アルヴィスは太陽とともに……(4/10)
原理としてはそう目新しいものでもなく、
この世界の魔道士の中でも、特に高位難度の魔術でしか使えない大規模魔法、…
…デモニッション……の魔法魔術を、
威力と仕組みはそのまま、全自動マシン化、
建造費用と維持コストが甚大に掛かる、巨大な機械となったというデメリットはあるが、
魔道士の資質だとか、人的資源やそういった不安定要素に左右されにくい、
魔導機械機構式としたのである、というのが大きなポイントである。
もともとは、使用した魔道士が仮死状態となるほどに衰弱してしまう、
膨大かつ莫大な、魔力消費を要求される魔法であるのだ。
だが、そして、これには副次的な機能があった。
この異世界・アリスティリーゥの城や砦、重施設、一部の兵器……などには、
魔力魔法魔術を用いた(一部に錬金術を用いるものもある)、
対攻撃バリヤー、といったものが、けっこう普及した技術でもある。
それらは外敵からの攻撃…
…特に、弾道ブラストログに備えた対処として、各国の主要市街に近年から……
備えられつつある、という昨今の情勢があった。
すなわち、そうした安全保障を無効化する、“切り札”というのがこれであった。
城壁等の、
重施設等の防護バリアーに、逆位相の魔導エネルギーを高圧で流し込んでやることで、
その物理的な回路を焼損させ、
無理矢理にバリヤーの解除ができてしまう、という、決戦用装備なのである。
車長、バリアーに到達しました。
よぉし、……やれ。
ハッ!
「 始動、ヨシ! 」「稼働、よし! 」
「使用許可確認! 始動準備ヨシ、始動作動、スタンバイ!」
──はなてぇ!
発動機の始動に伴う膨大な魔力消費のためにハイテンポでの魔導エンジンの稼働とそれの維持が必要だということと、
それに伴い、艦の機動やそれ以外の機能作動が制限され、特に進行時の最高速は三分の一から四分の一以下に低下してしまう、というのと、
この場合は、艦体に設けられた端子をバリアに接触させた状態で作動させないと十全な効果が得られない、という弱点が、その短所であろう。
とはいえ、その装置の巨大さと、莫大なエナジー消費の故に、本来ならば飛空艦用として開発されながらも、
飛空艦として実用できる規模には収まりきらず、
そこからスピンオフがされる形で、
陸上艦の装置機構として試験装備がされた……というのが、そのそもそもの発端なのではあった。
……──雷電の如き光条が、閃いた!
「……最初からこれ(ファルヴィス)を出しておけばよかったものを!」
果たして、その効果と成果は、絶大なものであった……
けたたましい紫電が薙いだ。ただそれだけだった。
しかしされど……その規模と威力は絶大であった。
そして、
たった一撃で、難攻不落だったガリウス要塞の砦の砦壁に、穴が空いたのだ。
一種のオゾン臭というべきか…
焦げるような臭いが、辺り一帯を埋め尽くしていたであろう。
しかし、アルヴィスは最新鋭の新型艦であるために、給排気換気設備はやはり最新であり、
普通のよりも豪華にあつらえられてあったこともあって、
そのような不快さとは、ブリッジにいるブリッジクルーには、少なくとも無縁のものであった。
扉一枚、窓一枚、装甲外板一枚隔てられた先で、地獄が現出したかのような惨状が、蔓延していたのに……
車長、砦の人間が動き出しつつあります。
もういちど、見舞ってやれ。
ハッ……
もう一度、デモニッションが浴びせられた。
これこそが、副次機能のふたつめ……
歩兵や多少の装甲兵器、それから、トリだとかトカゲだとかの、各種の畜生……
陸上や直近にいる相手ならば、
まとめて粉砕か、それよりもむごい程度の手酷さで、無力化に持ち込むことができるのである。
ペイン・オーダー、という仇名が付けられた通りのものである。
地図上に指示を示した敵分布がまるごと吹き飛んで無力化されるこの様にちなんで、
マップ兵器。という通称もつけられているほどだ。
……二度、雷吼の音が、轟いたのだ。
二度の紫電によって、付近しばらくの何もかもが、威力そのものの電荷によって薙ぎ払われ、焼き尽くされた。
さながら、戦いの神の、その裁きの迅雷が、降り落ちたさまのようでもあろう。
そしてその行使をかざしたマグナホンにとっては、信ずる神の、その代わりの審判が託されたのであると己を感じ取るほどに!
いまここに至っては、そのような高慢と増長甚だしいことでもあった。
揚陸ゲート、ハッチ、開け!
陸戦隊、上陸戦の用意!
そうして、いま、アルヴィン級とその周囲の陸上艦たちとその随伴は、
この一角を崩したガリウス砦の壁の破損箇所から、
陸戦隊や鬼車の突入を図らんとする現在であった。
……雌雄は決しよう、としていた。
各自走陣地や、鬼車に、突入準備を伝えろ。
( ふっ、私の軍功が、ひとつ増えるかな?)
たしかにこの時、勝利の美酒のその美味の先触れが、このマグナホンの口の中で、さわり、と感じられたのでもあろう……
……
車長、本艦側方、10時の方角に、不明物体の接近を確認。
「なんだ?」
部下からの報告に、マグナホンは問を返した。