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野に帰せ。原野に眠れ!(1/3)

イメージテキストですが、書き溜めが出来ましたので本日より明日、明後日まで連続投稿いたします

みなさまごゆるりと……


  

     * * * * *



 その日のうちの、午後の昼下がり……

 といっても、不穏な情勢は現実の災厄として今繰り広げられているわけだから、比喩に比して……その状況には穏やかさだとかというものは、既に無い。

 状況推移の時間的経過だけとでも言えるだろうし、

 さりとて、うららかな字句のそれに見合うのは、

 死神たちとあたらしい獄罪人との集団お見合いの待ち合わせ時刻であるだけという、その模様の……それのみである。


 

 晴れ渡った空は、どこまでも美しく、青く続いている。しかし、その直下の大地は……

 風光明媚で麗しかったはずだった異世界の草原の、その幻想的な程の自然の風景は、殺伐とした煉獄同然と化させられていた。

 


 その戦場に、シミターが現れていた。



(クソッ、こっちの味方も壊乱状態かよ! なんて頼りにならない……!)

 ユウタは毒づいた。

 開戦から3日。

 この地域のエルトール軍は、すでに組織的抵抗が困難になりつつあったのだ。


 元来、ここは、エルトールの砦が存在する地帯だ。

 そして、今回のセンタリアの電撃的侵攻に対して、

 駐留するエルトール軍は、果敢に抵抗を試みたらしい…

…だがその結果として、機動戦力の中核となる自動貨車化・歩兵小銃部隊はほぼ壊乱していて、

 残る残存の部隊も、指揮統制は出来ているものの、既に腰が引けている状態であった。



 その指揮官は既に籠城の判断としていたようだ。

 だが、迎撃に出させた歩兵部隊を収容し切る前に、砦の扉は閉ざされようとしていて、

 この戦場には、見捨てられた者たちの、怨嗟と呻きのみがこだましていた。


 さりとて、籠城したからといって、勝算はすでにない。

 クッション役のこの歩兵たちが全滅したらば、あとはセンタリアによる攻略と開城を、待つのみとなるであろう。

 


 放っておけば、そのまま殲滅されようとしている状態だった。

 言い得てそのまま、味方の窮地である。



 されどなれど、しかし、ルーテフィアの判断により、

 その本人とユウタの二人が乗る……ふたりのシミターはまだ、今すぐにとは、積極的な戦闘にへとは投じられて、踏み入ってはいない。


……戦場となっているのは、砦のある地点から、北東の地帯である。


 裏をかく、ということであった。

 頂にエルトール軍の砦がある丘陵地の、その山の裏側を半周して、

 つまり南西の地域から迂回してから後、その交戦が目下繰り広げられているところの、北東のその主戦場にへと、横合いから、殴り込みをかける。


 そうすれば、主力をこちら(自軍=エルトール軍)に担当させたまま、敵の中枢をピンポイントでヒットできるでしょ?

……その時のルーテフィアの言葉である。


 そして今、うっそうと茂った草薮の続くその経路地形を、踏破した後として……

 ふたりとそれの乗るシミターによる、直接交戦の火蓋は切って落とされた。



 すなわち……奇襲である。


 

 VOVOVOVOVOVO!!!!!!!!



「よっしゃ、いち撃破!」「やったあ♡」



 今もまた、敵センタリアの歩兵輸送装甲自動貨車の1台を、周囲の歩兵や乗員ごと、まるっと撃破・殲滅したところである。

 このシミターの武装の一つである、ロータリーカノン……つまるところの、ガトリング砲……の作動は快調だ。

 それに対して相手の装甲貨車の側は、

 如何に魔法の加護が掛かっていてさらに装甲用グレードとはいえ、軽質軽量の軽合金でそれの車体が構成されていたからというのもあるだろうが、

 真正面から弾火を浴びせても、余裕でその構造構体は貫通して破壊できたのだから!

 そうして……これで、何台目であろうか?……数えた所、およそ、3台。


 いままでに屠ってきた敵の自動貨車の台数ということだ。 

 その数の分だけ、魔導機関から炎を拭き上げて燃え落ちつつある残骸が、

 うららかな昼下がりの、平時ならば風光明媚であろう平原の、そのあちこちに転がっている……という有様だ。



…… ! ……



「おおっと?! やる気か?……んるらぁ!」



 もう一台の敵の装甲化自動貨車が、魔導機銃の銃撃をはなってきた。

 周囲に降車して布陣した敵歩兵たちによる射撃も、それに続いて銃撃を始める。

 

 さりとて、味方のはずのエルトールの歩兵は…

…自分らが唐突に現れたこともあるだろうが…

…こちらシミターにへは、積極的には応援、援護に来てはくれない。



「だれの為の戦争だ!」



 毒づいた瞬間に、レーザー検知警報のブザーが鳴る。

 敵の車両からの、車載小型・対装甲マイクロブラストログ、それの発射照準が当てられた、ということだろう。

 それの発射がされたのは次の時だ。


 だが……ユウタはフットペダルと操縦桿を、目一杯倒して押し込んだ。

 そのまま相手を軸に反時計回りに…

…脚部歩行の走行により…

…半旋回の機動を取ったシミターは、その相手からのブラストログの攻撃を、回避することに成功した。 

 


「だらぁっ!!!」



 回避を成功させた直後に、反撃に打って出る。

 ユウタは、操縦桿の操作をし、照準を付けた状態で、射撃管制用ガンスティックのトリガーを押し込む……搭載機関砲の斉射を吹き鳴らした。

……着弾、命中…

…そうして、相手の装甲貨車は、沈黙。

 周囲の歩兵ごと、この一閃で、殲滅がなされた。

 これで、四台めだ!



「いよっし、」


 

 この時点で既に大戦果だった。

 今乗る機体がシミターだということで、これは、在来の歩兵の装備や並一般の機鎧では、成し得られることは困難であろう戦果だ。


 それにより、敵・センタリア軍は、浮足立っていた。

 恐らくはそうであろう。

 予期しない、このシミターという存在のこの戦場への登場というのに…

…予知し得ない、不可能な筈だった増援の出現というのに、完全に虚を突かれた格好だったろう。


 センタリアの作戦は、このような予期せぬ存在は、当然として考慮には入っていなかったであろう。

 そうしてエルトールの砦に主力の正面をあわせていた結果、

 がら空きになっていたその横っ腹を、こうしてルーテフィアの指揮するユウタとそのシミターによって、

 ボロボロについばまれつつある、ということであった。


 

「よっしゃ! もういち、ヒットぉ」「すごいすごーい!」


 

……ムードメーカーが必要なのは、果たして自分自身であるのだろう。

 口では軽快になるように調子のいい口調のつもりであるが……密かに、ユウタは思いあぐねていた。



 それというのも、たった今は偵察と観測で飛んできたらしい敵のワイバーン航空騎兵を、バルカンの斉射で叩き落としたところなのであったが、

 しかし、それにしても……ルーテフィアの様子が、どうなのであろうか。



……言い得ると悪い表現になるだろうが、さながら、今の自分達は、戦闘マシーンというやつだ。

 別の比喩をしてみよう。

 シミターという戦闘兵器を動かすにあたっての、さながら唯の部品になったかのような、その感覚だ。

 すると、今の自分達には人間らしい理性や善性というのは無くなり、まるで、“トランス状態”というやつに……なっているのであろうのか。


(いや、俺は正気だ!)


 ではルーテフィアは?…

…気配ではわからぬ、と普段からしているユウタのおのれであったが、しかし、後部座席のルーテフィアの、その声色でやや判じれる。

……状況が状況なのだ。だが、ルーテフィアの様子は、あまりにも、この鉄火場に、馴染みすぎている……というのか。

 ユウタが、おのれを尺度としたとき、ということである。

 いまのルーテフィアはある種、超然としていて、自分が補助のための役をやろうにも、とっつかむための、掴みどころがないというか……



(……いかん、いかんっ。今は目の前に集中しろ俺ちゃん……目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れて……)



 乾いたような空気が充満している、そう広くはないコクピットの中で、

 ガン・スティックのトリガースイッチの鳴らされる、カチカチ、という乾いた音のみが、連続する……


(さっきので、空から叩き落としてやった……まだ動くか!? なら、止めだ。……やった、やったぞ! やった……が……、、、。。。。)


 今しがたは、叩き落とした飛竜のその動きを、ロータリーカノンの斉射で完全に塞ごう、とするその只中であった。

……文字通りに、粉砕は成功した。

 吹き飛ばした肉片とさせて、ワイバーン飛竜とその騎乗手というのを、そのへんの土塊の一部にしてやった。



 冷や汗が流れ落ちる。口の中はどうしようもなく渇いているというのに。



(次回に続く)

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