3(3/18)-黄金色の森の向こうへ-
###3(3/18)-黄金色の森の向こうへ-
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「よいせっ、と」
足首ひとつ分の段差が、扉の下端と地面の間にはあったので、足に古傷を持つ俺は、慎重に脚を地面へと運んで降ろした。
サクッ……というそれが、その一歩の踏みしめた音だった。
異世界の大地への、第一歩め。
俺は、晴れてその足跡を刻んだのであった……
完!
……とはならねぇんだよな~??? ノンノン。
「ふぅっ、」
さて、作業開始だ。
そのまま扉を閉じる……ことは無く、そのドアノブに、
(予め作成しておいた、)百円ショップで売っていた安いナイロン・ロープを何本か繋げたやつの一端を括り付けて、
もう片方の一方を、異世界側の……付近にあった樹の一本に、捲きつける形でくくりつけてやる。
これで、準備は完了だ。
何をしたかって? 異世界の存在のパッチテスト、みたいなもんだ。
ロープには余裕を持たせてあり、このまま扉を閉じることもできる。
これで帰った後で扉を閉じた後も、もう一方の異世界側にはロープが括り付けられたまま。
これは何故? と言うと、
数々あったであろう異世界モノでは、異世界への扉、というのでは色々バリエーションがあったと思う。
それの内、ランダム転移型か、それとも定位置から動かない常設型なのか、
それの作用の大雑把な仕様をまず探りたい、と思ったからだ。
さて、どうなることであろう?
明日の翌朝に、どうなっているかは分からないが、また再び扉を開けてその向こうを見た時。
ロープの通った異世界がそのままだったとしたら、今後も遊び甲斐があるだろうな、ってわけさ。
「よいしょ、っと」
さらに、このロープにカニカン付きの別のロープを掛けて接続してやり、俺の腰にも片一方が掛かったこれによって、命綱の準備は完了、と。
余裕を持たせて、腰のホルダーには50メートル余分程の巻きがある。
これで多少の探索は可能になったわけだが、さて。
「ふぅっ、」
それはさておいて、作業の終わったおれは、数歩ほど、足を進めて、地面の感触を確認する。
若干の傾斜地、丘地か山に面した森なのだろうか。
ふかふかな地面には、見渡す限り金色の葉が散らばっている。
「やっぱり、秋の時期なのか……?」
この黄金色の森は、果たしてどこまで広がっているのであろう?
木々の間を見ようとしても、建物だとかそういった人工物の類いはまったく見つけることが出来ない。
「ふむ……」
視点を落として、地面の上を見てみる。
土の上には落ち葉がいっぱいで、それがどこまでも……木立のあいだに果てしなく続いている。
深呼吸して、鼻孔いっぱいに森の大気を吸い込んでみた。
「っ!! けほ、げほっ、げほっ……」
……咳き込むほどに、濃厚というやつだった。
水気ばんだ土と木の匂いが充満していて、なんともいえない。
「ひえ、びへ、びへっくし!!!」
ついでに悪寒とともに一瞬のうちに俺の体は冷え切って、
そのまま、くしゃみをしてしまうくらい、気温の体感も……かなり低く感じる。
こちらとは扉一枚隔てた向こう……の現代日本では、春の終わりから夏の始まりを迎えたばかり、だというのに、だ。
気を構えて、歩き始める。
(やきいも、なんてしたらおいしそうだ)
そう思ってしまうくらいに、どこまでも落ち葉が積もり上がっている。
鼻をすすりながら、
腹が減ってきたので気紛らわしに、目線を上へ持ち上げる。
顔を上げて見渡せば、
そこには、やはり先程とは変わらない、黄金色の森の光景が、果てることなく続いている……ではないか。
立ち並ぶ木々は、いずれも金色に見紛うような、見事な黄褐色に葉の色を染め上げている。
気のせいか、日本の木々とは多少生え方や形状が違うような気もする。
そうして、枝に着く木の葉越しの、遠くを見てみる。
その向こうの空は青空で、どこまでもひろがっていて、雲一つない。
(まるで木々の森で出来た迷宮のようだ)……、とも思ったりもした。
腰にロープをつないでなかったら、小心者の俺は果たして安心できなかったであろう。
……まあそれはそれとして、
「やっぱり定番だとしたら、昔のヨーロッパ風ファンタジー世界、ってことなんだろうなぁ」
町に出たら、どうしようか。
村かもしれないが、その時はどうしようか。
まあ何かあったら一目散に逃げてくればいいのかも、とか。
そう取り留めもなく考えながらぼやいてみるが、どうにも、だ。
……原因は一つあった。
「せっ、ふっ、うっ、……えぇい……っっと、」
こう足場が不安定だと神経を使う。
落ち葉と土が積もった地面は中々の曲者で、けっこう細かい起伏が入り組んだ地形をしていたのだ。
ただでさえ斜面がちということもあって、足に負担が来る。
ぱっと見、では平坦だと思ったんだが……
「……ん?」
それに気づいたのは、そんな状態で三十メートル程、進んだころのことだったと思う。
地面を警戒していた目を、ふと、持ち上げた瞬間だった。
俺は訝しんだ。
遠くに、人間のような姿が見えたからだ。
そして、その姿は……うつぶせに、倒れている。
落ち葉の上で人が転がっている光景だった。
「やきいもでも掘ってるのか?」
そう思いながら、近づいてみることとした。