16(16/18)-黄金色の森の向こうへ-
###16(16/18)-黄金色の森の向こうへ-
「おいしい!」
貴族っ娘が何度もいちご牛乳の容器を口にして……それでも量がとても多いのが特徴の某社製品なので、飲み干すまでにはまだまだ時間がかかりそうであった。
「す、すっごい!」
そのまま貴族っ子は、あふれるようにしばらくいちご牛乳の美味しさと、己が今味わったものが甘い飲み物である事を、全身をじたばたとさせて表現していた……のは置いといて、
数分経った頃、貴族っ子は目を輝かせたまま、俺を見ると、
「……そ、そのっ!」
ん?
「りょうみんさんは、りょうみんさん、なんですか、?」
なんやねんその質問、質問になってへんわー、
…と返しつつ、
するとこの異世界貴族っ娘は、言葉に窮した、という感じに、んーと、えーと、…などと唸りだし……
しばし後に、
「りょうみんさん、りょうみんさん、」
こんどはなーにや?
「貴方は、何者なんですかっ?」
ギクッ、と身が凍ったのがこの瞬間だった。
相手は地元領主の孫なので、迂闊に答えを間違ったら………
「……えぇと、その、」
だが、質問の含意は無邪気なものであったようで、するとこっちの後ろめたさの含意は別個のものだったらしい。
それで、俺のこのうしろめたさには……多分気づいていないのだろう。
すぐに俺からの答えが返ってこなかったことで、質問した貴族っ娘はきょとん、となった様だ。
……今度はこっちがたじろぐ番か、
と悪態をつきかけた俺の様子に配慮してなのか、というのは貴族っ子がそれをわかったかは定かではない…が、
或いは、ただ興味心のままに、だったのかも知れないが。
貴族っ子は質問内容を変える、という素振りを見せたあとで、
「もしかして、旅人さん、ですかっ?」
……、
ふとしばらく考えて、冒険商人、と答えようかとも思ったが……
それはやめて、
「ただの旅商人かもね、」
と答えておいた。
「……なるほど…… 」
うーん、戸惑われるかもとは思ったけれど、しかしこの受けごたえでいいだろう、とも思う……なにか今以上の厄介事にならない限りは。
「そ、その、お礼を言いたいです!」
食い下がり……なのかどうなのか、俺にはわからなかった。相も変わらず貴族っ子の目は輝いていたから、俺が気に病みすぎていただけかもしれないが。
とにかく、
それは何度も聞いた、と相づちを返そうとして、
「そのっ、お礼を言いたい、だけだったのに、……」
………
「ごめんなさい、ごはんも奪っちゃって、いただいちゃったのに、さっき、疑っちゃって、」
とりあえず、俺は“気にするな、”としか言えないわけだ。
「そ、それでっ、その……」
見せるように、俺はボトルの残りの練乳コーヒーを、キャップを開けて全てを飲み干した。ほんの少ししか入っていないので、一口で胃に収まった。
そのまま空になったボトルを、貴族っ子に見せながら、ゆらゆらと揺らす。
ハッ、という顔になった貴族っ娘は、そのまま再度、いちご牛乳の残りを飲むのに取り掛かり始めた。
年相応どころか、それ以上にサマにならない仕草と身振りで、初めて飲むであろう、いちご牛乳のペットボトルをごくごくと飲む異世界っ娘、改め貴族っ娘。
その様子を俺は見ながら、森の風景へと視線の先を移らせる。
まあ、そういうことって事で……