野に帰せ。原野に眠れ!(2/3)
本日の投稿となります…
今回の日韓連続投稿は、明日の分で一旦打ち止めとなります
ごゆるりと……
「おわったね? さあ、前進しよう。」「あ、ああ……」
こちらはこうだというのに、冷静に進行を指揮しているのは、果たして車長たるルーテフィアである。
ユウタには、思わなくもない。
この、そんな状況で、呑気なくらいに今までのほほんとした口調のルーテフィアであるのだから…
いや、呑気でも、なんなのでもない。感情の起伏が…無い…のだ。
…ユウタはこれが妙に不気味で危なっかしく感じてしまう。
状況と現局面に不釣り合いなほど、声の声色は柔らかいのに、その声が、無表情な物というか、トーンが平坦というか…
…正直、これは…
…そんなときである。
ルーテフィアは、続けての声に、緊張を込めた。
「ユウタ、出たよ。」
……!!……鬼車……!
ルーテフィアのその発言を受けてコクピット内モニター・映像眺望視界を見ると、
……ユウタは息を飲んだ。
例のアレだ。そうだ。鬼車だ。
己に、“不死身のドウジバシ”という渾名を冠させた、そのときの下手人の、それの同型の車両だ。
さながら随伴歩兵というべきなのか……石ゴーレムと魔導歩兵の分隊を両翼に着かせながら、
車体左右のクローラーの信地旋回により、
左右界の旋回をこちらにへと取りつつ、その主砲の砲門の先を、こちらにへと合わせようとしていた、まさにその瞬間が今だった。
「!……下がるよ!」「らじゃ、っと!……!」
……閃光のひらめきのようにルーテフィアはそのことを直感したのだろう。そして、指示を叫んだ。
まず最初に、相手らから照準評定用・スポットガンの弾が飛んできて、このシミター機の装甲外装の表面でに着弾し、炎光が弾けた……らしかった。
すると鬼車の主砲から弾丸が吐き出されたのが、まさに今この時だ。
だが、そのときには既に、シミター型機鎧の走行の操縦を受け持つユウタの手によって、機体は後退進の操作に入っていた!
刹那、動作が駆動。猛烈な作動音とともに、機体が後方に推進歩行し……
同時に、相手から射出された弾丸が、飛来…………
シミターが“元いた”地点のその付近。其処にて、大音響を伴う破滅的な炸裂として、破壊が轟いた!
だが、しかし……その時点で、既にシミターはそこには居なかった。
消えた? 相手たちは、自分たちの火力が素晴らしすぎるからこそ、
この今しがた対峙していたカビ色の不明なゴーレムが、消し炭も残らぬほどこの世から消滅した、そのことであろう……と、歓喜に顔が緩んだ。
だが、その表情は、次の刹那、凍った。
まるで、不死の化け物を目撃したかのようだった。
いや、もっと単純な話だ。
……すなわち、後ろへ退避した……
シミターは自機のその背後方向へと、走行駆動の動作を取って避難していたのだ!
速やかに霧散する爆炎の劫火と煙から、シミターのその姿が暴露した。
その瞬間に、センタリアたちの凍った表情は、戦慄を確信したものとなった……。
互いの行動の一つづつ。
その結果と結果の同士が、こうして此方と彼方で噛み合わった、ということである。
そして、直後のことだ。
「停まってー。……撃ちまーす!」「らーじゃ、っとぉ!」
ユウタが後退させていた機の動作を停車させたのと、……ルーテフィアが火器の操作を行ったのは、寸差もない瞬間と刹那でのことである。
急に走行が止まったシミターの機体が、ガタリ、と一瞬、揺動する。
機体の照準は揺れたが、即座にアクティブサスペンションが作動して、その照準誤差は直ちに補正修正がなされた。
そうすると、ルーテフィアのその管制によって、次の間際には、シミターの火器が吹かされた。
具体的には、肩と胴体前端の機関魔導砲・二種類。
単砲身のとバルカンのとそれぞれある火器を、一点に対して照準して、同時に射撃していた!!
VOVOVOVOVVO!!!!!!
DOKDOKDOKDOKDOK………
「おう、おう、おぅ……」「~~♪」
眺望視界のセンサービデオカメラ撮影映像によって、ユウタはその有様をまざまざと見た。
呻くしか無い……同時に、背後の後部座席ではルーテフィアは鼻歌を歌っているが。
そこからの数分は、ユウタには、まるでゲームの映像を見ているかのような気分になるしかなかった。
まず最初に、二種類の火器を同時に一点に照準しての、射撃。これが、かなりの威力である…
まず数秒の射撃。それによって、鬼車…
…この世界の戦車ということではあるが、物性や実構造的には、ユウタの元の世界の旧世代の軽戦車や装甲車程度の代物ということである…
…の方は正面装甲を貫通され、おそらくは車内弾薬庫が誘爆したのか、即座に炸裂!
左右に陣取っていたそれぞれの石ゴーレムと歩兵たちは、こちらからの反撃が始まった頃には逃げようとしていたが、
鬼車の炸裂に巻き込まれて機動が困難になった瞬間、ルーテフィアによる抜かりのない射撃攻撃によって、
それぞれの左右がロータリーカノンと単装機関砲の二手に分かれたそれぞれへの攻撃を食らって、
着弾、命中、被弾……そのまま炸裂! 爆散した……
(これの射撃は、生身では死んでも喰らいたくないもんだ……)ユウタはそうごちるしかない。
交戦を開始してからここまでに、まだ三十分も経過していない。
いま撃破したこれというのは、砦を南側から攻略しようとしていたその戦力であったらしい。
その戦力の、一角。さながら鶴翼の一翼が喪失したことで、この場のセンタリアは混乱しているのかもしれない…
…敵部隊はこちらシミターから距離を取ろうと、後退して離れだしている。
だが、現実として最も混乱していたのは、
ユウタとルーテフィアがシミターによって援軍に駆けつけたはずの、そのエルトール軍の側のほうであった。
「な、なんだ、お前らっ……あっ?! いや、この声は……ルーテフィア様! わ、吾輩にござります。ムノーにございます!
して、そ、そのカビ色のゴーレムは、いったい……」
ムノーという将軍!
以前に会った以来だ。だが、それというのにはさして重要性はない。
いまいちばん様子を知りたいのは、この場に展開しているエルトール軍の状況である……
通信による通話を後席にて開始したルーテフィアの一方で、機体の前席を受け持つユウタは、気を張り直そうとして、その顔面の表情に……力を込めた。
そうしてから、まず、水筒の水にへと手を伸ばした。
* * * * *
青空の遠くには、センタリアのモノであるだろう、揚陸艦型飛空艦が浮かんでいる。
おそらく、この砦へと侵攻している戦力は、あれから揚陸されたものが大半であろう。
その自分たちの母艦を目指して、であろう。
一転して下がりつつあるセンタリアを、今度は追跡する番だ。
「脚部再始動。前進!」「りょうかい……!」
ルーテフィアの指揮がくだされて、ユウタは機体の操作を投入する……シミターの前進は再開された。
……戦場の盤局は変わりつつある。
エルトール軍の一般兵士や士官たちも同じことを考えたらしい。
この友軍たちの戦意は、旺盛に回復したのだ。
魔道士を随伴した戦闘班や分隊が前進して、随伴魔道士が土魔法にて土ゴーレムを錬成…
…シミターを追いかけ追い越すかのように、敵にへと接近を開始。
巻き返しを図る。
しかし、土ゴーレムの走行性能は、正直、低速だ。
敵のセンタリアも、土ゴーレムをいくつも作り出しながら、こちらと対峙しながら、そのまま後進を続けている。
なので、互いの戦況は遅々とした進み具合だ。
戦闘距離が重なった互いの先鋒同士が、その都度、交戦して、そのまま潰れ合う。
そんなシチュエーションが続いているが、シミターは健在だ。
ロータリーカノンと単装機関砲で、こちらが追いついたか相手が向かってきたかの敵ゴーレムは、片っ端から粉砕していっている。
「っ、」
……埒が明かない。
ユウタは今の己が、苦虫を潰した面相になっていることは請け合いだろうと思った。
そしてそのまま、センタリアを、丘陵の中間の、坂の向こうまで追い詰めつつあった…
…そんなとき、
(次回に続く)