アルヴィスは太陽とともに……(3/10)
夕暮れ時のことである。
艦橋の窓からも、夕焼けの日の色が、差し込んでいる。
その夕日の光の熱が己の顔に照っていた。
それというのを、熱く感じる自身の顔の肌の感覚で、マグナフォンは自分の心の燃焼にくべられた、戦いの神の与える神聖なエネルギーかのようにも感じていた。
手応えがあった、……という感覚の、
その実感というのが、それの感情の正しい言い換えだったのかもしれない。
そして…、艦体全体が、轟音の響きに震えだした。
このアルヴィスの浮上走行装置に、火がはいったのである。
数分掛けて、ゆっくりと持ち上がる感覚……
人間により適性が大きく分かれるのがセオリーであるこの揺動だ。
大抵の魔導エンジン搭載兵器に通じる名物とはいえ、エンジン規模と艤装の特性と仕方の差異が手伝って、飛空艦と陸上艦とで、さらにその選別がふるい分けられる。
ともあれ、飛空艦のヤツラとも意見を同じくとすることが一つ合った。
陸上の、地べた勤務しか経験をしてこなかったであろう、センタリア国政府の官僚であったり、軍の高級将校らのことである。
きっと迎賓艇のエンジン始動程度にもこの世の終わりか?! と怯え慌てふためくアイツらのことだ。
この轟音と振動では、流石にアルヴィス・ホテルだのと与太を飛ばしてはいられまい。
通常、陸上艦というのは、同規模の飛空艦に比べて、数回りほどスペックや規模が落ちる仕様の魔導エンジンや作用機構構造類を搭載する。
冗長性の確保というのも理由の一つであったが、
もっとも大きな理屈として、それにより、調達コストと保守整備の手間と費用を手柔らかく済まさせよう、とするコスト管理計算の面での意味も無くはなかった。
……そしてなにより、飛空艦、飛空船では、長時間巡航の際には多量の冷却水が必要であり、
空を飛んで移動する飛空船種では適当な川なり湖なりを進行コース上に見積もっておいて、
その時が必要になったらば、そのまま船体を水上に着水させれば、それだけですむ、……という実際がある。
ただ、陸上艦では、地上を走行する関係で、それらの都合がつきにくい。
なので、出力の規模を落とした上で、
さらに出力の数割から半分以上を冷却水生成用の稼働をさせてやることで、この魔導機関の莫大な発熱という問題を、力ずくで対応させている。
これにさらに空冷機構構造も取り入れたことで、現代的な陸上艦というのは完成した……という軍事史があった。
しかし、このアルヴィスは違う!
大型飛空艦と同規模同等の高性能魔導エンジンを搭載装備積載しているのだ。
しかも、その大型飛空艦種と同じく、それらエンジン類が、シフト配置のコンバインド統合がされているときたもんだ。
出力特性がちがう二種類の発動機が装備されており、
おおまかには二連装ずつ装備されたそれを、標準時には、片肺ずつ稼働させる。
そうして稼働時においては余剰となる側の肺、たるもう片肺で、冷却用魔導装置の作用をさせる。
これにより、強力な出力とそれによる推進を、長時間に渡り、維持させることができるのである。
それが可能なほど、強力な魔導エンジンを搭載しているからだ。
そして……
「車長、もうすぐあと1.5キールで、ガリウス砦本陣に到達します」
「敵の阻止迎撃、規模はわずかです。」
「経空敵、各方位にはみられず。」「陸上監視、変化はいっさい見られず!」
(よぉし、いいだろう……)マグナフォンは不敵に笑んだ。
「“D・I・S”(ダイス)を始動させる。着圧機に、魔力蓄圧を開始しろ……」「ハッ!」
ブリッジはにわかに騒がしくなった。……
即座に従兵はブリッジ要員に復唱する。
聞いたブリッジの機関担当員が、伝声インターホンで、機関ブロックに在中する担当機関士にへと、遠隔で伝声する。
指示が伝わった後、始動のベルのファンクションが鳴り響く。機関士がそのような操作をした、という返答だ。
ブリッジの中は再び喧騒が静まり返る……
“D・I・S”とはなにか?
その名も デモニッション・インパクター システム。
三胴艦であるアルヴィスの、その前端二胴に据えられている、必殺装備である。
いわば魔導式・対地啓開敷設物着圧爆破処理装置、というべきものであり、
大まかには地面上や地中、あるいは何らかの構築物……といったものを、
主機のうちの片肺を、この機構のために全開で始動、
艦の装備設備の一つである特・大型魔力蓄圧装置に蓄積……して増幅。
それを大圧力で照射着圧してやることで、破砕、破壊、もしくは機能誤作動による自壊自爆に持ち込まさせる、というのが主機能の機構なのである。