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7(7/18)-黄金色の森の向こうへ-

###7(7/18)-黄金色の森の向こうへ-


 




 

「な、なんだよ、」「そのっ、」

 

 

 

 

 そいつは、こてん、と首をかしげて俺の顔に向けた後、

  

 

 

 

 

「これって、にんにくと、こしょう、ですか?」



 

 

 たぶんな、と返しておいた。それ以外に答えようがない、というのもある

 

 

 

 

「はい。そうですか、やっぱり……へっ、え? 、………」

 

 

 

 

 それから数分間、固まったかのように、そいつは凍結同然に動かなくなって、それからしばらくした後、

 

 

 

 

 

「それって、ほんとう、に?」

 

 

 

 

 

 は? ああ、と俺は再び返した。嗚呼、喉が渇いてきた。水筒の水を……

 

 

 

 

 

 

 

「  ほんとうですか ?!  」

 

 

 

 

 

 

 がばぁっ! と勢いよく立ち上がった。まるで天啓を受けた聖人かのような気迫とその喜びよう。

 

 俺は仰け反って、引いた。

 

 




「コショウなんて、こしょうなんて、すごいっ、ですねっ、すごいです、こんなすごい、すごい、すばらしい、あじの、はじめて、でっ」





 うきうき、といった気分で、踊り出すかのように、実際小躍りしながら、スキップを始める始末。だから、俺のピクニックシートが、汚れる!





「しかも、あぶらで、揚げてる、なんてっ」





 目は潤むを通り越してきらきらに輝いて、✧が両目の中に宿ったかのような有様だ。しいたけか?

 




「たべたことなかったですっ!」



 一方のこいつというのは、おおよろこび、だった。

 天にも昇る……というか昇ったおひさまのごとき、ほかほかとした笑顔。



 あ、はぁ、ぁ――……。


 そりゃあそうだろうな、異世界人よ。

 まぁ当たり前でもあろうな。だってここ、異世界でしょ??

 

 まあいい。

 今日付けで君は、この世界で最初にからあげを食べた異世界人だ。そのまま喜びたまえ、大いに発奮するがよい、……なんてことは言わなかったのだがぁ、




「もう一個、だ、」「――――……!」




 そいつが、目を輝かせた。



 俺の顔は引きつったものだったろうが、まぁ、ままならぬものよ。

 どうせ試味させるなら、両種類の味を味あわせるべきだ、と最初に判断していたのが大きい。

 

 

 今度はしょうゆ味だ。

 

 箸で差しのばした、その、からあげ。

 それを、両膝を地べたに付かせたこいつは息を呑んで、涎を飲み下して、といった体で、ずっと見入っていた。

 それから俺の顔を見て、再びからあげを見て、再度俺の顔を見て、と繰り返していき、またからあげを見て、

 そんなのが、しばらく時間が経過し……

 

 

「………、、、、、、」

 

 

 数秒を掛けて、そのまま凝視が続いた。

 目で味わうかのように、そいつの目はからあげを捉えて離さなかった。きらきらとした輝きは目の前のからあげを写していて、今も離さない。

 瞳に映るハイライトなんて、からあげの影と形になっているくらいだ。

 これからもそうなのか、それは永遠に続くようでもあり……




―――はぁぁ、



 

 あぁもう、早く喰え、と俺が箸とその先のからあげを振って、催促する。

 

「ぁっ、」

 

 そんで、遂に決心したらしい。ごくり、とよだれを飲み干すと、再び、両手で地に手を着いて、首の先の頭をこちらに持ってきた。


 木漏れ日が俺とコイツに落ちていて、そして互いの間を、涼しい風が柔らかく通り抜ける。

 がさがさという枝葉同士の擦れ合う音と共に、振り落ちる陽光が揺れて、俺はさておき、コイツとからあげを、まるで聖剣を台座から引き抜く、という、舞台劇のフィナーレの演出のように照らしだす。

 そんな中、さらり、とした褐色のそいつの髪が、風に揺らめいて、その瞬間、からあげと俺の箸にその毛先が触れた。

 うぇっ…、と俺が思うよりも、早く、

 

 

「んっ、……っ」

 

 

 そのまま箸から、慎重に口で受け取る、こいつ。

 もぐもぐ、とほおばって、今度はより実直に喜色満面といった体でからあげを一生懸命に食べ始めた。





 はぁ、っと二度目の溜息をつく。


 なんでこんな事したのかって?

 そりゃあ、泥棒の分け前って訳じゃあないが、こんな場所でばったり出会ってしまった者同士、ということもあるし、

 なにより、ここで印象を良くしておけば、もしかしたらこの先、いろいろいいことがあるんじゃないのか?? 

 というややゲスイ具合の損得勘定が働いた、というのもあった。そうならば、からあげ二個くらいならば安い安い。

 

 なぜならば――




「さぁて、」「!?」




 なっていない悩殺ポーズで突き出した腰を振りながら、尻尾があれば腰の先から揺れているくらいの喜びようで、ニコニコしながら目の前で妖精か精霊の類でも呼び出していたのだろう音頭を取っていたこいつはさておいて、

 俺は水筒の水で一息ついた後、もう一個の弁当に手をかけていたのである。






「いっただっき、ま……」「………、、、、、」





 輪ゴムを外し、蓋を取りかけた位の頃に、再びこいつの顔が、俺へと向けられた。

 

 

 

 それから、すごい音量での、ぐぅぅぅぅぅうぅうぅぅううぅぅぅぅぅううぅ……、という、腹の音が聴こえた。

 

 

 

 

 目の前のこいつは、腹が心底空いているような様子で、からあげを咀嚼しながら、腹をさすりながら抑えている。

 

 

 

 

 俺では無い。すると、これは、目の前の………





「……」「ぁ、あの、その……」





 開けた弁当からからあげを二個、ひったくって俺は己の口に放り入れると、のこった残り五個のからあげのはいったほぼ無傷の弁当を、

 ずいっ、っと、目の前のそいつに突き出してやった。

 

 

 

 

 

「……喰え、」「 ! 」






 目の前のこいつは、ぱぁっ、と顔と目の色をさらに変えて、表情を輝かせた。


 

 

 







――ああもう、まったく、なんだっていうんだ? 

 

 

 

 







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