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アルヴィスは太陽とともに……(9/10)






 そうしたわけだが、とどめの絶望が、最終的にもたらされたのは、そろそろの頃合いであろう……


 気づいたものが、ヒィッ、と声を上げた。


 それは、この混乱が引き起こされた今、撤収撤退や脱出の類は、それは物理的に、できない……ということに気づいたからである……



 これというのはひとつ要因がある。

 つぶれかけの砦に多数の陸上艦(それも、特大の巨艦を含む!)で殺到して進行しようとしたため、

 砦の壁に一方口に通じる谷の底……を進んだ結果、峡谷の谷のようになっていたからでもあるその地形により、

 この一方向しか無い回廊の底に、陸上艦たちは拘束されてしまっていたから、という理屈でも合った。

 それというのも、基本、陸上艦というのは浮上走行を取るものだとはいえ、

 崖や山肌、急斜面などが入り乱れた険しい丘陵地帯というのは、走行原理と地形特性的に適性が合わない、ということでもある。

 そして、このいま自分らが所在する現在地域は、大型艦の通行はなんとかできる程度に幅は広いが一本道とも言うことができる渓谷の底であり、

それを左右から挟む丘陵地帯というのが、まさに前述の条件をすべて満たしていた。

 すなわち、前後には行けても、左右回頭とその方向を含めての撤退というのは、極めて困難な、その前提条件がすべて揃ってしまっていたのである……



 塞がれて、逃れられない、助けはこない、

 そのはずだったのはエルトールのやつらのはずだ。

 それなのに、いつのまに、こんな!


……ひとつ変数があったとするならば、

 それは、灰色のやつ……の、そのコマンダーが、機転を効かせて生み出した策であった。

 この戦いが開始される数刻前に、砦の指揮官らとの通信が叶ったのがその発端である。  

 砦の残存と共謀して、(策を弄した本人は後で知ったことであったが、砦の人間たちは悟られまい、と欺瞞のための見せかけを、アドリブで、決死隊を募ってまで! やってみせた、ということでもあった。)

 こうしてすべてを誘き寄せ、逃れられなくなるまで引きつけた上で、狩りに及んだ、ということでもあったろう。



 だが、言うならば……少なくともセンタリアに言うならば、

 完全に、戦略のミス、であった。

 遅ればせながら、マグナホンはそれを、悟った。




「ぬ、ぬぅぅぅ……」



 この頃までには他の僚艦たちも、恐慌が伝搬しつつあった。


 盾にされた陸戦艦に、射撃の弾火が飛ぶ。

 すると、その盾の側にされた側に、多複数の僚艦からの、弾着の命中が走る。


 その頃のあいだ、灰色のやつ……こと、シミターは……

 艇を盾にしながら、他の艦艇にへと、“高射砲”による射撃を、繰り返し行って、脅威の数を、地道に削っている。

 

 そうしてその盾としていた陸上艦が損傷で火を吹き始めたころには、速やかにシミターは走行を再開させて、

 次のフネへ、次のフネへ、次の艦へ、……という戦法を取っていた。


 そしてであるが、これもなんとも嫌味なことに……

 艦体の中の、外周の艦艇から一回りそぎ取って、一周ずつ削るかのようにその破壊のターゲットとしていたのだ。

 それも“対象”とする相手標的の“選択”がうまいので、センタリア側からは、いちいち狙いは取れず、

 離れた後の別のフネへの乗り移りを阻止しようとしても、残骸と生きているフネのシルエットで、遮蔽されてしまう!

 そうして個艦同士が相互しての夾叉射撃を図ろうにも密集しすぎている状態であるため、

 いま十字砲火を見舞おうものなら、飛んでいった弾丸がその先で友軍と同士討ちをしてしまい、互い違いにすべて全部が自滅してしまうのであろうか? 

 そのような状況でもあった。

 火線を協力させ、連携しての協調撃破、これが不可能になっている! ということでもあった。


 すでに、灰色のヤツはこちらセンタリアの陣の艦列の只中深くに入り込んでいる。

 そしてやつの機動のペースには、艦艇の備砲の操向が追いつかず、

 そして、もはやどう撃ったとしても、友軍への巻き込み被害や損害というのは、もう避けることは不可能になっていた。

 そうして混乱が続くさなかで、喰おうと見つけたセンタリアたちを、喰って潰して、打ち倒す!




 これが、灰色機の車長コマンダーたる人物。ルーテフィア・ダルク・アヴトリッヒの選択した、“勇者の戦い方”である。

 その人物は、今回のこの戦闘術を、

戦戯盤チェス・ゲームでの遊び方の一例から「ナイト・ツアー」という分類名を与えたという。


 そしてその人物の獰猛な戦いぶりと、それを実現させているシミター機前席操縦手の「不死身の英雄」のコンビネーションに、すでにセンタリア側の戦力は、壊滅状態となりつつあった。



 なにもかもを諦めたセンタリア艦らが、弾幕の射撃を見舞ってきた。

 だがそれで命中着弾の被害を被るのは友軍のハズの個々別の他のセンタリア艦たちであって、

 それでも味方に射線が被さることのせいで迷いがある銃撃の手付きに、

 灰色の側は、十分に最高速度を発揮した上で、

 そのことごとくを、潜り込み、かいくぐってきていた。

 


 八艘飛び、という言葉がある。……今がまさにそうだった。



 やぐらを渡る曲芸師か、

 パルクールかの如く迅速なそれに、ついてこれるものは、今この場には、いない!




「こ、こんな、そ、そんな……」




 艦長たるマグナホンも、混乱するしかない。



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