野に帰せ。原野に眠れ!(3/3)
今回の連続更新は今日にて打ち止めとなります…
みなさまいつもありがとうございます!
──…… ! ……──
「なんだッ?!」
爆音が轟いた。
続いて、もう一度炸裂音が鳴る。爆音、爆発、破裂音、そしてもう一度……
これは?
視界の端に火柱が吹き上がったのを見て、ルーテフィアとユウタは、それを注目した。
「ユウタっ」「あ、ああ。あれは……!?」
誘引された?! おびき出されたのか!!……ルーテフィアは叫び、ユウタは慄いた。
反撃が開始されたのだ……センタリアによるものだ。
味方……エルトール軍……のゴーレム小隊のうちのひとつが、突如として爆発炎上したのだ!
炎に巻かれて、黒煙を上げながら、焼け焦げたゴーレムの頭部が、負傷したかしたその背部の統制魔道士ごと、そのまま地面に落下する。
一体何が起きたのか? 見れば、丘陵の反対の、反斜面に布陣した敵・センタリアのゴーレム隊の複数の小集団から、
射撃として、何かが撃ち出されている。
……あれは何だ?
よく見ると、あの小さな筒のようなものの先端から、その弾体が噴き出している。
発砲の同時の瞬間に、筒の後方向から、砲煙を吹き出させながら、である。
そうして、その数瞬後に、今度もまた、味方の別のゴーレムが、同じように爆裂して吹っ飛んだ。
これは……
“パイロチューブ班、射撃用意……てぇ!”
パイロチューブ? 混線してきた敵センタリア軍の通信音声を聞いて、ユウタは惑った。
気になったので、シミター機のセンサービジョンの、その眺望望遠を作動させて、敵部隊の詳細を確認した。
……粗い彫塑のような造型の、土ゴーレムのごつい体躯の片腕の肩に、…
…その細身の筒かのような発射機本体を構えて、ゴーレムがそれの操作の端緒を切った。
直後に発射されたのは、ゴーレム用の外部携行火器類の一種・パイロチューブによるグレネード弾であったのだ。
その特性は、要するに、異世界版の携行無反動砲……バズーカ砲ということであるだろう。
砦を攻略することを前提として、作戦の立案時に対施設攻撃用として、多数の弾薬と発射機が交付されていたというのがその真相である。
こうして射出された敵ゴーレムからの砲弾が、敵の指揮官の策略によって、複数のゴーレム小隊班による運用として、連続連携して弾が飛んでくるのだ。
さらに、敵センタリアは、班の他のゴーレムの、その分隊射撃員相当が、手持ちのゴーレム用・大型クロスボウ……これによる牽制射撃も同時に仕掛けていた。
手堅い方策と言えた。……敵の指揮官はあざ笑ったことだろう。正しい戦力を正しく使えば、あんなエルトールなぞ、カビ色の怪物どもなぞ!
再び腰が引けたエルトール軍のゴーレム部隊は、後退するかその場に留まるかして、前進を停めてしまった。
すると盤上の鳥瞰として見た時、そうして、進んできたこのシミターだけが突出した、そのような図盤となった。
(まずい、)
そのユウタの悪い予感は的中した。
「火線を張れ! 弾幕を展開しろ! あの灰色を仕留められるまで、釣瓶撃ちにしろ!」
そうして、飛来してくる矢とグレネードの榴弾の、文字通りの雨あられが、シミターを襲いはじめた…
…けれども、そのことごとくを、
ルーテフィアの異能による先読みとユウタの操縦の相乗で、ふたりは間一髪で回避した!
これというのは、ユウタとルーテフィアが、シミター機の操縦とした時に、最も得意とすることだ。
こうなりゃ、後は“踊る”だけだ。……ユウタは吼えた。
そうして、回避の躍動が開始された……
回避し続けた。今も回避している。次の瞬間も、たった今とその次も。刹那も間際も、一拍の拍子の瞬間すらなく。
だが……しかし、一度始まった制圧攻撃は、そう簡単には終わらない。
敵の攻撃は止むことなく、滞ること無く、次々と飛来してくる!
……が、シミターには傷一つ付かない。
最悪の場合において、砲弾はシミターの装甲に掠めるか、当たって爆発するが、しかしされど…
…その魔導反応装甲としての機構によって衝撃も熱量もほとんど吸収されて、機体本体とその内部にダメージがもたらされることは、ないのだ。
だがしかし、
「ガッ、」「うっ、あぁっ……!?」
至近距離での爆圧とその衝撃によって、搭乗者である機体内部の二人は、そのストレスとハラスメントにさらされ、蓄積するダメージに苛まされていた。
己たちを狙った弾雨と砲迫が続くというのは、こたえるものだ……ユウタは呻くしかなかった。
(くそっ、このままじゃジリ貧だ!)
──どうすればいい!?
焦る気持ちとは裏腹に、おのれたち二人だけの、その戦況は悪化していくばかりだった……。
その時だった。
その時…… 空から轟音と共に“それ”が落ちてきて、鬼車とゴーレムたちの群れに降り注いだのだ。
集弾していて束のようになっていたそれは、空中から地面へと落ちる途上で、ばらばらに解けて、散布されたかのように着弾した。
それらは着弾と同時に凄まじい炸裂と衝撃波を放ち、周囲の敵を根こそぎ吹き飛ばした……。
その爆心地にいた者は、跡形もなく、消し炭ほどに消し飛んだだろう。
「なんだ今のッ、 ルー、あれは、隕石が降ってきたのか!?」
「あれは、多分……」
すると、続けざまに、もう一回、斉射が降り注いだ……
空高くから、怪音たる風切り音と飛来音を伴って。
鈍足のゴーレムばかりで構成されていたセンタリアの戦力は、緊急的に高速で退避をすることは出来ない状態だった。
ふたたび、センタリアの部隊は殲滅されるのが続いた。
「ブラストログ……」
ルーテフィアは、それの名前をそう呟いた。
「てことは、砦からの支援射撃! やるじゃん、頼りになるじゃん……すげえ!」
ユウタも、賛辞としたいそれをうわ言のように声を喚かせて表現する。
「すごい威力だね……確かにあんなものが直撃したら、ボク達も普通では済まないかも。でも、あれだけの数の敵を一撃で一掃することができるなんて」
「あ、ああっ! で、でも、これだけの威力があれば、あとの敵は、簡単に、」
おのれのそこまで出た声の言葉に、ユウタはドキリ、となった。
シミターのことを、ルーテフィアのことを信頼していなかったわけではない。だが、先程までの己は何事に対しても神経質になっていた。
だがしかし、それはこのような情局の転換に、
あっという間に! 気分的な問題として、心強いものとして、洗い流されたかのような気分の感情と高揚感に、なってしまっているのだから。
……そうか、俺は、臆病者だったのか。
ユウタはそう宣告された気分となった。
……敵センタリアが、死兵となって襲いかかってきたのは、それからのことである。
後方の母艦である飛空艦を呼び戻して、自分たちの部隊の残存の回収を願ったのだろう。
そのために、敵センタリアの歩兵級が、己等の不利であることを悟りながら、反転攻勢に打って出たのだ!
だが、それというのを、エルトールの砦から射出されて飛んで来るブラストログの弾体が、爆風の威力で粉々に打ち砕いていった……
このとき、エルトールの他の部隊は後退の指示が出ていたが、
先出していたルーテフィアとユウタのシミターは、前線に取り残されていた状況での砲撃である。
……ルーテフィアとユウタのシミター機は、エルトール軍本営によって、撒き餌の囮代わりにされた格好であった。
奇跡的に直撃とはならなかったとはいえ、
至近距離での……爆発と爆風の爆圧と威力に、機体の内部のユウタとルーテフィアは揺さぶられる!
だが、シミターの防護能力は万全に機能していた。
ハッチを開けさえしなければ、大丈夫ではあった。
だが、これでは仕打ちにも等しいのではないか?
「ルーテフィアさま、お許しくださいぃぃぃぃ!!!! 後で、ハラキリでもナマクビにでも、なんとでもこの我輩の身を捧げますからぁ!!!!!」
通話越しに、ムノーのその三流役者めいたセリフが大きく叫ばれた……
……ルーテフィアは静かに表情を不穏めいたそれに固め、ユウタもまた、嘆息するしかなかった……
やがて、センタリア軍の飛空艦たちは、戦域から離れていった。
砦と砲撃戦をするつもりは、なくなっていたらしい。
敵の揚陸戦力のどれだけが、載せられて戻ることが叶ったのであろうか。
うららかだった平原は灰と炎の残り香に充満していて、
ここで燃えて溶けて焼け落ちていったモノたちの気配などを、深く大地の一部にへと、永久に隠してしまった、その後であった……
……すべては原野に眠った。