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3(3/6)-泥濘の王-

 




 

「支援要請を! 座標は――」

 

 


 ここで泡を食った者は兵士の類のほかにも居た。指揮官級の士官たちである。

 その前線指揮官たちは再び重砲隊へと支援射撃の要請を飛ばした。

 だが、それへの返答に彼らは真っ青になった。

 

――魔力弾の莫大な発射熱の蓄積によって、砲身が過熱状態になっており、重砲の射撃が出来ない、支援は現在、中止中、――との旨であった。

 

 

 

 

「ブラストログがあるだろう!」

 

 

 

 悲鳴は通り過ぎて怒号同然になっていた。

 発射機から弾体を直に打ち上げて飛ばす噴進魔導棍――ブラストログならば、打ちっぱなしにすればこちらへの支援砲撃は十二分に勤まる、という主張だ。

 

 

 

 重砲隊は渋ったが、司令部からも同様の旨があった。やむなくブラストログの射撃が始まった。

 

 

 噴進弾の投射斉射が開始されたのである。

 遠く後方から聞こえる轟音とともに打ち上げがなされ、空を切る怪音とともにその弾体が無数に飛来して、シミター隊へと降り注ぐ。

 

 

 

 だが、ブラストログはそもそも精密射撃には向いていない。

 風向きや風速に、弾体自体のコンディションで、如何様にもその命中の精度は左右されるのがこのブラストログという火器なのである。

 

 たった今現在も、おおまかに飛来したのはいいだろうが、しかし着弾するはるか手前の上空遠方で、その弾雨の集合はかなり集弾が解けて、ばらばらに大地に降り注いでいくのが兵士たちにも見えていた。

 

 現に今、ばらけきったその何発かの数発が、弾道を大きく逸らして、味方であるセンタリアの兵士たちの塹壕の幾つかを、炸裂させて薙ぎ払って、焼き尽くした。

 

 

 

 また、シミターの防御力は、このブラストログの直撃にも耐えるものである。

 本来の“原作版準拠”としたならば粉々をとおりこして燃えカス程に粉砕されて燃やし尽くされている程のブラストログの壮絶な火力であろうが、しかしこの世界のシミターは違う。原典の数倍の装甲厚に強化された外装に加え、その全身の構成材は、由来が極秘かつ、組成が特殊な、きわめて強力な物が使用されているのだ。

 

 偶然から生じた、拍子抜けするほどにあっけない、その超装甲の素材の正体でもある。しかし、これは現在では無敵の性能を発揮していた。

 

 直撃しても到底撃破にも及ばないのであるし、また、先ほどから高速での走行を続けているがために、そもそも当たりようがなかった。

 至近で炸裂するブラストログには、ひらり、ひら、と避ける様に機体の身体と進路を都度ひねりながら、それらで爆風と爆圧をいなしながら、健調な歩行作動音と共に快速の走破を続けている。

 

 

 

 大地には紅蓮の炎が、立て続けざまにして噴き上がって花のように咲いていく。

 されど、シミター隊は健在なり。

 

 

 

 劫火の紅を背後に、化け物たちのシルエットは着実に近づいていた。

 何重にも障害と罠に遭遇しているにもかかわらず、シミター隊の侵攻速度は緩まることがなかったのである。

 

 

 

 

「怯むなァ! 撃て、撃ちまくれ!」

 

 

 指揮官が喚くようにして怒鳴り散らす。

 生き残りの火器を持つ残りの兵士たちは全身を震え上がらせながら、ただひたすらに引き金を引き続けた。

 


 しかし、彼ら彼女らに、シミターからの烈火の弾丸が、都度、降りかかった!

 その彼らをも、縦横に凪ぐように薙ぎ払い放たれるシミターの搭載火力を浴びせられて、たちまちに黙らされていった。

 ただ、この戦場のセンタリアの兵士の数はとても多かったので、シミター隊の現在位置が、兵力の配置の濃い、縦深の深くへと差し掛かっていたこともあって、そうそう火線が閉じるわけではなかった。されど、見る間もなくどんどんと健在な数は減っていく……

 

 

 途中からはようやく、復帰した重砲の何門何基かがも支援砲火に加わり出して、兎に角シミター部隊への砲火と銃撃の投射は止むことなく続けられた。

 

 

 

 無数の銃火の耀きが戦場の空中を埋め尽くしていた。

 


 

 そんな、壮絶な規模の弾雨の中で…しかしシミター達は、疾駆の速度を緩めることなく敵陣地への前進接近を続け、

 ──これが何番目のとなるだろうか。

 ふと、敵のある観測員兵士が気付いた時には…




「――突入される!?」



 この兵士たちの潜むトレンチへの間際の、その寸前へと迫っていたのである。





「あっ、ぁあああああああああぁあぁぁあぁぁぁっ………――」





 トレンチの中で怯え竦む兵士達の頭上を、シミターが通過する。


 ぐここ、と蠢く、不気味な怪音。

 魔導力圧の負荷通過の形質の変化によって伸縮と柔軟の度合いを自在に変化させることで高い可動性能を発揮する、スタンディングアーマーの駆動原理である人工筋肉の動作音が彼らに聞こえた瞬間だった。



 唖然と見上げた顔面の上に、ぱらぱらと土飛沫が降りかかって落ちてくる。シミターの足の爪指が、その目前を通り抜ける光景だ。

 巨大な機械の脚を持ち上げて、平然と避けて越えていく。

 

 

 

 呻きを上げながら、兵士たちは失禁するしかなかった。

 土ゴーレムを出せる土魔導士も若干多少はいたが、我を失って怯え竦むか、または果敢にも錬成し繰り出したとしても、一瞬かその次の瞬間には、シミター機の格闘か銃撃で諸共粉砕されるのが最後であった。





 とどめに、である。

 その悪鬼の如くのシミターたちによる暴力が、

 彼ら彼女らが、再び前進を再開して去って行った……その直後からにも、さらに悲劇は重ねられる。



 聞こえてくる……大気を擦過する風切り音が。

 塹壕の中でそれが聞こえた生き残りの兵員たちは、僚卒の骸を片付ける余裕もなく、

 ほうほうの体で、泥にまみれた様相で、肩を息継ぎに上下させていた。



 その彼らが顔を見合わせる間隙もないまま、


──直後に、爆裂が閃いた!




 炸裂していく弾頭! 




 複数、多数、無数が、念入りに。




 全くの不意打ちで、それらが浴びせられていったのだ。



 いったいどこから?

 だれから?




 だが、それは遠くからみれば、

 まばら雨の粒筋が、ほんの多少、漏れて逸れたから……

 そんな悪童の悪戯程度であろうか?

 はるか後方の、その視点にいる観測者たちには、

 醜い嗤みをさらにゆがめながら、だろうか……そのような関心の程にしか、思われることはなかったのである……




 こうして叩き込まれていった後、

……爆轟に粉砕されて、

 このトレンチの塹壕陣地は、沈黙した。




 しかし、こうして始まった破滅の情景は、それだけには止まらなかった。



 まさに、そこから始まったのだ……


 シミターが通過していく度に、

 通り過ぎた後の航跡たる道筋に、



 まるで花道を飾るかの如く、爆裂の炎の華が咲いていく……

 その弾頭の飛来は、ローラーペンキでラインペイントを牽くかのように、

 塗りつぶすかの如くに、やってくるのであった……




 シミターの通過した後を追いかけてくるのだから、

 その通過されたセンタリアの陣地が、吹き飛んでいく。




 炸裂し、沈黙していく僚軍の陣地の累積に、

 センタリアの兵士たちは恐慌の渦中にあった。




 そして、

 今この刹那に、

 センタリア兵の多くは、この状況の要因の正体に気付いた。




──一体、どこから?




 飛来してくる方角は、向こう側……エルトールからではない。



 ではなにか?



 こちら側からだ。




……自軍の砲兵陣地からだ!




 前線のセンタリア兵士は驚愕として恐怖した。





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