アルヴィスの栄光(4/4)
軽い雨だったはずが、にわかに気配を強くし始める……
「車長、ガリウス攻略部隊から入電、飛空艦の検知ピケット網に、大型ブラストログの発射を確認との旨! 迎撃を命令するとのこと!」
「先出していた陸上艦隊からも同様の感知あり、との無電! 車長!!」
「……まさか用心はしておくべきだったかな? ……対空戦闘、用意!」
……──訓練ではない、実戦である。繰り返す、訓練ではない!
発令とともに、ブザーとベルが、ブリッジの中でけたたましく鳴り響いた。
対空検聴が最大射程モードにセットがされて、艦のマストに据えられた魔導捜索探知儀が、唸りをあげるが如くに出力が高められる。
通信用のリンク回線に、先出する艦艇群たちからの捜索評定情報の同期が行われる。
並行されて行われていたこれらの捜索情報がジョイントされると、そうしてこちらに向け飛来中の経空目標……大型対地ブラストログ……のその弾影を、捉えることに成功した。
ここまでの一連は、そう時間を要さなかった。
そして……
……艦隊防空用対空ブラストログ、発射用意。
弾体コンディション、チェック。各弾体、問題不良等なし。
目標諸元入力、発射用意完了。
うてぇ!
艦首のブリッジ直前に設けられた、
コーギーD・対空ブラストログ発射システム。
それが作動して……稼働し……
「………………」
遠くはるかのことなので、ここから目視することはできない。
しかし、この艦から発射されて飛翔し、飛んでいったコーギーDのブラストログは、
そのエルトール国の対地ブラストログにへと、命中と着弾が、もたらされたのであろう。
……しばらくの硬直のあと、雰囲気は和らいだ。
というのを、発射時の瞬間、配圧の変化による冷却配管からの水の吹き出しが、プシャァ! と己らへ吹きかけられたあと……
マグナホンたちブリッジクルーたちへ、断続的に吹き付けてくるそれらが、
まるで祝杯のシャンパンかけかのようにもたらされながら、各々らは自信とともに表情を深めた……
車長!
「!」
しかし、ブラストログの発射とともに、伏兵……も準備されていたようだ。
南西の方角から、敵航空隊と見られる検聴を確認!
「ブラストログの発射とともに、引きつけたのち、艦砲射撃を開始しろ。」
……! りょ、了解!
「本艦からのデータリンクを、前方の陸上艦隊に廻せ。飛空艦にも役割を分けてやるか……飛空艦隊にもデータの提供を。エリア防空戦闘を開始する!」
オペレーションは組み立てられ、そうして、タスクたるその作業が、開始された……
「………」
連発砲が速射され、防空ブラストログが空を飛び、艦砲射撃が、阻止として、薙ぎ払った……
そのたびに冷却配管からの水分水滴の噴射をクルーたちは浴びながら……
十数分に及ぶ、砲声と弾雨の打ち出し、撃ちっぱなし、というのが、……繰り広げられた後だ。
向こうさんが発射した、対艦ブラストログや、空中発射のモノであったらば、その発射母体となった、飛竜や巨鳥の諸々、
それらの数波に及ぶ波たちは、打ち砕かれ、阻止され、潰され、落とされていき……
……敵反応の消滅を検知、迎撃に成功。
「ふぅ……」
すべては地平の彼方で繰り広げられていた。
一匹ひとつほども、こちらへの脅威圏には入れなかった!
祝杯かのように掛けられる水の噴射を浴びながら、アルヴィスのクルーたちは勝利を感じた。
艦長であるマグナホンは息を下ろしたし、そしてブリッジや各クルーも、その安堵とするものは同様であった。
陸上艦は、陸の守護天使である。……マグナホンは上機嫌となり、そして厳かな感情で、そう自負を固めた。
まるでそのアルヴィスの健闘と奮闘を称えるかのように、ぱらつきほどまでに落ち着いて雨は降り止み、
午後の空の陽光が、雨雲のはざまから、その艦体にへと降り注ぎ始めた……
まるで絵画かの如き、壮大かつ勇壮なその場面と光景である。
……のであるが、
しゃ、車長、陸軍部隊から、抗議とのことが、
「 は?」
……しかし、
このときの砲撃の衝撃波で、鼓膜破裂による難聴や、肺などの内蔵損傷に至ったモノらも、この艦の周囲だったりで暴露していた兵士らには、多数続出したのだ。
陸軍兵士らは、戦いも始めてないのに、死屍累々、というありさまだった。
側方を通過していた一般陸軍兵士らの、集められていた人数が人数なのであって、これから一日、アルヴィスは移動野戦処置病院と化した……というのは少し先のこぼれ話ではある。
そして、起きていた出来事がいかんせん一瞬に近いタイム・レスポンスのさなかに起きていたので、
そもそも、艦の以外の人間で、今起きた出来事が理解できて、それをしているものたちは、皆無であったのだ……!
「~~~~!」
この兵士どもらを、味方を守ったはずなのに、
こうも不満と否定と抗議と文句が舞い込むのだ! やっていられない……
とはいえ、陸戦艦隊の乗員たちも、果たしてさほど気にしているところではない。
なるようになるだけさ。それであるが、君たち、なるようになりたかったか?
そう訪ねかえしてやれば、誰だって己の命が惜しいことくらいは、相互に理解し合えることが出来る……
はずであったが、
その、車長。前方の飛空艦隊から抗議が、“われわれに当てる気か!”と……
本艦からの飛来弾が至近に着弾した、とのことで、
ガリウス要塞攻略本部から、中止しろ、との正式な命令が!
「クソォ!」
開戦一日め、のことであった。
……ガリウス市までは、まだ遥かなり。
* * * * *