鏡の地平 (8/9)
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……果たして、シミターは擱座した。
「お、おれちゃん、さん、も、もうひとりの、ひと、? いーりえちゃん、?」
目の前で……すべてが損壊し、傷つき、そして、倒れていく瞬間を見せられたモノがいた……
ラキアだ。
「……、ぁ、っ、……」
無力さと絶望で、泣きわめきかけた……
……その顔と表情を、キッ、っと前へと、向けた。
その目前には、敵のランナバウトたちがいる。
「……はああっ!!!!」
よろめきながら持ち抱えて…
手に携行した己の魔導機銃の掃射を、
ラキアは放った!
振り絞るようにして、己の肉体に残っていた魔力の残量を、全て絞り切るようにして、
四肢の機能不全気味の魔動機からの魔力はすべて機銃に流し込んで、
なんとか再び、魔導機銃の射撃を執ることには…成功した。
が、…しかし、
パゥン、…キュルキュルキュル…
「!」
「……ラキアちゃん、あぶない!」
敵から放たれた、パイロチューブのグレネード弾。
今度こそ至近で炸裂したそれの威力のままに、
ラキアとそれを庇ったイーリエは、すり潰されるように、打ち転がされた。
……今度こそ、立ち上がることもできなくなった。
「し、ぬ…のかな…わたし…」
上空の仲間たち……魔法少女たちは、
敵の地上のランナバウトからの対空射撃で、こちらに近づけなくなっている。
そうした中で、敵のランナバウトが、接近を再開して、こちらに、近づいてくる。
自分も、イーリェちゃんも、みんなも、…………
底の無い絶望と無力感の中で、ラキアが目を瞑ろうとした……
シミターが、再び動いたのはその時だ。
「寝ちまってたか!?ナヴァル!!」「そんなわけがねえだろーがよ! 中々シビレル感覚では有ったがな!」
不意の一撃で一瞬昏倒した二人と機体であったが、再起動したのだ!
即座の行動は早かった。
ナヴァルとリレンスのシミターが、
搭載機銃の掃射と、それから腕部前端のポリマージェットスプレー機構によるエアロゾル形成。そして其れへの錬金術照射展開によって臨機応変に生み出した、
即席の攻撃武装・ゲバルトスティック…
このとき、
パイロチューブのグレネード榴弾の炸裂によって沈黙していたはずのこのシミター機からの機銃斉射を浴びたことにより、
不意打ちのごとく食らった敵ランナバウトは、とっさに、ひるんだような状態となっていた。
そこに、ゲバルトスティックのそれを、
がら空きとなっていた相手ランナバウトの胴殻に、叩き込んで、突き刺した!
「──くらぇい!」
ゲバルトスティックの先端部収束爆薬部が、次の刹那に炸裂した。
大大的な破壊力の爆発!
ブラストログにも匹敵しうる規模の、しかしその切っ先が一点に収束しているが為の、
あまりにも凄まじい威力のこの攻撃で、
被害を受けたランナバウトは、一撃でスクラップ同然と化した。
敵機体のコクピットがあったであろう胴体殻を境に、
このランナバウトの下半身と上半身は、
破けるのを超えて、弾けて泣き別れになってしまう、それほどまでの威力であった。
「や、やったぁ!!」
ラキアは、おおはしゃぎで、喜んだ。
「……ぁ、…」
……しかし、
「そ、そんなっ……」
密林のただなかにあって……
敵のランナバウトが、シミターひとつと魔法少女ふたりを取り囲んでいた…
「クソぉ、万事休すか!?」
ナヴァルがそう忌々しく声を上げた、その時……
“リレンス、ナヴァル、無事か?!”“ヒーハーっ! 騎兵隊の登場だ!”“撃墜スコアのつかみ取り大会だぜ!”
三百番部隊のシミターたちが、殴り込むように大挙して来ていた。
その数、十四機
殴る、蹴る、棒を刺す!
といった接近肉薄戦闘のその実施と行使により、
敵のランナバウトはあっというまに!駆逐と撃破の相乗がなされ、即ち、殲滅がされていった…
ラキアとイーリエは、
ずんぐりむっくりな、敵味方のランナバウト同士の……
まるで、酒に酔ったドワーフ族同士の喧嘩をみているみたいだ。
そのような酒場の乱闘の如き戦いぶりの泥沼な一連を、
目も口も、ぽかんとさせて、顔をあんぐりとした表情で、
見せつけられるように観戦するしかない。
そうして、そのまま、戦闘は展開がなされていき…
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