10(10/18)-黄金色の森の向こうへ-
###10(10/18)-黄金色の森の向こうへ-
「……、…えっ?」
その俺の言葉に、目の前のこいつは完全にフリーズした。
そもそも、あんた何者なのよ。
あぶとりっひ家って、なんだ? ということなのだが、
「………、、、、、、」
まず第一の疑問をそうたずねると、こいつは顔が止まって、固まった、といえるような状態となり、
それから己の顔と身体に、指を指して向けて、見ろ、とでも言いたげなそぶりをした。
めをこらしてみてみよう。
顔を見た。
陽に透けて黄金色に輝く前髪の下にあるのは、女性……というか少女同然の顔立ち。
さっき見たものと変わらん。
身体も、以下同。
せいぜいちんこが生えてるかどうかが気になるだけだ。
「見て、わかりませんか?」
いや……どう見ても外国の乗馬服みてーな恰好した男の娘じゃねーか?(男の娘とは言わずに子供、と言った)
「……そ、そうですよね、僕なんて、ボクって屋敷からほとんど外に出たことなかったし、出れなかったし、初めて、知らない人、と、会えたのかな、って、おもったんですけど、そうしたら僕の姿も初めてみたばかりなのでしょうし、僕の事を知ってくれてるだとかって、知ってくれてた、だとかって、そんなこと、ない、ですよね、は、はは、アハハハ、ははは、ぐすんっ」
何がうれしいのか悲しいのか、
そんな感じにこいつはしばらく自嘲じみた笑いを力なく続けて、
「……あれっ? それじゃあ、」
すると、
何かに思い当たったらしく、
「もしかし、て、」
「ボクがはじめて、であえた、ふつうの、いっぱんの……平民の……ボクに、はじめてであえた…」
「領民、の、方?」
ぱっ、と電球が付くように、こいつの顔と目に光がともった。
それから、なんだろう、なんか頑張って堂々としているのか、しかし慣れたものではない、ぎくしゃくした図々しさ、のような、そんな仕草を振る舞い始めた。むふ~、という息遣いとともに。
まぁ言えるのは、途端になんか尊大な気配が発され出したぞこいつからは。ということだった。
(同時に先ほどのセリフは、こいつ自身はナチュラルな対応と態度だと思ってやっていたのか??? という末恐ろしさも俺は感じたが……それはさておき、)
そしてそれ以上に、初めて自分が自分自身を誇示できる相手を見つけられた…かのような、なんというか、そんな恐る恐るというかドキドキとした、というか、そんなのが合わさった、初めての悪事の緊張感とも言うべき、何とも怪しい、そして寂しくて悲しい後の無さの…言うならば、虚勢を張る、というのが言い得て正しい、微妙な気配と雰囲気というのも同時に色濃く発されていた。
「ふ、ふふん、? 」
昏い充実感を満たそうという、透けて見えるその根性。
ただ、目的としている物、在り様、在り方、とはやり方を間違えている、という認識もある、……と、こいつは同時に感じてもいるようで、どうにも肝が据わらない様子。
それでもこの男の娘は、要するに喰い終わって満足したらしい。というのを再び主張したいようで、
こほん、っとひとつ咳払いをした後に、
「………、“?”」
どうにもわざとらしいニッコリ顔を向けてきた。
ついでに述べると、さらに先ほどの俺の承了には若干ムカッとも来ていたらしい。
分かりやすく言葉を解きほぐしてやる、といった体の尊大な口調で、まず、自分の身分と由来の開陳を始めた。
「先程のは無かったことにして、もう一度。まず、名乗るのを忘れていましたからね。――えふんっ、由来を示しましょう、ボクはこのアヴトリッヒ領を治める当代領主の、
………―――――孫です。」
ど―――――ん!
……と、効果音のSEがここで入ったかのような会心のドヤァ……ッ顔で、こいつはそうとだけ、述べた。
「……」「………、、」
「………」「…………、、、」
「はぁ、」
ぴきっ…、とこいつの顔面のニコニコ笑みがひび割れたのがこの瞬間だった。
え?俺ちゃん、なんかわるいことした???
だってあんた、ていうことは、領主の本人じゃあないんじゃん。お孫さんなんじゃん。いや一応敬ってはあげますけども。
そんなのを聞かされたんだものその旨ってさ、
もったいつけてぶった割にはなんてこともない話しやがってに。
とりあえず俺は、はぁ、と相槌を打っただけである。
「……、………、……、へ?」
するとこいつ……男の娘は、さらに顔のニコニコがしずかにひび割れて、まるで二度どころか三度も、信じられないものを見てしまったかのような面持ちで、表情が失せて、固まった。