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14(14/18)-黄金色の森の向こうへ-

###14(14/18)-黄金色の森の向こうへ-






「あ、あわわわわわわわわわ……」




 目の前のコイツは、泡を食った、という言葉を絵に描いたような体で、途端に戦慄に慄いた……ような、そんな顔になっていた。




 もっとも、コイツのポンコツさ加減で俺が、どうとか、なんとかなるものではないんじゃなかろーか、だとかと思っていたので、俺は白けた目でその一連を生暖かく見守ることにした。

 



 なのだがな?




「も、もしかして、どこかの国の間諜、とかっ?!」




 それを知らないであろうこいつは、文字通りの醜態という有様を呈し始めた。

 がーん! という効果音と画面演出が見えて聞こえそうな位の、その落差。

 目の前のこいつは、グルグル目になってそれを回しながら、なにやら聞き捨てならない台詞を言いながら、とにかく慌てだした様子であり、




「ど、どうしよう! ぶ、武器は……な、ないしっ! え、ぇえっと、あわわわわ……っ」




 とにかく滅法慌てた様子で、涙の粒をこぼしながらも、

 じたばたと付近の地面をはぐったり探ったりしても、その武器になるもの、とやらは見つからなかった様で、

 次の瞬間には血の気が引いて顔は真っ青となり、




「おじいさまとメイドたちにっ、早く知らせないと、知らない人が来たんだ、って! ――はぅっ?!」




 あぁもう冷静になってくれ。

 待てやコラァ! と俺が、立ち上がって駆け出そうとしたコイツの手を咄嗟に掴もうとしたが、俺にとっては幸か不幸か、それよりも早かった。

 俺が掴む間もなく、咄嗟に走ろうとしてバランスを崩し、勢いのまま、コイツは地面にすっ転げて……




「いたいっ」




 さらに運が悪かった。

 転倒したこいつは地面に咄嗟に手を突っ張ろうとして、そこにたまたまあった枯れ枝の小枝に、かなりの勢いで手を突っ込ませてしまった。





「うぇ、うぇぇぇぇぇぇ~~……っ……」





 まさに、踏んだり蹴ったり、という奴だろう。

 地べたの上で体勢を整えさせたそいつの右手の小指からは、折れた小枝の切り口で擦り切れてしまったのか、切り傷が出来てしまっていた。


 

 痛みに呻いて、こいつは目を潤ませながら、体を丸めた。

 泣きだしそうになっている、厭、既に涙がその目からこぼれ出し始めていた、こいつ。


 


 


 眉間を抑えるほかない程の、見事な連鎖自爆っぷり。


 


 


 

 まるで良く出来たコントだな、と何も考えずに笑いかけた、俺。


 


 


「……、」「――あっ」





 だが、そんなのは咄嗟に頭を振って、やるか、と身体を動かすこととした。


 

 冷笑を浮かべた俺ぇ?

 直後には、そんな奴の面の皮には、顔面ブローとアッパーを両方ぶちかましておいたよ。


 そんなんだと、俺にこの古傷を負わせた、あの野郎とクラスメイトどもの同類になっちまうからな。


 


 尊大ごっこをしたことは、まあガキジャリのやることだ。大目に見ておいてやろう。それよりも、あんまり嫌がってくれるなよ。


 


 


 具体的には、俺も立ち上がってこいつの傍までよると、膝立ちの姿勢で身体を下ろしてやり、手元の財布の中から、目当てのそれを取り出す。


 


 応急処置用の、携帯バンソウコウのセットだ。


 


 ひきこもりである俺は、多少出歩くと直ぐに足の裏に豆が出来てしまう。その対策として常に持ち歩いているものだ。





 一気に近づいたことに不意を突かれたのか、おびえたような目で俺を見たこいつは放っておいて、とにかく俺は所定の作業を、手短に済ます。




 こいつの片手を手に取った時、やけに熱っぽく感じられたのは、果たして気のせいかどうか。こどもだから、だろうな。

 ともあれ、こいつが引き離す間もないほどに、一瞬で済ませてやる。




 最初に、一緒に片手で持ってきておいた水筒で、カップ兼用のキャップを外した状態の本体の注ぎ口から、直に出して、こいつの指の傷口を洗ってやる。


 水筒の水は実はばっちぃとも聞くし、本来の衛生学的にはどうなのか分からないが、勢いでやっちまったし、とりあえず砂の類を洗い落とせればそれでいい。


 

 染みたのか、痛そうに目をつむった、こいつ。


 

 もういい、あとすぐで終わる。


 

 それから、バンソウコウを平シートから切り離して……


 


 

「……あっ…」






 まさに、踏んだり蹴ったり、という奴だろう。

 こんなどこの馬の骨か知れないヤロウに、まさか怪我の手当をされる、なんてな。


 

 そんな喪男の被害妄想で顔を苦く引きつらせたまま、そうして俺はこいつの手当てを終えた。





「あ。あの、あの、ありが……――」「………」





 はぁ、


 


 

 疲れた俺は再びピクニックシートの上に腰を掛けて、

 遅れてこいつも、おそるおそる、といった体で、その上に尻を乗せた。


 


 


 


 


 俺のとなりに、こいつが横にいる状態だ。


 








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