アルヴィスは太陽とともに……(5/10)
車長、本艦側方、10時の方角に、不明物体の接近を確認。
「 なんだ? ……出してみてくれ」
ブリッジ内・中央に据え付けられた魔導オーブから映像が浮かび上がる……
観測班の艦上光学観測装置からオーバーライドをさせた、
リアルタイムの警戒監視映像、その現物が表示された。
なんだあれは……太っちょのカカシかぁ?
死んでぶよぶよに腐ったカラスみたいだ。
ジョークのつもりかな。
敵味方反応識別はどうだ?
もしもこちら自軍のゴーレム魔道士ならば、
自分のくだらん魔導センスを畑の肥やしにでもしてこい! と伝えてやれ。
アイアイサー、くっくっく……
( 続報がはいったのはこのときだ。)
自軍側の友軍ではないそうです。
だろうなぁ! あんなのは、エルトールのイナカもんのすることだ!
アッハッハッハ、エルトールも追い詰められたものだな……
すでにこの時、センタリアの上陸部隊は、
ガリウス砦の砦壁が崩れたことで、そこからの着上陸のタッチに成功しつつあった。
それもあり、アルヴィスのブリッジの面々も、みな、懸念や脅威と考えるモノは、皆無であった。
「じれったい、撃ってしまえよ。」「ハッ……」
そうして、艦長たるマグナホンが、そう胡乱げに指示を下令しかけた……その時、
ヒュン、……──バゥン!
どうした!
……ふ、不明機、発砲を開始した模様!
なにぃ?
マグナホン以下、アルヴェンの面子の皆は、そろって声を上げた。
ボゥッ……という轟声が響いたのも、この次の刹那のことであった。
そのさまを見させられたアルヴィスの面々、ひいてはセンタリアのこの場にいる全部隊、全兵士が、衝撃に顔を固めざるを得なかった、そのような瞬間でもあったろう。
何に?
このアルヴィスの側方に停車し、搭載部隊の降車展開のために投錨していた僚艦の一隻が、ただの一発ほどで、炸裂。
続けざまに見舞われた次弾発によって、
……おそらくは装甲外板を貫通したその弾丸が、機関部の魔導エンジンを直撃したのであろう……
爆発大破、炎上したからである。
……ただの陸上艦がやられたのではなかった。
飛空艦艇ならば巡洋艦に分類されるような、三等戦列艦型、その艦名称・ホルフットが、いままさに、轟沈しようとしている場面であったのだ。
狙われやすいのだから除けただけだ、ともその人物は云っていたかもしれない。
ただ、新造まもないこのアルヴィスと、元より個人的に反りの合わないこちら指揮官を避けたかはわからないが、ホルフットは今回の攻略作戦での陸上艦隊側の旗艦かつ、その提督が座乗していた船でもある。
そしてセンタリア陸戦隊の、その陸戦隊本部指揮所の設置もされていた。
それが、いままさに! スクラップにかえられつつあったのだ。
この時点で、今回の作戦計画は破綻したも同然であった。
そうしたら、そしたら、それを実現したあの灰色は、その装備火器は……
それは、何によって、であるのか?
「な、なんだ、あの、カビ色の灰色のやつは!」
なんだあれは……よくみりゃあ、高射砲を担いでやがる!
畜生、ジェスター艇がやられた! ……つづいて、フレッド艦が!
「 な、、なんと……~~ッ!」
とんでもないことがはじまりつつあった…
…あの灰色の持つ高射砲は、こちらの軽艦艇や鬼車たちを、一撃で葬っていっている。
たった一撃で、こんな威力が?!
いまの間際は、さらに2隻、
陸上スルーブと陸上フリゲートが、攻撃を受けて被弾、撃破破壊されたタイミングであった。
煌々と燃え上がる被弾した陸上艦たちの炎光が、アルヴィスの艦橋の面子たちの顔を、火の色に照らし出した。
なんということか。
勝負はもう決したものと踏み込んでいたのに、
突如として被害をもたらしはじめたあの“灰色”に、この場のセンタリアの全員が、顔を青くし始めた。
だが、いまならば、まだ取り返しは効く。…マグナホンは目で睨んだ。
「射撃長!」
艦長、わかってます。
艦砲射撃、用意!!
てぇ!!
号令とそれを告げるベル音の後、
自艦の砲噴火器の使用が開始された!
28セント・魔導連装砲塔による魔導弾の射撃だ。
発射発砲される轟音が打ち轟いていく中、
爆光に横顔を照らされながら、マグナホンはその懸案が始末されることに、安堵していた。
……そうして自艦の艦砲射撃の轟音と揺動に揺られたあと、
全ての勝負はここで決したようなモノだ。……アルヴィスのクルーはそのように一笑に付していた。
しょせんはゴーレムがたったひとつ。
憐れな蛮勇を挑んだ、無名の灰色についてである。
さながら、この戦いが終わった後のこの地に無名戦士の墓地を打ち立てることがあれば、その墓標の形を、先程のあの奇っ怪なゴーレムの形そのままにしてやるのが良いとも思っていたほどだ。
(鎧袖一触、だったな。)
マグナホンもそう後始末をくくろうとして……
突破されただと!?
何、とクルーたちはざわめいた。
マグナホンも、その顔から笑いが消えた。