肉が、ごはんが、オコメ…というのが、絶品で、とにかく極上と言うようでいて、もう、もぅ、たまらなく…/////…とっても、おいしいです。……ボクのからっぽのおなかに、元気の素になって、染み渡っていっていきます……ぅぅっ///、ずずっ」
「へいへいへいな………」
まず一つめには、どうやら弁当の味に感涙していたのが大まかだったらしい…
…のだが? それにしてもこんな、変哲のない唯の弁当屋のただの唐揚げ弁当だ。
なのに、なんでこんなに泣くのかね。
ん?いや、待てよ。この不思議不可思議な異世界においては、領地持ち貴族の孫っ子ですらをも唸らせる素敵ゴハン、というわけなのか?
もしそうなら、……という話ではあるが、 そんなシチュエーションの異世界側の事情込みならば、これ(弁当)は、ある種の手札、切り札になるんじゃないのか? なーんてなんちゃって!とも考えがよぎりつつ……
まあそのことへの本気度というのはさておいて。
とりあえずはまあ良い……
とにかくタイミングが良いところで、水筒の水を酌んで、こいつに渡してやる。
が、
「……ほぁぁぁ…」
「さっきから、なんだよ」
こやつ……変な声で一息つきやがる貴族っ娘め、
そういうと貴族っ娘は、うぅぅぇぇええぇ……と涙目で唸りだして、
「………それは、なんというか、なんというか、何だかというか…////…」
「なんでよ、」
「だって、昨日に続いて、ボクは、あなたのお世話になり続けになっているのですよぅ?!///////」
ずぎゃーん!となる貴族っ娘。
なんだ、逆切れか?! こいつの今のこれは、さながら野ウサギの威嚇未満のそれではあったろうが、性根がナメクジ未満の雑魚♡な俺は、気圧された。
もっとも…昨日と違い、俺にも余裕がある。初見さんではない、ってことのだけだけどネ。
なので、はぁ、と返事をするしかない。
が、そうしていると貴族っ娘は、
「こわい、へんだ、へんな、へんな、まものかもしれない、そうとまで思っていたあなたに、
あなたの、キミのご厚意に、喜捨に、甘えてしまっていてっ、
おじいさまの孫のボクが、その、ボクがっ、侮辱してしまっていた! そのあなたに、ボクはお世話になりっぱなしなのですっ……
改めて、ごめん、なさい……です。ぅえん。
そ、そして、昨日に続いて、重ねて、あり……が、とございま、ぐすっ…ふえぇ…」
ほほう?
なんだかなんだと、いろいろつつけそうな気配がでてきたぞ? まあそれはひとつふたつはあるだろうが、
まあそのあたりの言葉は、言葉の額面どおりの話として、俺は、平易に受け取っておこう。
「ぐすんっ、だ、だから、…そのっ……」
ふむ?
「……これじゃあ、ボクは勇者になれませんよぅ…。
勇者は、礼儀正しいモノなのですっ! 偉大なおじいさまの孫としてこの世に生を受けて生まれ、その側で育って来たボクは、なによりも知っています!
誰に対しても、たとえ、魔物に対してであってもですっ、たぶんっ。
そして、非礼と無礼を重ねていってしまっているボクには、そんな資格は、そんな名誉は……ボクの目の前から、ボクの身体から、はるか遠くにへと、去っていって……離れていって……栄光が……遠く……うぅぅぅえぇん……」
まだあるところのもう一つとしては、どうもそういうことのようで……
なんつーか、俺の人生にはなかなか無かったものだな。
なのに、異世界っ娘の貴族っ娘は俺よりもだいぶちんまい、こんなちびっこなのに、素直に尊敬できるくらいだぜ。
己の修身? 信念? ポリシー? というやつとやらか、いわばライフスタイルというのに、こだわりってやつがあるんやなー、と。
それはもとい、
なんだなんだ、こっちはまっとうに、やってやれることをやってやったまでさ……(ニコポ・スマイル)と格好良く?決めれる準備をしていたというのに。
「……はぁ、」
と俺は一息つきつつ。
とりあえず、ここまでをひっくるめれば、このような事情ということらしい……いや何が何だかはまだまだわからんことばかりなのだし、
なんか魔物だとかどーだとか、と、
なんか、そーとーに、失礼なことを言われた気もするのだが??? どうなのか?????
まあこめかみをひくつかせるまでもない……口元の端は、ひきつる感覚はまあ多少あるが。ぴくぴくと動いていたかもしれないが、はたしてどうなっていたかはわからんのであるが、おれたん。
嗚呼、大人げない……
とーいーうーかー、……勇者って、なんだ?
「……だからっ、ボクは、あなたにお礼をする、その責任と義務がっ、あるのですっ!
ここに宣言します! ボクは、貴方にお礼をしたい!
これは方便でもなく、なにの立て付けでもない、ボクの、本心からの、つもりです!」
そんな謎のはてな?が多重掛けのごとく増えていく俺の脳裏はさておいて、
そのように宣言して、貴族っ娘は俺に向かい、
ばばーん!と見栄を切った。
「……だ、だけど……
ずずっ、すっ、ぐしゅ、…あっ、ひゃっ、あぅっ……/////」
だけど、そんなぽんこつオーラはすぐに尻すぼみに。
関係有るかぁ?とも思いつつ、泣いて泣いて鼻水がすごいことになっていた、
(なにせ、顔の直下の膝枕に置いていたベントウの空容器に、こいつの鼻水は、垂れて落ちてきていたくらいだ!)
こいつの鼻を、丁寧な…すこし力が強かったかもしれんが。
俺ちゃんはそんな感じで、拭ってやりつつ……
「……ふぇぇ、」
どうしたのよ? おまえさん。
「ボクってば、今日までどこもいいところなくて、まるで至らないじゃないですかぁ……。ぐすっ、今日も食べれてしあわせだけど……、…こんなすごいものに、ボクのできるお礼は、並大抵なふつうのことじゃ、きっと釣り合わないよぅ……ぅぅぅ……」
目の前の貴族っ娘は、あからさまに消沈しているというようにわたわたしながら、
「どんなお礼だといいのかな……?
……あ、そ、そうでした! 目の前に本人さんがいるのですから、聞いてみましょう!
ねぇ、聞かせて! ど、どんな、どんな御礼だったら、キミは納得してくれるかな!?
……え、ぇふぇっ、/////」
引き続きこいつの鼻を丁寧に拭ってやるのを継続しつつ、
おのれの身の丈以上のことは、やろうとするだけ毒やでー、なんて答えつつ、
そうするとこいつは、「!?」とショックを受けたように狼狽えて、
「えぅー!?
やっぱりキミは、ボクのことを、侮られているのですよね!? ぐすんっ」
侮るもなにも、事実ベースでしか俺は喋っとらんぞー。
払える身の丈に限りのあるお子さまは無理をするな、っと言ってるんやで俺はよー。
「お、お子さま……
……まあ、そうかも、しれませんね……
美味しいゴハンというかけてもらえた御恩があるのに初手で無礼な態度に及んでしまったこのボクに、なのに掛けてもらえるご容赦ばかりで、本当に頭が上がりません……
ボクの側も、ボクの側なんて、不甲斐ないこと極まりないのが確かですね……」
続けざまに貴族っ娘はもうひと段階さらに沈んで、
「そ、それもそうなのです。なによりも肝心なことを失念してました…
仮にも辺境伯の孫として生まれて恵まれた境遇のはずだった、そのボクが、いままで食べてきたどんなゴハンよりも美味しかった、この、カラアゲベントーに、釣り合うゴハンなんて、ボクがご用意できる選択肢にあるのかすら、わからなぃよぅ?!
そうでした……そうですね、迂闊だった……!
ご、ゴハンで勝負するのは、分が悪いことは確かですね?
で、でもそうすると、そうしたら……
とにかく、とにかく、あ、あわわゎゎゎ……
ぐすんっ、だだだ、だから……」
「なんだよ……」
そのことか?
「そ、それ以上の理由がありますっ。ただ………それを言ったら…こんなおいしいものを食べれる機会は……ボクのおなかは……もう二度と……ぅぅぅ」
ん?
「こ、こほん!……で、でも、昨日と今食べたすてきな物のことは誰にもいえません。それくらい、言えません。言いません! あと、もし、よろしいのであれば…いやよろしく無かったとしても、明日もたべさせてください!」
嗚呼?さいね、左様ね。
まぁ、はぁ……としか言えないわけだが、
「はぁ、」
とりあえず、俺もいちごオレを飲んで落ち着くとしよう。
果たして、丘地の斜面に腰掛けての食事だった。