アルヴィスは太陽とともに……(8/10)
「な、な、な……」
灰色だけは、それからも容赦がなかった。
無射程での発砲と、その腕部を繰り出してのハード・ブローを見舞うのを開始していたのである。
アルヴィスは打撃と振動に見舞われ、
船内にはそのたびに轟音が打ち轟いていく。
その際の威力規模と作用の真相は……
「 や、やつもインパクターを使えるのか?!」
術そのものはありふれたものの一つではあるのだ……であるが、あんな小型の機体に、この威力規模が可能な機構を!?
最早、ありえないようなことの連続連発である。
それは今この瞬間もそうだ。船体に、穴をあけたり、ボール紙に穴通しをつなげていく要領で、破断させていき、そのまま、打ち破ったり……破り捨てたり……
いや、今この瞬間は、違っていた。
破り取ったこの艦の外板を、灰色の機体は腕で掲げて……保持し……
いま、これらの行動の意図に気づいた。
「た、盾にしているのか?! この、アルヴィスを!?」
破り取った外板と、今こうして遮蔽物としている事、その2つが掛け合わさっていた……のはユニークさ、のうちなのだろうか?
もっとも、今の一連の行動の目的としては、機体のマニュピレータに携行する、“高射砲”こと、90ミラ魔導速射機動砲を、その魔導弾薬の再生成チャージ時間を待つ、ということであったのだ。
そうしてついでであるから、携行できる盾も得よう、と。
そしてアルヴィスを盾にされた僚艦たちは、皆、面白いように射撃を止めてしまった!
灰色の乗員ふたりにとっては、まさに希図したとおりのシチュエーションだった。
そうして、再度、灰色の機体は……躍動して躍り出た。
再びの「ナイト・ツアー」の再開であった。
破り取ったアルヴィスの外板を盾代わりに、ふたたび各艦への襲撃と銃撃を再開したのだ!
今、灰色…シミターである…の機体は、アルヴィスとその僚艦に対しての、跳梁跋扈を開始していた。
……ここからの一連も、悪夢そのものに他ならなかった。
灰色のあのヤツは、アルヴィスはじめ他の陸戦艦や鬼車をも、その度その都度に、盾として使ってみせた。
灰色は、この陸上艦だとかに比べると、豆粒か?とまでは言わずとも、大小の対比のように、シルエットは小さい。
おおよそ、標準的なガルバーニ型ネクロアーマや土ゴーレムくらいの小ささだ。
だから、よく隠れられるのだ!
そのうえ、脚部走行による速度は非常に俊足で、
その移動経路は変幻自在てあり、それを予期推測して決め打ちを見舞えるようなベテランの射撃士官が在籍している艦艇は、今回の侵略に合わせて急場しのぎで集められた促成栽培の兵が大多数を占める今回のメンツにはそうそうなく、
ちゃんとしたターゲット物追従追跡等の機能能力が備わっている火器管制装置に接続された機銃や艦砲でしかマトモな牽制が図れない!
アルヴィス以外については年式が古い旧式艦が大多数を締めていたこの任務部隊に取って、それは致命的なことであった。
火器類と射撃統制装置などのリプレースが、十全に済んでいないフネが多数を占めていたのである。
しょせんは予備兵力なのだから、というのは、はたしてセンタリア軍の上層部の、思惑のとおりだったのか……
そして、とてもじゃあ無いが、陸に散らばったままの陸戦隊歩兵やら、艦載機のガルバーニだとかや土ゴーレムだとかでは、そもそも追従自体ができなかった。
その上そんな彼等彼女達がいるのだから、他の陸上艦たちは、艦砲や火器類兵装による射撃は、まるでできない状態でもあった。
同士討ち、フレンドリーファイア、
それはそうだ。そうしたリスクがあるのに、その処置はだれもやりたがらないであろう。
つまるところ、この灰色の機械ゴーレムというのは、
どれをとっても阻止というのがまるでできない、非常に相性の悪い相手、と形容することができた。
そんな柔軟な扱いにたいして、しょせんは砲噴火力しか持ち得ないセンタリアの艦側からは、
なにも精密な有効打が取れなかったのである……
こらえるのも限界だった。
もはやなりふり構わなかった。各艦とも、連携を欠いた状態で、戦闘を開始せざるを得ない!
堰を切ったように、とも言えよう。
各艦同士でその間、合間を塞ぐように、銃火の火線のその展開が開始されたのが、たった今のことである。
されど、この時、センタリア軍の部隊の分布は、各艦が密集陣形をとりすぎてしまっていたのだ。
個艦同士が戦闘機動や隊列を整えるためや退避の旋回操艦をしようにも、そのような移動できる空き地とゆとりは、まずもって、この戦場にはなかったのである。
そのことに気づいた時、各艦の操舵手と艦長たちは、
唖然として絶望し、希望が打ち砕かれるのを感じるしかなかった。
悪夢は尚も続く。いや、ここからもまだ終わることはなかった。
自分たちが撃った火線や弾丸が、
自分たちや己等の友軍や僚艦を打ち貫いていく……
射撃攻撃のことでもそうであったのだ。
だが、今のこの場は、さながらおもちゃ箱の中の戦場、とも揶揄することが出来た。
すなわち……
……陸戦隊の兵士たちは神を呪った。
砦への着上陸に際しての、大きな隙となるだろうそこを狙った射撃や攻撃から守るべく、歩兵にとっての壁代わりになる、いわば自走式の壁と支援火点で、陣地にするため、ということではあったが……
そうした計算があっての、各艦艇の配置であったり編成と展開が為されていたというのは、今となっては彼等彼女達しか覚えているものが居ないだろう事実であった。
であるが……
いま、なんとかして機動をしようとした陸上艦たちに、降車して展開しはじめていたばかりの陸戦隊…とくに歩兵たち…が、
もろとも轢き潰されていくのがいまのこの現実でもあった。
戸惑う間もなく、絶叫と悲鳴と断末魔が木霊していった。
そのさまは、己が産んだ卵を捕食する飩魚のごとく……
そんなので、陸上艦の艦艇たちは、速やかな散開が計れなかった!と、艦艇の乗員たちは乗員たちで、等しく神を呪った。
呪いの果てが、いまここにある全てだった!