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11(11/18)-黄金色の森の向こうへ-

###11(11/18)-黄金色の森の向こうへ-







 しかし、そこで俺は遅れてふと気が付く。嗚呼、こういうことばっかなんだよね、俺の人生って。

 要するに、間を溜めていたらしいようだった。分かりやすく説明するための配慮であったのだろう。

 そして男の娘が次の旨の言葉を口にしようと唇を開きかけた瞬間に、俺が相槌をかぶせてしまったのが、今のこいつの状態の原因らしい。


 口を小さく、微かに開いて開けたまま、スー――っ……と息を、しゃべりかけた状態で固まったまま、歯とそれに当てた舌の先で呼吸を吸い込み続ける男の娘の様子でそれは分かる。


 

 ああ、大丈夫大丈夫、きにすんなきにすんな。


 

 まーそれならさっき聞いたので十分だしね。今の内容は分かってまっせ、OKOK、


 


……なんてことは発言にはしておらず、だって貴族さまに逆らったら打ち首なんでしょ!? 

 失敬、俺もこのわけわからん状況と事態の推移に、脳みそがおポンチ状態だったのだよ。

 しかしそんなこともあって俺の流動的に変化する表情から、男の娘は器用にも意味するものを読み取れたらしい。


 


「………、はい?」とでも聞きたそう気な顔の表情と気配で、しかし色の無いにっこりがおはそのままに、しかしその目はうつろになっていた。


 


 

 言わんところはこうだろう。


 


「あのですが、ボク、領主の孫ですよ? もっとそれらしい応対が、平民の貴方という方は出来るはずですよね?」


 

 と、


 

 しかしそんなことはこいつは口には言わず、


 


「………、“…?”」


 


 もう何秒かして再びニコ……ッ、というような顔を、少し無理があるようなひくつかせ加減でなんとか時間が掛かって、しかし張り付けるようにして表情にしたのであったが。

 もっともそんなタカビーめいた旨を宣言布告として言わないだけ、良く出来た、心構えの大変優しい、貴族の子供だろう。……と俺は理解を返した。


 

 それなので、面子を立ててやった上でプライドも満たしてあげやう、と考えるに至った俺は、一礼の合掌を男の娘へと執って向けた後に、へへーっ……、……という時代劇でよくあるような平服の辞儀を、茣蓙ござの上ではなくランチョンピクニックシートの上で、それ~っぽく、取ってみた。


 


 どうだ、がんばった君への最高のお返しだろう?


 


 あっ、からあげ弁当食ったばかりで腹が苦しいんで、お辞儀したトドみたいな体勢になっちまった。ごめんちくりん。


 


 

「………えっ………!」



 

 すると、……この異世界に果たして海獣(怪獣、ではない)の類がいるかどうかはともかく……

 初めてみるトドの形態模写に、目を輝かせたのだろう。

 最初の、出だしの一秒ほどは、本心から楽しがって、男の娘は拍手をしかけた。

 そんな仕草だと俺には見えた。


 あるいは別に、本来には、自分に対する真っ当な尊重と畏敬の礼儀が執られる物だと思って、喜びに輝かせたものであったかも知れなかった。


 

 が、


 


「へ?」


 


 しかし、俺が〆に、へへーっ……と声を出して平服しきると、その気配が止まった。


 


 

「………えっ………」


 


 

 数秒程、“・・・・・・・・・”……みたいな具合の感じで、顔も表情も、凍り付いた。




 オゥッ、っと俺は、腹をかがませていたので、まるでトドみたいなくぐもった声で、沈黙に耐えかねて鳴き声を上げてしまっていた。 



 するとこの、俺直々による渾身のお返しプレゼントを……なんというか、しかし自分に対しての臣下の礼儀、敬意の作法、だとは理解してくれたらしい。


 

 理解したのであるが………こんどは、完全に表情が失せた。


 


「……………」


 

 それからの間、男の娘はずっと俺のことを見ていた。その間も俺は平服のお辞儀をやめることなく繰り返し、そうして俺のトド的平服儀礼はかれこれ六セットめを繰り返すのを数えていた。


 

 


「…………………、あは、はぁ、はぁ………―――――、、、、、」


 

 男の娘の表情は虚無になっていた。

 なんというか、良く出来た抽象芸術の芸をほめようとして、それでほめ方がよくわからないからみたいな、それかどうかは知らんが、拍手をしようとしかけて、それを止めて、

 そしてしばらく、顔の表情も目の生気も、完全に止まった瞬間があった。

 まるで無音状態になったかのような男の娘の気配だった。そんな、こんどは身につまされるものがなにかあったかは知らんが、よくわからん空白の時間をたっぷり経た後に、


 


 


 なんだか黒い、怒りの気配が、目の前の男の娘から、ぶわっ!と噴出したのがその時だった。


 


 

「~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」


 


 

 急な情勢の変化に、俺は!? となり、氷床の上のトドのように仰け反っていた。

 どん!と、まるでちゃぶ台返しの寸前かのような気配と勢いで、こいつ……男の娘は地面のピクニックシートに両手を突いた。


 えぇいそんなに不満があるのか? もっかいやってあげやう……あぁ、やっぱりトドの姿勢にしかならん、


 


 

「は、はぁ……はあ…――――――…~~~!!!」


 


 すると、なんと! こいつも形態模写のお返しをしてくれた。

 だんだんだん、とこいつは怒った時のうさぎのように、器用にも座りながらにして地団太というやつをやってのけていた。すごいなおまえ。


 


 

「はぁ――、はぁ――、はぁ――……!」


 


 訂正だ。どうやらおこっているようだ。不満があるらしい……えぇっ、

 だんだんだんだん、とこいつは激しく座り地団太を繰り返してきた。


 

「……………」


 


 それが止んでしばらくして、こんどは冷凍イカのようなハイライトの無い眼光で、俺の顔を画鋲で射止めるかの如くに顔を張り付かせてきた後、

 今度は自分の己自身と一族郎党の仇の鬼を見るかのような目で、こいつ……僕っ娘の男の娘の貴族っ娘は、俺を坐った表情で数秒ほど見つめてきたのだ。

 んでまた冷凍イカの目になって俺を睨んできた。正直こわいです。


 

 あーもーラヴアンドピィス、笑顔笑顔、笑わないと駄目じゃないかにぃ。

 そうおもって俺がトド芸を繰り返しても、男の娘の顔は一変とて変わらない、と来たもんだ。

 えーい、そんなに不満があるのか??? じゃあもっかいやってあげやう………あぁあ、やっぱりトドの姿勢にしかならんね、


 


 

 そんな体なのに未だトド芸の続きをしばらく繰り返していた俺に、男の娘の側はというと、とうとう言葉を無くしていた……









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