2(2/18)-黄金色の森の向こうへ-
###2(2/18)-黄金色の森の向こうへ-
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とりあえず道具を片付けた後、おれは悩んだ。
とりあえず、脚立を椅子代わりにして座りこんだまま、悩むに悩んだ。悩み続けた。
台所の上のコップは、水を飲み乾した後で、空になっている。
秋風に当てられて冷えた身体は、ゆっくり時間をかけて、真夏の部屋の常温に戻されていた。
寒暖が堪えたのか、身震いがする。
その一方で、
冷房の効いている部屋の外れの台所ということもあってか、俺の身体からはじっとりとした汗がなぜだか終わりなくあふれでてくる。
いや、ごまかしはよそう。脳と精神が今しがた目撃した意味不明の景色に対して、機能エラーをきたしているのだ。
今は夏だぜ?
初夏とはいえ、今日の最高気温は31度。今付けたテレビのお天気情報がそう言っている。
それが今見たのはなんだ、今全身で感じたのはなんだ、冬になりかけの秋の景色とその木枯らし、である。
身体の底が、奥底なく冷えてしまっている。
……まったく、出来のいいホラー映画よりもさっきの光景は良く出来ていたよ。HAHAHAHAHA、
びっくらこいたぜ、テレビ局かなんかのどっきりだろ? まったく親父やカアチャンも、引きニートの治療に荒療治使いやがる。
ははははははははは
ははははははは、は、は、……――――、、、
「……………」
「………」
「……」
立ち上がって、勝手口へと歩いていく。
もっかいドアを開けた。
秋だ。森だ。
先ほどと変わることのない景色。
見渡す限り黄金色の木々が立ち並んでいて同じ色の落ち葉も積もった、銀杏摘みにいけそうなくらい見事な程の、秋の森が広がっていた。
さっきと変わらない、変わるところのないその情景。
バタン、と閉めた。
「……」
とりあえずトイレ行こう。
……………
「………ッ!」
トイレから出た俺は、一目散に支度を整えることにした。
とりあえず、身の代は親父の登山用具を借りればいい。
親父とカアチャンが昔趣味で使っていたというでかい山岳登山用アウトドア・リュックの片割れ。たしか俺の部屋の押し入れにあった筈だ。
それから、水筒に水を詰めないと。それから……
好奇心が勝った、という結果であった。
ドッキリだとするならそれはあれだが、しかしどうにも気になってしまう。
異世界もの好きだから、ということもないが……でも、
玄関から家を出た。買い出しの為だ。
近所のドンキに行き高カロリー飲み物のいちごオレと練乳コーヒーを調達、付近の100均でその他の消耗品も手に入れる。
いきがかりにある弁当屋で往路で注文、帰路で回収。
金はどうしたかって?
このわたくし、不肖・道寺橋祐太、なんと毎週こづかいを貰っているのだ。
審査がまだ厳しくなかった頃に手に入れた楽天カードに、毎月数万円ほど親父が振り込んでくれている。
まぁ、火事場を見に行くようなつもりの、気分だった。
家に帰り着いた。
勝手口の扉は半開きになっている。
ドアノブを掛けるのをし損なっていたのだろう……か、
「ここまでやったら後一息だろうに……」
扉の前の俺は、もう着替えも装備も完全に済んだ状態だ。
足首を遊ばせて慣らしをする。フローリング敷きの台所の床に土足で上がった結果の、登山靴を履いた俺の脚の音が鳴る。
「さて……」
心配はあろうが、50メートルの探索範囲くらいだったら、大丈夫だろう。
そして、扉を開けた。
ばっ、と風が吹き込む。
時期外れな上に家の中にいるならまず感じることがない筈の、木々と枯れた葉と草と土の臭さが入り混じった、森の匂い。
それがこれでもか、と位に俺の鼻をくすぐらせる。
扉の向こうにあるのは、場違い極まりない、黄金色の、秋の森の光景。
「……よぉし、」
こうなりゃ自棄だ!
シューズを履いた俺の脚が、一歩その中へと踏み込んだ。