表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/278

16(16/18)-黄金色の森の向こうへ-

###16(16/18)-黄金色の森の向こうへ-







「おいしい!」



 貴族っ娘が何度もいちご牛乳の容器を口にして……それでも量がとても多いのが特徴の某社製品なので、飲み干すまでにはまだまだ時間がかかりそうであった。


 

 

 

「す、すっごい!」 

 

 

 

 

 そのまま貴族っ子は、あふれるようにしばらくいちご牛乳の美味しさと、己が今味わったものが甘い飲み物である事を、全身をじたばたとさせて表現していた……のは置いといて、

 

 

 

 数分経った頃、貴族っ子は目を輝かせたまま、俺を見ると、

 

 

 

「……そ、そのっ!」 

 

 

 

 ん?

 

 

 

「りょうみんさんは、りょうみんさん、なんですか、?」

 

 

 

 なんやねんその質問、質問になってへんわー、

 …と返しつつ、

 するとこの異世界貴族っ娘は、言葉に窮した、という感じに、んーと、えーと、…などと唸りだし……

 

 しばし後に、




「りょうみんさん、りょうみんさん、」




 こんどはなーにや?

 

 

 

 「貴方は、何者なんですかっ?」

 

 

 

 ギクッ、と身が凍ったのがこの瞬間だった。

 相手は地元領主の孫なので、迂闊に答えを間違ったら………

 

 

 

「……えぇと、その、」

 

 

 

 だが、質問の含意は無邪気なものであったようで、するとこっちの後ろめたさの含意は別個のものだったらしい。

 それで、俺のこのうしろめたさには……多分気づいていないのだろう。

 すぐに俺からの答えが返ってこなかったことで、質問した貴族っ娘はきょとん、となった様だ。

……今度はこっちがたじろぐ番か、

 と悪態をつきかけた俺の様子に配慮してなのか、というのは貴族っ子がそれをわかったかは定かではない…が、

 或いは、ただ興味心のままに、だったのかも知れないが。

 貴族っ子は質問内容を変える、という素振りを見せたあとで、

 

 

 

「もしかして、旅人さん、ですかっ?」

 

 

 

 ……、

 ふとしばらく考えて、冒険商人、と答えようかとも思ったが……

 それはやめて、

 

 

 「ただの旅商人かもね、」

 

 

 と答えておいた。





「……なるほど…… 」





 うーん、戸惑われるかもとは思ったけれど、しかしこの受けごたえでいいだろう、とも思う……なにか今以上の厄介事にならない限りは。





「そ、その、お礼を言いたいです!」




 食い下がり……なのかどうなのか、俺にはわからなかった。相も変わらず貴族っ子の目は輝いていたから、俺が気に病みすぎていただけかもしれないが。

 とにかく、

 それは何度も聞いた、と相づちを返そうとして、





「そのっ、お礼を言いたい、だけだったのに、……」




………




「ごめんなさい、ごはんも奪っちゃって、いただいちゃったのに、さっき、疑っちゃって、」





 とりあえず、俺は“気にするな、”としか言えないわけだ。





「そ、それでっ、その……」





 見せるように、俺はボトルの残りの練乳コーヒーを、キャップを開けて全てを飲み干した。ほんの少ししか入っていないので、一口で胃に収まった。

 

 そのまま空になったボトルを、貴族っ子に見せながら、ゆらゆらと揺らす。

 ハッ、という顔になった貴族っ娘は、そのまま再度、いちご牛乳の残りを飲むのに取り掛かり始めた。


 

 年相応どころか、それ以上にサマにならない仕草と身振りで、初めて飲むであろう、いちご牛乳のペットボトルをごくごくと飲む異世界っ娘、改め貴族っ娘。



 

 その様子を俺は見ながら、森の風景へと視線の先を移らせる。

 

 



 

 

 まあ、そういうことって事で……









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ