17(17/18)-黄金色の森の向こうへ-
###17(17/18)-黄金色の森の向こうへ-
「……えっと、あの、」「………」
もうしばらく時間がかかった後に、貴族っ娘はようやくいちご牛乳を飲み干した。
そうして空になったペットボトルを、俺は回収しようとして……
“……――さま、るーさま、ルーテフィアさまぁっ”
ん?
なんというか若い女性……か、少女くらい? の新たな人物の声が、遠くから聞こえてきたのがこの瞬間だった。
ボケッとした頭でそれを考えて、直後に青ざめた俺。
貴族っ子の家臣!? 第一異世界人の貴族っ子でこんなにアクが強いんだから、身辺人物に巻き込まれたらタダじゃすまねぇっての!!?
「……あっ、イリアーナに呼ばれてるっ。戻らないとっ……おじいさまにばれちゃったんだ、きっと……――」
身悶えする俺をよそに、貴族っ娘はぽやっとした顔で俺のことを見ていた…らしい。
でも思い当たる節があるのかそれともか、なんというか…こいつが保護者?の女性の声が掛けられた方角をちらりと向いた瞬間、貴族っ娘の顔の気配に陰が降りていた…感じがする。
何かあるのか?……と思いはすれど、しかし今日はもう、お互い深入りできまい。
はぁっ、………
俺もつかれた。今日のところは、俺も帰ろう。
立ち上がった俺はバッグの中に散らかしたゴミやらを無造作に突っ込んだ後、貴族っ娘に立て、というジェスチャーを取った。
わからない様子ながらも、そうして立った貴族っ娘の下からシートをひったくると、それもまとめて、バッグの中に丸めて放り込む。
あとはもう……撤収!
「あっ……」
バッグを背負い装備品のチェックを取った後、すたすたと歩いてさっさと勝手口を目指して行く。
しばらく呆然としていたらしい貴族っ娘。
それが我に返ったかのような顔で俺へ何事かを伝えようとしていたのが、横目で通り過ぎる瞬間の俺の視界の端で見えていた。
「あっ、あのっ……」
「あのっ!」
なんだぁ?と思って、横目だけを向けた瞬間。
「あっあのっ! お礼をさせてもらえては、せ、精いっぱいのっ、……あっ、あのっ、ごはんのっ! お礼を――」
めんどくさそうだし、御免被る、――……と返そうとして、
また来るから、そん時にうけとらせてもらうさ!――と俺は言った。
「!」
は? と俺は茫然とした。
誰にという事は無い。
咄嗟に発してしまった、俺自身に対して、である。
我を疑う、という言葉があるが、まさに今のがそうだった。
一方で背後のそいつは、受け取り方がちがったらしい。
はっ、となって目を見開いたあと、ぱぁぁっ…と顔を輝かせて、それを俺に伝えようとした、みたいだ。
発言を修正しようとして俺が振り向いた時にはそのような一連がなされていた、のであるし、
尚も足取りを止めずに歩き続けて距離が離れていく俺に対して、それからのこいつの取った行動というのが、そうなのだろう。
「またっ、またねっ!」
じゃあね、か、ばいばい、か
手を振り始めたのだ。
それから、
全身をつかって、身体全体で、ばいばい、の手を振りはじめた。
さらに、
それだけでは見えないし伝わらない、と思ったのか、こんどは跳ねてそれを見せようとした。
「またねっ、またねっ」
ぴょんぴょん跳ねながら、
そいつは何度も、ずーっと、俺に言い続けた。
「じゃあね、またね、っ」
まるで木漏れ日のような、眩しい笑顔。
木の枝葉の向こうに、バンソウコウが張られた指の手が、ひらひら、と振られて見える。
それを見ながら、見送られながら、俺は勝手口のドアがある場所まで戻り始めた。