アルヴィスは太陽とともに……(6/10)
ブリッジ内中央の魔導オーブに、
光学監視班の映像をオーバーライドして呼び出す…
なんということか。
至近距離への砲爆の着弾によって、
ホコリと土砂煙には塗れているだろうが、ヤツは健在だった。
そうして灰色は、巻き上がった土煙の暗幕を突き破って、こちらをへと、高速で走行接近を開始していた。
目標ゴーレム、通常土ゴーレムの十一倍の高速で、わが本艦隊の艦隊形に、侵入を図る模様!!
「ならば、防空ブラストログを。
対地射撃のモードがあったはずだ!!」
やります、撃ち方はじめぇ!
今度は、このアルヴィスの保有する兵装の一つである、近接防空マイクロブラストログ・ファランクス・ディスペンサー、それの使用を解いた。
本艦の導入に際して、鳴り物入りで艤装がされた豪華装備の一つだ。
あまりにも未来的な仕様の性能と特性の諸元を持っている、とのことだった。
既存の兵科種別を見渡しても、いざ放たれたこのファランクスを、迎撃して撃ち落とすすべは、既存には存在しえない!とされるほどに。
本来は飽和攻撃がされた対艦ブラストログやらワイバーン騎士といった経空脅威の雨あられを、片っ端から撃ち落とせるほどのシステムだ。
ゴーレムなんぞ相手には、あまりにももったいない…ともいえた。
だが、それでこそだ。
あたりさえすれば、あんなゴーレムの一匹!
マグナホンも、今度こそ安心しようとして……
……げ、迎撃されました!
何ぃ!?
いま、ブリッジの窓の向こうを見ると、
確かにあの灰色から打ち上がった機銃らしき2本の火線によって、
解き放たれて発射されたはずの近接ファランクスが、その片っ端から、撃ち落とされていっている模様を見ることが出来た。
その結果、命中弾、ゼロ。
ありえない……マグナホンは唖然とした。
ありえないことが連続で、立て続けに起こっていく。
もはや、冷静でいれる人間なんて、この艦のこの場にも、この艦隊のどこにもいなかった。
皆が焦り、徐々に焦燥に駆られ出す。
──まだだ、まだ、艦の備砲はもう1系統残されていたはずだ。
マグナホンは呻いた。
…速射砲班、あれを射撃できるか?!
も、もう相手は至近距離まで接近しています!
かまわん、使え!
は、ハァッ!
そうしてアルヴィスから、再度の火線が吹き始めた。
こんどは、艦の副砲である76ミラ魔導連射砲と57ミラ魔導連射連発砲の、その小口径二種類による牽制と接近阻止のための銃火であった。
多数複数船体に装備がされた備砲たちが、砲口から魔導の火を吹いていく。
そうして魔導弾の雨あられが放たれていった……
連発連射されていった銃火が、灰色の機影ただひとつにへと降って迫っていき、周囲のそこら中を耕していく。
夾叉射撃の実現である。
だが……
敵機への、命中弾ゼロ!
「くそっくそっくそっ!!!!」
この魔導異世界・アリスティリーゥの魔導火器というのは、
なかなかの威力とは引き換えに、従来では、魔法魔術の発現により、物質的に莫大な熱量が発生してしまうというのが常であった。
打ちっぱなしに撃ち続けようとすれば、たちまちに砲身銃身も機関部も、文字通り焼き付いて、とろけてしまうのだ。
そのため、“速射”“連発”だとかと冠されていても冷却のために発射レートを落とさなければならない、というのが、この世界の現代的な、従来型火器ということであった。
そのために、弾幕というワードで呼ばれているそれなどを展開しても、
いまいち歯抜けで、スキがある。
集中統制させても、密度としてみたときには、まばらな感じがあり、
その只中を潜り抜けていきながら、現在、灰色は、最大速度での走行を実施中なのであった。
…もっとも、如何に“豆鉄砲”とはいえ、ひとたび完成した“弾幕”のそれを見舞ったら、いままでの土ゴーレムだとかネクロアーマだとかの鈍重なやつ相手ならば、効果はあったろう。
そのわけではあったのだが、
灰色の奴からすれば、その只中を回避していき突っ込んでゆく、と言う芸当ならば、
自機の高速速度性能を活かせば、存分にそれの発揮は可能なのであったのだ。
今回の灰色は自機の性能のそれに救われた、ということでもあったし、そして……
……やめ!撃ち方、やめ!
「なんだと? 射撃長! 射撃を継続するんだ!」
砲身過熱による射撃の中止です!
それに、無茶です、やつは完全にインラインに入られていて、そこらじゅうに我が軍の部隊が布陣していて……友軍に当たってしまいます!
「 畜生! 」
ならば、別の手段はないか?
「!」
さらにもう一度、このとき、僚艦の炸裂があった。
今度は自艦の8時の方角の、
4等戦列艦、トゥーリヴィクが轟沈する瞬間だった。
灰色は、ヤツは、疾走しながら射撃を同時に取っていた。
そしてその灰色は、徐々に、しかし着実に、このアルヴィスにへと近接の距離を詰めつつあったのが、今であった。
さらにもう1隻、二隻と沈んでいった。
それらは陸上スルーブと陸上フリゲートではあったが、
炸裂炎上していく僚艦たちの姿を見て、マグナホンは、怯えた。
尻に火がついた……という言い回しもあるだろう。
ここまてに、五隻が沈んだ。
マグナホンは、震えとともに、その考えは真っ青になった。