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4(4/18) -黄金色の森の向こうへ-

### 4(4/18) -黄金色の森の向こうへ-






 近寄って詳しく見ることにした。

 すると正体が分かった。




……肌は白い。


 中学生くらいの痩せた体躯、

 

 長く、ほっそりとした四肢。



 それを覆う、華奢な白のワイシャツと、茶色の乗馬服の下?……のようなすらりとしたズボン。



 家庭で整えたらしいようにも見える、大雑把にジャギーの入った褐色の髪が、落ち葉の上にかぶさったまま、……動くことが無い。

 今、はらり……と落ちてきた落ち葉の一枚が、そいつの後頭部に張り付いた。

 そんなことでもあろうのに、とにかくそいつの頭は多少とも動かず、敷き詰まった黄金色の落ち葉にその顔が埋まったままである。



 背が多少小さいが、中学生の少年か少女くらいのそれ。



 人間だ。人間が、森の中の落ち葉の上でうつ伏せに寝伏せっている。





 なんだこいつ。



……死体か!?




「わぁああぁっ」




 そう判断し理解した次の瞬間、俺は飛び退いてあとずさった。



 け、ケーサツ、警察!




「はっ」



 しかし通報をするためにズボンのポッケに突っ込んでおいたスマホの通話画面を出し、その表示に「圏外」の表示がされているのを見て、そこで俺はようやく冷静になった。



――あれ、ここって、異世界なんだったんじゃね?、と。




「……ぁあぁあああぁあ…………」



 呻くしかなかった。


 なんてこったい。動転していたのも確かだろうが、しかしこの場にいる俺自身は何のちからも持たない一般人だ。

 どうする? いったん家に引き返しておまわりさんに来てもらうか? 

 なんてとも思ったわけだが、しかしどうにもならんぞ。

 そもそも、どうやって日本の土地かも怪しい、番外地なここまで来てもらうんだって話なわけで。



 せっかくの異世界デビューが、死体見つけてハイ終わり、ってかよ!



 悪態は幾らでも出るが、しかし放置しておくわけにもいかない訳で。



……どうする……




「ぅ、」



 ん?


 ぴくり、と、俺がさきほど“死体だとみなしたそれ”の身体が、震えるように動いた……ような気がする。

 うわずるようなちいさな声も聞こえた。が……なんだこの萌え声?



「う、ぅ……ん」


 ズバリ、素直デレ系を得意とする女性声優の演じる、可愛らしいショタの声、という奴である。


 びっくりするほどの萌えヴォイスだった。えぇい素人であろうくせに。



 そういえばある時期までのショタっ子の声って女の子の声とあまり変わらんよね、なんてとも思いつつ、



(待てよ待てよ)



 ゆっくりと、目を地面の上のこの、寝そべったままの人間の身体へと落とす。


 そういえば、生きているんだとしたら、これでも俺が出会った第一異世界人なわけで……。




 そんな俺の逡巡はどうだかしらないが、目前で、こいつは力なさそうに体を起き上がらせつつあったのが見えた。




 なんだこれ、なんだこれ、



「ぅっ……ぅん」



 そうこうしているうちに、まるで病弱っ娘みたいな儚げさをした、そいつの顔と対面していた。

 まるでムードが無いがね。そいつの髪には落ち葉が引っ付いてるし、ほっぺたには葉っぱと土ついてるしで。


 そんなこいつの顔は……まるで女の子みたいな。


 髪の地の色は、褐色。

 だけど陽に透けて黄金色に輝く前髪の下にあるのは、女性……というか少女同然の顔立ち。

 穏やかで優しそうで儚げな感じで、顔だけだったら俺の好みにドンピシャ、だ。

 しかし寝ぼけているのか目の焦点が合っていない様子で、むにゃ、むにゃ、だなんて声まで聞こえてくる。



 そんなぽややんとした様子のまま、何秒かかかって、ようやく寝ぼけが取れたらしい。



 森に射した陽の光が、木陰越しに、俺とこいつに降りていた。

 木々の葉を揺らす風音と共に、涼しい木枯らしが木立の間を通って俺の身体を擦り抜ける中、その木漏れ日の温い暖かさが、どうにも目の前のこいつの体温のように連想させる……ような、やめろいやだ俺は変態じゃねぇ。



 数秒の空白があった。永遠と見紛う程の。


 その頃にはこいつの顔の表情も多少しゃっきりとしたものになっていて、その多少だけだとはいえ、それでも美少女度は200パーセントアップ、だった。




 ただそれに、俺は見惚れていた様らしい。





「ぁ……」





 霞むほどの小さな声で、この異世界人は何事かをしゃべろうとした。――ようだ。




 見守るしかない俺が、その次の言葉を聞いたのは、そいつのほっぺたから落ち葉の葉がぱらり、と落ちた瞬間だった。





「おなかへったぁぁぁぁぁぁ……」






 俺はずっこけた。











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