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2(2/6)-泥濘の王-





挿絵(By みてみん)





──そんな莫迦な!



──……厭、理屈と原理と実際の相乗があってこそ故に、

 神か悪魔のもたらした祝福の奇跡か呪いの悪夢かの如きこの現象は、

 実現実のモノとして、いま、この場に顕現したのである。

 

 たしかに、今の先瞬……

 シミターの各機は、正確に飛来した重砲弾の炸裂で、順に爆轟の中へと包まれていった――かのように見えた。

 しかし、それは命中を意味するものではなかった。

 

 

 

 砲弾の弾道とその先の予測命中地点は、シミター機の搭載センサーとその内のいち系統である魔力場・電波複合探知装置の相乗によって、此方に飛翔し飛来する砲迫弾検知の機能能力も持つそれにもより着弾位置と到達までのカウントダウンはおおよそ予測出来たというのもあるし、

 なにより重砲の発砲音が聴音できたその次の瞬間からは、正確にシミター隊の把握するところの物であったからだ。

 

 

 複座になっている機体の後部乗席に乗り込む指揮乗員が、下半身の歩行走行を受け持つ前席の操縦手へと発破をかけたのは、次の刹那のことであった。

 

 同時の瞬間、つまり敵弾の着弾による炸裂間際のその遥か前から、操縦手は機体のパワーモード・スロットルを全開に開いていた。

 そうして一気に機体の走行速度を加速させて、

 途端にシミターの機体が発揮した高速の突進で、

 敵砲迫の予測着弾位置分布を回避・突破し、火遁の渦を潜り抜けた。

 そのため、飛来弾が爆発してその全てが打ち消えた時には、爆轟の噴煙の淵には一瞬掻き消えたかのように埋もれたとすれ、その時点において、既に突破しての回避は成功していたのである。

 

 

 

 黄昏の奥に爆光は収束して、霞の如く、薄暗く立ち込めた燻煙の只中。

 その低延を蠢きながら、

 “怪物バケモノ”たちは今、煙の縁から、這い出てきた……


 そして確かな高速で停まることなく再び、

 こちらに迫る装甲機の群れの姿を見て、センタリアの士官は絶句し、兵士たちは茫然となるしかなく、エルトールの兵員たちもまた、目を疑った。

 

 

 そんなさなかに、大気の音の音色が変わった。


 

 何があったか? とこの場のだれもが思い感じるほど、

 不可思議なくらいの……、

 一拍の間のことではあったが、

 まさに空白の如き静寂が、この戦場に訪れてよぎる、風によってもたらされた、その刹那の瞬間があった。



 そして…………



 風が裂かれる音、泥濘を飛び散らせながら歩行の連続が動作する音が、遠くかなたから大気を震わせて、センタリアの兵士たちに伝わってくる。

 そのさらに遥かからは、不可能と思われていた、敵の防御線の突破に成功したシミター部隊を目撃しての、エルトール軍兵員たちの勝ち鬨が聞こえてきた。



 そして、影の群れが迫ってきていた。


 影は、疾風のように高速だった。機械駆動の走行で、脚部を疾走らせて泥の海の上を渡っていた。

 肩部パッド、頭部フード、脚部や腕部の切っ先…――

 機体装甲の鋭端で切るように風を凪ぎながら、大地の泥濘を今の瞬間の次にはそれを踏みしめる脚部の遥か後ろ向こうへと流し送りながら、シミターの機体は高速で走駆している。

 

 そしてその走行するシルエットはひとつだけではないのだ。集団だ。群れだ。軍勢であった。



 泥の大地の上を滑る様に走る怪物の影が、たくさんいる!



 センタリアの兵員たちは絶望を思い知らされた。



 

 

「ぎゃぁ!」「!ぁっ」

 

 

 敵も味方も手を止めていた最中に……

 再びの戦端が切られたのは、その瞬間だ。

 

 怪物たちの姿に重なる炎光が瞬いたのがその時だった。

 灯った光は点滅して、次の瞬間にはセンタリアたちへ弾丸となって飛来した!

 

 

 

 

「アァガッ」「あぁア!」

 

 

 

 発砲が開始されたのだ。 

 とうとう、篤い返礼がその彼らからセンタリアへと持て成され始めた。搭載火器の銃撃による反撃が、シミター隊からの応答として返ってきたのである。

 

 

 シミターの胴体前端ターレットの魔力バルカン砲と右肩側部マウントのマウザー機関砲による同時射撃。

 それにさらに、シミター隊の殆ど多くの機体がマニュピレータへの装備として携行していた25ミル・ガトリングガンポッドウェポンの掃討射撃!




 それら搭載銃火器から放たれた炎の色の破線が、絵筆から散らされる絵の具のスパッタリングか、気軽なローラーペイントの様に情景にへと塗り込まれていく。


 あっというまに、

──おびただしい人命の無為と、戦費物資と資源労力の莫大なる浪費の極みの相乗であったところの──

 この“豪勢な絵画”は、台無しに汚されてしまった……


 エルトールとそのシミターたちの高揚した士気と戦意の彩色によって、だ。


 センタリアの軍勢側には、散った兵士の命のなれのはての嵩がさらに積み増しされて。


 或いはゴミ取りのための粘着ローラーの動作可動であるかのように、的確かつ満遍なく、軽快に、センタリアたちにへと命中していった……

 


 果たして、それによって、この瞬間に於いて、センタリアたちは悲鳴と絶叫の渦中にあった。


 泣き言や嗚咽を上げる刹那の間際もなく、

 破砕され、粉砕され、或いは燃やされて焦がされて気化して、

 メタクソという言葉の通りに、彼らセンタリアの敵兵士達は、泥の冷たさと炎の灼熱の間に呑まれていった。


 一方で、シミター隊の各機は、編成における小隊、分隊の各班ごとに、フォーメーションを選択……

 より自分たちの射撃攻撃を効果の高いモノとする為に、

 銃撃の散布を考慮した一致たる機体間隊形を、走りながら組みあげた。


 より火線は洗練され、

 より的確になった射撃が、さらにセンタリアたちを襲撃する……


 そのようにもっと効率的かつ隙が無くなった走行射撃を継続しながら、シミター機たちの疾走は、泥の海の上を滑るように続く。

 その射撃の炎がシミターたちの姿を光らせ、銃火器から放たれて延びた光の破線の切っ先が、

 左右正面視界の全ての、その縦横に敵センタリアのトレンチや射撃ベトンへと浴びせられていくのだ。

 

──炸裂と共に連続するセンタリア兵たちの断末魔。

 


 泥の飛沫を弾ませながら、シミター部隊は突撃の走行を前へと向けていた。

――シミター機の機体の正面シルエットが橙色の発砲炎に点滅して彩られる。

 昼の半ばだというのに、水泥の気配で澱んだ、黄昏のように昏い風景を背後に、炎の色に明滅するシルエットたち…

 亡霊の兵団。

 そうと形容できる、幻影の如きそれ。

 センタリアの兵士たちには、まるで恐怖というものが肉体を得て、悪夢の幻覚が形になったような不気味さを思い知るしかなかった。



 それでありながら、

 シミター部隊の進路は、敵目標司令壕の予測分布の位置方角へと、まっすぐに直進していた。



 そうしながら、彼ら…シミター機部隊は地形追従の走行を執りながら、機体間のフォーメーションを突入準備にへと臨機に組み替えた。

 そして銃撃をさらに苛烈にしながら、次の一瞬、正面の大地地形へと、バケツの内容物を振りかぶって放り投げるかの如く、塗りつぶすようにして浴びせたのがこの時だった。


 タイミングを取って、次の刹那に吹き出し溢れるように浴びせられた火焔と炎熱の嵐の如き弾雨に、

 正面地形に設けられていたセンタリアの陣地は破砕され、耕され、そして、沈黙した…………


 縦横の手前正面、今まさに狙った、この一つ目のセンタリア歩兵トレンチが目前に迫ったからだ。

 そして、行く手に差し掛かるこの壕を、

 シミター機部隊が突入して超壕するまでは、もう数刻とも無かった――





「──あ、アギャ?!!!!」



「ぎゃああああーーーーーッ!!!!!」



「──……ば、バケモノども……!!!!」




 超壕し、乗り越えられ、そのついでに機体の脚部で挽き潰されるセンタリア兵士たちの残滓を目撃して、

 センタリアたちは怯えと戦慄のうめきを上げるしかなかった……



 

 高速での走行踏破を緩めるどころかさらに加速させていきつつ、シミターの機体は攻撃を緩めることなく、むしろ過熱させていっている。

 この世界の地上人類軍の通常普通では従来ではありえなかった、高度に統制された火器管制装置の補整補助と、いち目標に対するガトリング砲による弾雨の如き掃射。さらに加えて、マウザー機関砲による精密射撃。

 

 

 これだけの火力を単機で放れるシミターが、二十数機も居たのだから!


 これらの銃撃と銃火によって、センタリア軍の一番目の底は踏み抜けたも同然であった。

 只今、銃撃の照準は、次の目標たちにへと縦横に向けられていた放射状態となったために、たちまちにセンタリア軍の塹壕の火点は撃破されていった。

 

 

 

 

 重砲の砲爆で決するものだと油断して銃撃を止めていた彼ら兵士たちは、泡を食って銃の用意を再び向けるしかなかった。

 

 

 

 

 センタリアの兵士達は我を忘れて銃撃を再開した。

 

 

 

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