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5(5/18)-黄金色の森の向こうへ-

###5(5/18)-黄金色の森の向こうへ-






「ほえ?」





 しかし目前に立つ俺の姿を認めたのか、目が合ったのが今だ。




 じーぃっと、俺を見ている。





 まあ、まるで美少女みたいな外観と声をした、美少女、修正……少年というかショタというか、こいつ。




 いきなりどうしたって? いやあ見たとおりですよ。こいつが女なのかどうか解かりかねてしまったからだ。


 それほどまでに、胸が無い。

 

 肉付きが乏しい、というのがその時の印象だった…

…まるで栄養不足からの発育不良をきたしているんじゃないか、と思ってしまうくらいだ。

 でも、恰好も少年的であることでもあるし、あれか? 男の娘、ってやつか??

 

 というか、全体的に肉付きが無い。

 こいつを男だと断じているのには理由があって、胸のふくらみがまったくない、というのがある。

まるで、サラシを胸に巻いて押しつぶしている、というかの程に。

 いや、単に重度のペチャパイというだけかもしれんが……



 ええい、男の娘だ。男の娘という事にしとこう。



 とにかくその男の娘が、俺を見ている。





「……あっ」




 ぐぅ~、っと、腹の鳴る音。




 それを発したのは目の前のこいつらしい。





 土の付いた口の端を、こいつはぺろり、と小さな赤い舌で舐めた。





 こいつは俺のことを、じぃ―――――っと、見ている。






 まるで食い物を見るかのように。






 クソザコナメクジな俺は後ずさった。





「あのっ、」




 なにか言っている。なにかいっているようだが、おれには無関係だ。





 声を掛けられたのは理解している。ここは一つ、ヘローゥとでも挨拶を返せばよかろうだろうが、しかしそれ以上に、おれの頭の中は真っ白だった。

 俺の脚が後ずさっていた。

 



 は、は、は、……








 逃げるが勝ちだ。

 





 脱兎の如く逃げ出そうとして、その時、







「……へっ?」







 グヴゥゥゥゥゥゥ……という、さっきよりも大きな音。







……俺かい!






 おもわずずっこけそうになった。







「……」「…………、」






 男の娘は自分の腹の音だと思ったのか、顔を赤らめさせているが。もう俺もお手上げだった。






 なにより、体に力が入らん。









 ここでようやく思い至る。

 

 

 









 あっ、おれも、死ぬほど腹すいてたんだった……ということに。







     * * * * *







「………」「………」






 森の中、木漏れ日に照らされたその下で、木枯らしの微かな風が当たってくる、そんな折。



 

 目の前の、軽装の乗馬服の上下に身を包んだような格好の、こいつ。

 まだ俺をじっ、と見続けている、こいつ。



 

 俺とこいつの間には、妙な沈黙が降りていた。

 



「………、」



 まぁいい、気にしないで、遅い昼飯に取り掛かるとするか、なにせ腹が減った……と気を取り直す。


 死体でなければ、恐れるものではなかろう……のだ。

……生きた人間がいちばん怖い、とはよくあるムカシバナシでよくある曰くではあろうけども。


 それより、腹の虫がドンドン、と胃の壁を叩いていて、とてもじゃないが、あと数分以内に飯を喰らわなければ倒れそうな体調だった。

 すると、やることは早い。

 

「よっこら、せっ」「!」

 

 なにか気配が変わった気もするが、気にしない気にしない。警戒は続けるがな。

 背負っていた登山用リュックを背中から降ろして、小学生の……嗚呼、嫌な思い出を思い出す! 改め、俺が幼少のころから用いていた、小ぶりなピクニックシートを取り出して、足元の落ち葉敷きの地面にばさりと広げる。

 

 次いで、リュックの中から、水筒と飲み物二本と、お手元付きの弁当を二つ――うるせぇ、どうせ俺はメタボ予備軍の成人病候補だッ――を取り出して、

 どっかり、と、ピクニックシートの上に腰を据える。


 膝の上には、発泡スチロールの容器に収まった弁当が二つと、胡坐をかいた足の傍らに、いちごオレと練乳コーヒーの500ミリペットボトル二本が置かれている状態だ。

 

 

 



「ぁの、」「へ?」






 さあ腹ごしらえに取り掛かるぞ、と思って顔を動かした、俺。

 動かしたその時、目の前の離れた場所にいた筈のそいつの顔が、なんと俺の顔面の寸前に迫っていた。




「わっ、わぁああぁあっ」「わぁっ!」




 途端に叫んでしまった! 俺の顔面の前でニコニコ顔のそいつだったが、そいつも驚いたらしい。

 どっちゃり、と後ろに腕を着いた俺に、そいつも転げるように尻餅をついた。


 まだ割る前のお手元が転がって、キャンプシート敷きから地面へと落ちてしまった。あぁ、なんてこった!




「あっ、」



 尻餅をついた、こいつ……乗馬服の、子供?……であるが、すると期待したような表情で、その紙製の覆い付きの割り箸を、すっ、と手に取った。



 ぱぁっと輝かした笑顔で、割り箸から覆いをひんむくが、残念だったな。




「これは……ただのきのぼう? ですね……、うぅ、」



 覆いから一緒に、爪楊枝がはらり、とおちたのが、まるでくじの外れを引いた、みたいな様子だった。

 武器にもならん、いわゆる、「ひのきのぼう」ですらないやつだ。まぁくれておいてやる。

 焦ったが、本丸の弁当は無事である。まぁいい、こいつは放っておいて、メシに取り掛かろう。





……と思っていたのだが……









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